放送内容

2018年1月 9日 ON AIR

命を奪ったハンバーガー

1993年、アメリカ・ワシントン州レッドモンド。
この街で恐ろしい事件は起きた。


"突然、愛する娘が腹痛に苦しむ"


カイナー一家は外出中、お腹が空いたという10歳の娘、ブリアンナのために
軽い気持ちでハンバーガーショップに立ち寄った。
これが悲劇の始まりだった。


それから何事もなかったが、3日たったころ...
強い痛みがブリアンナのお腹を襲う。


そして、激しい下痢。
両親は少し休めば治るだろう...そう思っていたが、
食欲は全くなくなり、お腹の痛みは増すばかり。
下痢止めを飲んだが、
症状はさらに酷くなり、血便が出るようになった。


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両親は慌てて娘を病院へ。
あまりの痛さに泣き叫ぶブリアンナ。しかし、この病院ではもっと奇妙なことが。


なぜか同じような症状の患者が何人も運び込まれていたのだ。
患者の便を調べると、検出されたのは...腸管出血性大腸菌「O157」だった。


「O157」は激しい腹痛に下痢を引き起こす最も恐ろしい病原性大腸菌の1つ。
胃酸の中でも生き残り、大腸、そして他の臓器へと広がり合併症を引き起こし
死に至る事もある。


元々、「O157」は今から36年前、アメリカ大手ハンバーガーチェーンの肉を
感染源としたとされる集団食中毒により初めて発見された。


"病原性大腸菌「O157」の恐ろしさとは"


そして今回またもアメリカで起こった集団食中毒。
全ての患者が食べていたもの...それが当時全米で1100店舗以上あった
大手ハンバーガーチェーンのハンバーガーだった。


あの時、ハンバーガーを食べ「O157」に感染してしまったブリアンナ。
血液検査を行うと、赤血球は破壊されていた。
この症状は溶血性尿毒症と呼ばれるものだった。


「O157」などの大腸菌が出すベロ毒素は、青酸カリの5000倍の毒性を持ち、
赤血球や血小板を破壊していく。
このベロ毒素は分子構造上、大腸から腎臓や脳に移りやすく
急性腎不全や急性脳症を引き起こす。


また下痢止めを飲んだ事も、溶血性尿毒症になった原因の1つ。
薬で腸の動きを抑え便の排出を止めること。
つまり、毒素も排出しなくなってしまったのだ。


腎臓が機能しなくなると血液を作り出せなくなり、老廃物を排出できなくなる。
ブリアンナはキレイな血液を循環させるために透析が行われた。


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この時「O157」の被害者は、ブリアンナのいるワシントン州だけでなく
アメリカの各地で起こっていた。その数は、なんと600人以上!


「O157」の発生源は牛の腸。
牛を処理する際に、菌が肉の表面に付着してしまう場合がある。
表面に付着した菌は、増殖していくのだが...肉の中へは侵入できない。


「O157」は日本では、75度以上で1分以上加熱すれば死滅すると言われている。
ステーキなどは表面がしっかり焼かれるため、菌が死ぬ。
中がレアでも、菌は侵入していないのでステーキでの被害はほとんどない。


だが、ハンバーグの場合は菌の付いた肉がミンチされ、混ぜる事で
「O157」が中に入ってしまい増殖してしまう。
中までしっかり火が通っていなければ菌は生きている可能性が高いのだ。


"店と業者で責任のなすり付け合い"


それならば、なぜ加熱しているはずのハンバーガーで多くの被害者がでてしまったのか?
保健局の調査が行われた。


「O157」の潜伏期間は、3日から1週間ほど。
一方このハンバーガーショップでは、肉が納品されたら2日ほどで使い切ってしまうという。
つまり、原因に気づいた時には、被害者たちが実際に口にしたものと同じものはない。
だからいつも原因食品の特定が難しいという。


入院してから1週間。
両親は、ブリアンナが毒素に勝つのをただ待つしかなかった。
しかし、突然のけいれんが彼女を襲う。


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けいれんを起こしたことから、毒素は脳まで達していると考えられた。
そしてアメリカ各地で、命を落とす被害者が。


そんな中、ハンバーガーチェーンの代表が会見を行った。
それは驚きの内容だった。なんと、牛肉加工会社に責任を押し付けたのだ。
だが、加工会社も反論。互いに責任をなすり付けあった。


一方ブリアンナの昏睡状態は、なんと1か月も続いた。
彼女の大腸が壊死し始めており、厳しい状況だった。


壊死した大腸を取り除かないと命の危険が及ぶため、
昏睡状態の中、手術は行われた。


そして、昏睡状態から40日。
ブリアンナは奇跡的に意識を取り戻した。


その後、辛いリハビリの毎日が続き、入院してから189日。
ようやく退院できるまでに回復した。
ブリアンナは、最も長い闘病生活を送った被害者となり勇気のシンボルとなった。


"店側のずさんな管理が発覚する"


一方、大手ハンバーガーチェーンに新たな疑惑が。
被害者が出ているのは、どれも古い店舗。
実は、ハンバーグを焼くグリルが古い店があり、高温になりにくいことが判明したのだ。


ワシントン州の法律では牛肉の調理は68度以上と決まっていたのだが、
グリルの点検を怠り、会社ぐるみで無視していた疑惑が持ち上がった。
しかも忙しいあまり、ハンバーガーを十分に加熱せず客に提供していたという。


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最終的な被害者は、623人。
そのうち、入院が必要だった患者144人。そして4人の幼い命が失われた。


全米史上最悪の食中毒事件。
食肉管理の問題に当時の大統領クリントンも、検査員により多くの権限を与え、
衛生検査を徹底するという声明を発表した。


さらに加熱温度を上げることや、肉製品の販売には警告ラベルの徹底など
国をあげて食肉管理の法律が見直される事件となった。


ハンバーガーチェーンは、被害者に総額100億円以上の賠償金を用意。
ブリアンナには、当時の全米史上最高額となる17億円以上の賠償金が支払われた。


現在、ブリアンナは34歳。
今は健康的な体を取り戻しているという。

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