なぜ臭い!?鍋王者
タラ
第961回 2008年11月30日
鍋料理の美味しい季節!街行く人に、お鍋でよく食べる魚は?と尋ねると、ほとんどの人が
タラ
と口を揃えます。そこで今回は鍋の王者、タラの秘密に迫ります。
タラの魅力は、「さっぱりとした味わい」に加えて
「他の魚にはない独特の香り」
ですよね。そこで、獲れたての新鮮なタラはもっといい味と香りがするはず!と矢野さんは日本有数のタラの水揚げ量を誇る、宮城県の石巻港に向かい、新鮮なタラの鍋料理を作ってもらいました。しかし、頂いてみると、味と食感は絶品なのに、独特の香りが全くしなかったんです。では、あの香りは一体何なんでしょうか?神奈川県の水産研究所に伺うと、専門家が取り出したのは、タラの香りの元となっているという謎の液体。匂いを嗅ぐと、確かにタラの香りでした。しかし、この液体はタラから採取したのではなく、
「トリメチルアミン」
と言って、魚介類が腐敗するときに生まれる匂いの主成分を薄めたものだったのです。実は、
私達がいい香りだと思っていたタラ独特の香りは、タラが腐りかけて放つ腐敗臭だった
のです。
新鮮なタラは香りがしない!?タラ独特の香りは、なんとタラが腐りかけて放つ腐敗臭だったのだ!
ということは、タラは腐りやすいのでしょうか?そこで矢野さんは東北大学を訪ね、この日
水揚げされたばかりの「タラ」と足が速い魚代表「サバ」の鮮度を比較
してもらいました。どちらも10℃以下で運搬され、港を出発してから5時間ほど経過しています。早速鮮度チェッカーで測ってみると、サバはまだ刺身で食べられる数値なのに対し、タラはすでに生食が不可能な数値を示したのです。さらに常温で6時間置いた後では、サバは火を通せば食べられる数値でしたが、タラは腐敗を示す数値になりました。
タラは、サバよりも足が速く腐りやすい魚だったのです。
タラの足が速い理由は「たらふく食べる」という言葉の通り、エサの取り方にあるといいます。そこで、タラを解体し、胃の内容物を見てみると、まだ消化されていない丸呑みしたイカやカレイ、なんと石までも出てきて、まさにたらふく状態でした。実は、タラは底生魚といって、エサにあまり出会えない、暗く深い海に棲んでいます。そのため、出会った獲物はとにかく丸飲みしてしまうため、一緒に近くの砂利や石も食べてしまうのです。そして、この大量のエサを消化するためタラは他の魚よりも強力なタンパク質分解酵素を持っています。
タラが死ぬと、この分解酵素が内臓から染み出し、自分で自分を消化してしまうため、タラはとても腐りやすい
のです。
さて、スーパーなどで販売されているタラは、鍋料理に使われる「マダラ」、すり身がカマボコやはんぺんになる「スケトウダラ」、そして、西京焼きが有名な「銀ダラ」があります。でも、なんで「マダラ」の焼き魚は聞いたことがないんでしょうか?そこで、マダラと銀ダラの塩焼きを街の人に食べ比べてもらうと、マダラは銀ダラに比べ、脂がなくパサパサしていると人気がありませんでした。実際に脂質の量を比べてみると、マダラの身にはほとんど脂がないことが判明しました。専門家にその理由を伺うと、マダラは普段深海の海底でじっとして泳ぎ回らないので、筋肉にエネルギーとなる脂肪を蓄える必要がないためと考えられているそうです。さらに
銀ダラは、なんとホッケなどのカサゴ目の魚で、タラとは縁もゆかりもない魚だった
のです。その姿がマダラに似ていて銀色なのでギンダラと名づけられたそうです。
そして、タラは筋肉に脂肪を蓄えない代わりに、脂肪を肝臓に蓄えています。なんと100g中、半分の50gが脂肪で、アンコウの肝を上回るほどでした。ならばと、アン肝ならぬタラ肝を作って所さんに試食してもらいました。すると、最初は美味しく感じましたが後からくる生臭さに悶絶!
タラの肝は足が速いので流通せず、栄養補助食品の肝油ドロップなどに加工され、かつて大活躍したのです。
ところで、足の速いタラですが、白子とタラコは生で食べますよね?実は、
タラの身を腐らせる分解酵素は胃や腸にあり、生殖系の白子とタラコは直接消化器系につながっていないため、分解酵素が回りにくい
のです。さらにこの2つは水揚げ後すぐに身から切り離されるので、生で食べられるのです。でも、
なぜ白子といえばタラの白子なんでしょうか?
そこで、アイマスクを装着した矢野さんと料理学園の講師の皆さんに、タラ、サケ、アンコウ、ハタハタの白子を食べてもらい、味覚だけでタラの白子を当ててもらいました。すると、なんと全員が正解!タラの白子はダントツに濃厚で美味しかったようです。ではなぜ濃厚なのでしょう?専門家に伺うと、
タラは他の魚に比べ白子に詰まった精子の数が多いと考えられている
そうです。実際にタラの貴重な産卵シーンの映像では、一匹のオスの精子で水槽が真っ白になるほどでした。
タラは一回の産卵でなんと最大500万個の卵を産みます。
タラの産卵は、深海ではなく温かい浅瀬に移動して行われますが、
産卵を済ませるとすぐに深海へ戻るため、放置された卵の多くは外敵に食べられてしまいます。
だからたくさんの卵を産む必要があり、そのために大量の精子を必要とするのです。効率は悪いようですが、そのおかげで美味しい白子が食べられるのですね。
タラの白子が濃厚で美味しい理由は、産卵の時、大量の卵に受精させるため精子がたくさん詰まっているからなのだ!