放送内容

2015年12月 9日 ON AIR

空気がよめないと言われ続けた女性の苦しみ

小さいころから「空気が読めない」「変な子」などと言われ続けた女性
木下直子さん(44)。
彼女が苦しみ続けた40年とは...。


"記憶力のいい天才少女?"


1971年、東京都・調布市。
中村家の長女として生まれた直子は弟と妹の世話に追われる両親のために
小さいながらに家のお手伝いをするしっかりした女の子だった。


読み書きを覚えるのが早く、両親は直子を天才なのでは?と思う事もあった。
一方で運動は苦手。特にダンスの様な人の動きをまねる動作が出来なかった。


そんな直子が小学生になると授業中に困ったことがあった。
なぜか習字の授業をやっていた隣のクラスの墨汁の臭いが気になってしょうがない。
さらに時計の針の音がうるさくて眠れない事もしばしば。


でもしばらくするとケロッとしている。だから両親はそんな直子を気にしなかった。
実際、直子は成績優秀。テストで高得点を取るのも珍しくなかった。


しかし、直子は算数の授業中に突然国語の質問をするなど
他の生徒達にとっては不可解な行動をとることも多かった。


実は、直子は暗記する科目は得意だったが、算数の様な応用が必要な科目は苦手だった。
苦手な授業のときはじっとできない。
一方で好きな本を何十回も繰り返して読むなど興味のあるものは熱中し、
周りが見えなくなる。


さらに、こんなことも...。
近所にいつも自分に対し吠える犬がいた。直子はとても迷惑していたが、
ある日、この犬が死んでしまい、同級生の一人が悲しみのあまり泣いていた。
慰める他の同級生達。そんな中で直子はこういった。


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「あのバカ犬が死んだの?よかったじゃん」
直子にとって自分を吠える犬が死んだことは嬉しい事だった。
しかしこの言葉を言ってしまったことで直子は同級生を傷つけてしまった。


空気が読めず人を傷つけてしまう直子。
一体何が原因なのか?


""空気が読めない"という事がわからない"


直子が最も苦手だったこと。
それは空気を読むという事だった。
実は直子はある発達障害を抱えていた。


それは「アスペルガー症候群」という発達障害。
知能の低下はないがコミュニケーション障害や興味の偏りが見られる先天性の疾患で
脳に原因があるとされており、人口のおよそ0.3%に見られるという。


一番の特徴は人の気持ちを想像するのが苦手だという所。
その為、テストの点数が低い同級生に「バカ」と言ったり、着ている服が変だと言ったり
思ったことをすぐ口にしてしまい、周りの人を傷つけてしまう。


先生に注意されても何が悪いのかさえわからない。
そういった事を繰り返すうちに同級生からは変な子と言われるようになった。


もちろん直子も悪気があってやっているわけではない。
大勢で話すときはあまりしゃべらず表情を見て合わせるようになっていった。


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テストの点のことは言わない、人の服装を指摘しない。
言っちゃダメな事をノートに書き連ねる毎日。
今日は変な子だと思われなかっただろうか?
小学生の直子はそんなことを常に思いながら一人で苦しんでいた。


"さらにもう一つの発達障害が"


直子はアスペルガー症候群に加えもう一つの発達障害を抱えていた。
それは「ADHD(注意欠如・多動症)」という発達障害。


落し物や忘れ物の不注意が多く、没頭すると過剰に集中する。
直子のこの特性は中学生になると次第に目立つようになった。


部屋は足の踏み場もないほど散らかっていた。
親が何度注意しても片付けることができない。
通常、物を整理する際に綺麗になった状態をイメージしてそれに向かって片づけていくが、そのイメージが出来ない直子は何をどう片付けたらいいのかはわからなかった。


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学校でも自分の机の中は教科書やパンなどを詰め込んだぐちゃぐちゃな状態。
直子にとって片付けるという事はとにかく詰め込むという事だった。


