アクは甘い
牛しゃぶ鍋
第967回 2009年1月11日
家庭で手軽に楽しめる鍋、
しゃぶしゃぶ
。人気の理由はもちろんその美味しさにあります。今回は冬を温める定番料理、しゃぶしゃぶを科学します。
しゃぶしゃぶは昭和21年、京都のお店が中華料理の火鍋をヒントに作った「牛肉の水炊き」が原型となって、全国に広まったと言われています。街の人にしゃぶしゃぶについて聞くと、
大半の人が「肉の脂が落ちるからヘルシー」というイメージを持っていました。
では、どれくらい脂が落ちるのでしょうか?そこで、同じ霜降り肉を一方は2ミリの厚さにスライスし、もう一方は焼き肉サイズに切り分け、火を通した後の肉に残った脂の量を比較します。その結果、なんと
焼き肉よりもしゃぶしゃぶの方が1.5倍も脂が多いという意外な結果に。
その秘密は肉を加熱する温度にありました。しゃぶしゃぶのお湯の温度はおよそ80℃。一方、直火の焼き肉の場合、肉表面付近はおよそ160℃で、加熱温度が2倍も違ったのです。肉は加熱すると、熱で細胞が壊れ中にあった脂が出ます。その量は温度が高ければ高いほど多くなります。だから、焼き肉は低温のしゃぶしゃぶより多くの脂が落ちていたのです。
肉を加熱する際、温度が高いほど脂が出る。だから低温で調理するしゃぶしゃぶより高温で焼く焼き肉の方がヘルシーなのだ!
肉がとても薄く、さっぱりしたポン酢で食べるしゃぶしゃぶはいくらでも食べられそうですよね。では、どのくらい食べることが出来るのか?そこで、しゃぶしゃぶVSステーキの食べ放題実験です。食べ盛りの学生3名にまずは一皿100gの霜降り肉ステーキをポン酢で食べてもらい、後日また同じメンバーが一皿100gのしゃぶしゃぶに挑戦。その結果、なんと3人中2人がしゃぶしゃぶよりステーキの方が多く食べられたのです。一体なぜでしょう?
そこで、ステーキとしゃぶしゃぶを300g食べた直後の胃のレントゲン写真を比較してみました。すると、
同じ量の肉を食べたのに、しゃぶしゃぶの方が胃の中では多く映っていました。実はしゃぶしゃぶは薄く切ってあるため胃の中でかさばり体積が増えていたのです。
そのためステーキよりも早く胃から脳に満腹の信号が伝わり、量を食べることが出来なかったのです。もう一つの理由は調理方法にありました。しゃぶしゃぶした肉はお湯の中に余分な脂が溶け出しますが、重さはほとんど変わりません。しかし、ステーキは高温で焼くことで脂以外に水分も大量に抜けます。そのため重さも大幅に減少するのです。
ところで、しゃぶしゃぶといえば鍋の表面に浮かび上がる灰汁(あく)。マズいので取り除くのが常識ですが、灰汁ってどんな味がするのでしょう?そこで
街の人に肉だけを入れたしゃぶしゃぶの灰汁を飲んでもらうと、20人中18人が甘いと答えたのです。
そもそも灰汁とは一体何なのでしょうか?実は、肉からお湯の中に溶け出したタンパク質が高温で固まり、さらに肉から出た脂と結びついた物だったのです。そして、
灰汁を甘く感じるのは、和牛の脂に甘い香りの成分ガンマ・ノナラクトンが含まれているから
なのです。ということは、甘い灰汁をわざわざすくい取る必要はないのでは?と思いきや、肉と一緒に野菜を煮込んだ灰汁は苦みや渋みが出てしまうのです。しゃぶしゃぶに入れることが多い
春菊や水菜には、苦味のあるポリフェノールが多く含まれていて、これが溶け出し灰汁に吸着することで、苦くなると考えられているのです。
では、しゃぶしゃぶの灰汁を出さない方法はあるのでしょうか?矢野さんが食べた高級店のしゃぶしゃぶ鍋には灰汁が出ていませんでした。そこで、鍋の温度を計ってみるとおよそ77℃しかなかったのです。では、一体何度で灰汁は出るのでしょう?お肉を入れて徐々に温度を上げながら調べてみます。すると80℃前後で灰汁が出始めることがわかりました。
さらに、灰汁と一緒に出ていってしまう肉汁にはアミノ酸などのうま味成分が含まれています。ということは
灰汁が出ない80℃未満で、肉汁の出る量が少ないほど、美味しいしゃぶしゃぶになるはず。
そこで、究極のしゃぶしゃぶの温度を調べてみます。ビニールでパックした3つの肉をそれぞれ80℃、70℃、60℃のお湯で同時にしゃぶしゃぶします。結果を見ると、60℃が一番肉汁の出た量は少ないようですが、専門家によると、食品衛生上もう少し加熱した方が良いとのことなので、
目がテンでは究極のしゃぶしゃぶ温度は70℃に決定しました!
スタジオで究極のしゃぶしゃぶに挑戦した所さんでしたが、味は良くても、肉と野菜が煮えるのに時間がかかるので、評価はイマイチ。やっぱりしゃぶしゃぶは高温で煮込み、灰汁は取るしかないようでした。
うま味成分を残したまま灰汁も出ない、究極のしゃぶしゃぶを作るお湯の温度は70℃前後がベスト!でも、時間がかかる…。