薬物中毒のような甘い物の恐怖
2011年、関東地方。
極端なダイエット中の40代の女性がいた。
彼女の食事は野菜とコンニャクのみ。
このメニューを4か月間も続け、小柄な彼女は、50キロ台から30キロ台へ。
なんと16キロも落としていた。
ショッピングセンターに勤めながら、ストイックなダイエットを続けていたのだが、
ある出来事が彼女を一変させることに。
それはこんなささいな事からだった。
ある日、職場の後輩がお土産のドーナツを持ってきた。
もともと甘いものが大好きな彼女。ダイエット中は、見ないようにしてきたのだが...
せっかくの後輩の好意を、受け取らないのも大人気ない。
しかしこのたった一個のドーナツが彼女を大きく変えてしまう!
頑張っている自分へのご褒美に、1個だけと思いドーナツを口に入れた。
すると...雷に打たれたような衝撃が。4か月ぶりの甘さが全身を貫いた!
甘みと同時に不思議な幸福感...気づいたら一気にドーナツを平らげていた。
すると、なぜか心に変化が...彼女の脳は、ひたすらに甘いものを欲していた。
たった1個のドーナツが、抑えていた欲望の扉を開けてしまったのだ。
仕事が終わった途端...職場を飛び出し、向かった先はスーパーマーケット。
ドーナツに手を伸ばすその欲求は、ダイエットの気持ちに完全に勝っていた。
実家暮らしの彼女の家族は、両親と姉。
実は4か月前、彼女がダイエットを決意したのは...妊婦の妹が実家に来ていて
妹のマタニティウエアを着てみると妊婦の妹と変わらない自分の体型に衝撃を受けたため。
その場で家族の前でダイエットを宣言していたのだ。
だから...甘いものを食べている姿を見られたくなかった。
ドーナツを口に入れると...脳を刺激する幸福感がよみがえる。もう止まらなかった。
甘いものを食べたい衝動が止まらない
翌日、朝から頭の中は甘い物の事でいっぱいになっていく。
仕事中もとにかく休憩時間が待ち遠しい...。
休憩時間に入ると同僚から逃げるように喫茶店へ駆け込み、パフェを2つ注文した。
パフェが目の前に来ると...まるで飲み込むように頬張った。
周りの目など気にならないほど夢中で食べた。
不思議なことに食べた直後は活力が湧き、気分がいい。
だからまた食べたくなり...帰りのコンビニで買ったのは菓子パン5個。
リバウンドの恐怖より甘いもの。
そして家族に見つからないようトイレにこもり、思う存分甘いものを食べた。
やがて彼女は...仕事の休憩1時間をどう使うかで頭が一杯になった。
猛烈な勢いでケーキを平らげ、喫茶店をはしご。
貴重な1時間を毎日こうして費やした。
やがて仕事中も菓子パンを潰して、制服のポケットに入れた。
トイレに行くと菓子パンにかじりついた。
ダイエットをやめて2か月が過ぎ、体重もあっという間に7キロ増えた。
しかし、それももうどうでもよかった。
電車の中ですらその食欲は抑えられない。
冷ややかな視線を感じても、気にしていられない!
なんと最寄り駅までの30分間で、10個のドーナツを食べきっていた。
それでは飽き足らず...菓子パンに手が伸びる。
甘いものに使うお金は、1日で1万円を超える事も...
この頃、給料はほぼ甘いものに消えていたのだ。
ドーナツを食べて衝撃を受けた日からおよそ3か月、ついに体に異変が。
朝起きるのが辛くなった。体が重く頭がまわらない。
家族は痩せすぎていた頃よりは健康的に見えていたため、異変に気づくことがなかった。
しかし、甘い物にとらわれた彼女の体は確実に蝕まれていた。
彼女が陥った「砂糖依存」とは
やがて手に力が入らなくなった。
着替えるのも億劫になり、制服に上着を羽織って出勤。
職場では女性の様子を見て同僚が心配するも、甘い物を補給しトイレから出てくると...
別人のように元気に。
そしてお金が底をつき、甘いものが買えなくなると、
家族が寝静まるまで待ち、台所の砂糖に手を出す。
それはまるで薬物中毒のよう...そしてついに手の痙攣が止まらなくなった。
翌日...手の震えは治まったが、不安になり何だったのか調べてみた。
すると、そこには自分と同じ症状から救われたという情報が。
早速その病院で採血し、血液検査が行われた。
検査の結果原因が判明する...彼女は重度の低血糖症による砂糖依存症だった。
砂糖依存。別名「甘いもの中毒」とも呼ばれる、砂糖を大量に取らずにいられない症状。
砂糖は「マイルドドラッグ」と呼ばれるほど、高い依存性があるといわれている。
健康体であれば甘いものを食べても、一定量で満足する。
しかし、極端なダイエットや妊娠・出産・成長期など
体の栄養バランスが大きく崩れている時に砂糖をとることで中毒症状を起こし、
依存を引き起こすことがあるという。
糖分を体に入れると、血糖値が緩やかに上がる。上がった濃度を下げるため、
膵臓からインスリンというホルモンが分泌。そのため血糖値は再び安定する。
しかし糖の摂りすぎによって血糖値が急上昇すると、インスリンの分泌量も増え、
血糖値が下がりすぎてしまう。これが続いてしまうのが低血糖症。
今度は下がりすぎた血糖値を上げるため、体の外から糖分を欲するようになってしまうのだ。
また、脳内でも依存が起きている。
甘みを感じると、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが分泌。
砂糖を取れない不安やイライラを解消する、カンフル剤の役割を果たす。
この快感を得たくて再び砂糖を欲してしまうのだ。
砂糖の呪縛から逃れられるのか?
診断は重度の砂糖依存...そんな彼女を救うある治療法があった!
重度の砂糖依存となった彼女に施されたのは、オーソモレキュラー療法という治療。
まずは75グラムのブドウ糖を飲み、その後の血糖値の値を5時間にわたって観察する
「糖負荷検査」を行う。
さらに60項目以上にわたる精密な血液検査により、足りてない栄養素を解析し、
医療用サプリで補うというもの。
治療を受けた結果、甘い物を自分から欲しいという思う事は
ほとんどなくなったという。
こうして彼女は見事に砂糖の呪縛から逃れることができた。