その後も直子は周りが理解できない行動を繰り返していく。
やってはダメな行動をメモし、注意しながら行動するがまた別の事をやらかしてしまう。
自分がやってしまったと気付くときは相手の反応があった時。
そしてその時はもう取り返しのつかない状態だった。


どうして自分は周りとうまくやっていけないのか?
何が良くて何がダメなのか?それがわからない。


この頃の直子は勉強に励むことしか自分の価値を見いだす事ができなかった。


"社会に出ても苦難の連続だった"


その後、直子は得意な語学を生かし、小論文で大学に合格した。
その頃出会ったのが9歳年上の木下英彦という男性。


英彦は、多少変わった所のあるものの、素直で嘘を付かない直子に惹かれ
1995年に2人は結婚した。


しかし、結婚後も直子の苦難は続いた。
相変わらず部屋を片付けられない。料理中のガスは付けっぱなし。
一歩間違えば大惨事という事もあった。英彦も妻の行動に理解が出来なかった。


また、直子は横浜にある運送会社に就職。
しかし時間が守れず、決められたルールにこだわり状況に合わせて臨機応変に
対応することが出来ない直子は職場で孤立。


複雑な社会のルールに対応できない直子はこの会社を1年で退社。
次に転職した会社も同じような理由でクビとなり仕事が長続きしなかった。


直子は27歳の時、長女のなつきを出産する。
待望のわが子の誕生に幸せを感じる直子だったが、育児は
物事に優先順位をつけることが苦手な直子にとって混乱の連続だった。


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"ママ友とも上手く付き合えない"


娘のなつきが幼稚園に入園すると、
ここでも直子は園児の母親とうまくコミュニケーションを取ることが出来なかった。


お世話になった先生が退園する際、クラスの親たちが寄せ書きプレゼントしようと企画。
直子にも寄せ書きを書いてほしいと色紙を渡された。
しかし、いつでも出来た時で良いと言われ明確な期限を言われなかった直子は
先生が退園する前日になってもその色紙に寄せ書きを書かなかった。


直子のせいで先生に寄せ書きが渡せなかった。
そんなことが続くうちに、園児の母親たちからも孤立するようになっていった。


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そしてそんな母のせいで悲しい思いをするのはいつも娘のなつきだった。
なつきが小学生になる頃、友達の家に遊びに行くと、ある衝撃を受けた。
部屋がとてもきれい。細かい事に気づき頼りになる友達の母親。
自分の家では信じられない事だった。


直子にその事を伝えるなつき。
なぜ自分の母親は違うのか?恥ずかしささえ感じるようになっていた。
直子は娘の言葉に傷ついた。


小さいころから同じことの繰り返し。
ついには娘まで傷つけてしまった。もう何をどう頑張っていいのかわからない。
そんなある日。運命を変える出来事が訪れた。


"ついに自分の障害を知る"


たまたま、発明家エジソンの事を調べているとある事に気が付いた。
自分と似ている部分がいくつも見つかったのだ。
エジソンが持っていた特性、それがアスペルガー症候群だった。


直子はすぐに心療内科に行き、医師に自分の症状を事細かく伝えた。
すると医師からはADHDを持ったアスペルガー症候群であると診断された。


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初めて生まれ持った発達障害があることを知った直子。
しかしショックはない。むしろ今まで自分を責め続けていた行動の原因が分かった事に
心から安堵していた。


家族にこの事を打ち明ける直子。
夫の英彦は理解してくれた。娘のなつきも最初は戸惑いがあったものの
母の障害を少しずつ受け入れてくれるようになった。


そして家族は直子の苦手な事をサポートするようになった。
部屋の片づけは夫の英彦の担当。娘のなつきは先の予定を細かくカレンダーにメモ。
このように直子は家族に支えられながら障害と向き合っていく事が出来るようになった。


そして現在。
直子は家族の協力も受けながらインターネットで雑貨卸売をする会社の代表を務めている。その傍ら、講演も行い、この発達障害が広く世間に認知されることを願っている。

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