パスタ
の科学
第1325回 2016年5月8日
日本人のパスタの年間消費量は40年前と比べ、3倍近くまで増加。
パスタを茹でるときの常識といえば「塩は入れて茹でる」「たっぷりのお湯で茹でる」。しかし、パスタを知り尽くす科学者がその常識を覆す!
①パスタに塩はいらない
パスタを家で作るときの常識を街で聞いてみると、皆さん、茹でるときに塩を入れると答えました。確かにパスタのパッケージには「沸騰したお湯に塩を入れる」などのレシピが書いてあります。ところが、そんなパスタの常識を覆す人物が!それは、かつてパスタメーカーの研究室で働いていたというパスタのエキスパートでもある大学教授。先生によると科学的にいうと食塩は入れなくていいとのこと。
そこで熱湯の入った2つの鍋を用意。片方の鍋にパスタのパッケージ通り1リットルあたり塩を小さじ1杯入れます。そこにパスタを投入しパッケージ通りに8分茹でました。ゆであがったところで麺をあげ市販のソースをかけて食べてみます。味見の結果、2つの味はほぼ一緒でした。さらに詳しく見るためにマイクロスコープを使い40倍に拡大してみると、中心部分の影はほどよい歯ごたえを作る、アルデンテを示しているのですが、どちらもほとんど違いがありませんでした。さらに、噛み切るのに必要な力を計る装置にかけてみると、小さじ1杯の塩を入れたパスタと何もいれずに茹でたパスタとでは、ほとんど歯ごたえが同じという結果に!
パスタをゆでる際に塩を入れる必要はなかったのだ!
②なぜ塩を入れて茹でるという常識が生まれた?
家庭ではパスタをゆでる際に塩を入れる必要はないことが分かりました。しかし、疑問が残ります。どうしてパスタに塩を入れる常識が生まれたのか?先生によると「プロのシェフやイタリア本場では塩を入れる。ただし入れる量が違う。」とのこと。プロは一般的に言われている量の3倍も塩を投入するというのです。
そこで、再びパスタを茹で、塩を入れずに茹でた麺と比較します。噛み切るのに必要な力を計る測定器で計測してみると…なんと塩を入れないパスタに対し、小さじ3杯で茹でたパスタは歯ごたえが2割も増加したんです。先生によると「食塩が茹でている最中に麺の中のグルテンというタンパク質に作用しグルテン同士が結合する手が増えた。結合の手が増えた為にパスタに強いコシが生まれた。水1Lあたりに小さじ1杯程度の食塩だと結合の手が増えなかったのだと考えられる」とのこと。
家庭でもそうやって作れば良いのでは?と思ったが…小さじ3杯の塩で茹でたパスタに市販のソースをかけて食べてみると「しょっぱい!」。特にレトルトソースはかなり食塩を使うので、塩辛い味になってしまうとのこと。実際に大量の塩を入れて茹でるプロの料理人はどうしているのか聞いてみると「濃い塩味でパスタは茹でます。ただ、最終的に僕らはソース自体の塩分を調整して仕上げるので特に問題はない」とのこと。
たくさんの塩で歯ごたえのあるパスタにゆで上げるプロのシェフは、ソースの塩味を控えめにして味を調整していたのだ!
③すごい蒸しパスタ
街で聞いたパスタの常識、続いては「できるだけたっぷりのお湯で茹でる」。やっぱりお湯はたっぷり必要なのか?専門家によると、その常識をすべて覆して、なおかつ安いパスタを超高級パスタのようにおいしくなる方法がある」とのこと。その方法を使えば、スーパーのお買い得パスタが、お値段3倍以上、ローマ法王庁御用達と言われる高級パスタに匹敵する美味しさになるというんです!ちなみに、高級パスタの美味しさとはどんなものなのか、イタリアンのシェフに聞いてみると「ソース絡みは、しっかり絡むタイプのパスタだと思います。」とのこと。
そこで、ゆであがった普通のパスタと高級パスタに米粒がどれだけくっつくかでその絡み具合を比較してみます。ゆでたパスタを長さ10cmにカットして実験です。普通のパスタをお米の中に入れ、すくい上げると2.1グラムの米粒がくっつきました。続いて、高級パスタで実験してみると、くっついた量は4割も多い3グラム!なぜその違いが生まれたのか?
専門家によるとその答えはパスタの作り方にありました。パスタは練った小麦粉を小さな穴から押し出すことで作られます。普通のパスタは安定して大量に生産するために、その出口が滑りのよいテフロンで加工されています。しかし、伝統的な機械で作られる高級パスタは滑りの悪いブロンズを使用。そうすることで麺の表面にある違いが生まれるんです。普通のパスタの表面を顕微鏡で見てみるとつるつるであるのに対し、高級パスタの表面はザラザラ。これが、ソースが絡む秘密なんです。
いよいよ、普通のパスタを高級パスタに変身させる方法を専門家が披露!「一般的なパスタをどうやって高級パスタに近づける」のか。
使うのは「フライパン」と「水400g」。
1.フライパンにわずか400ccの水を入れ沸騰。
2.強火のままのフライパンに1人前100gのパスタを半分に折って投入。
3.フタをする。茹でるというよりは蒸してる状態。泡が出てきたところで、焦がさないように中火にして標準のゆで時間8分を待つと、ちょうど水がほとんどなくなって完成。
肝心の絡み具合はどうなのでしょうか?米粒につけてみると、高級パスタと同じ3グラム、米粒の数もほぼ同じ数くっつきました。なぜ、調理の方法で普通のパスタが高級パスタのようにくっつくようになったのでしょうか?普通に茹でると、ノリのようになったデンプンが水中に流れ出るためべとべと感が少なくなりますが、蒸す場合はデンプンが流れ出ても最終的にパスタの表面につくのでくっつく力が増したのです。ならば、この蒸しパスタ、本場イタリア人が食べたら高級パスタだと思うのか?実験です!
協力してくれたのは、イタリア・ナポリ出身のちょい悪オヤジ、モデルのパンツェッタ・ジローラモさん。今回ジローラモさんに食べてもらうのは高級パスタではなく、普通のパスタを茹でたものと蒸したもの。本人には蒸しパスタのことは知らせずにADが調理。両方を食べ比べてどちらが高級パスタだと思うかを答えてもらいます。するとジローラモさんは、見た目でも蒸しパスタには高級パスタの特徴があると分析。そして、味でも蒸しパスタの方を高級パスタと選択したんです!
最後に自信満々のジローラモさんに、実は両方同じ値段のパスタだとネタばらししたところ、蒸しパスタの秘密を本気で知りたがっていました。
蒸しパスタは、本場の味を知り尽くすジローラモさんも認める美味しさだったのだ!
「蒸しパスタ」のおいしく作るコツはこちらで紹介しています。
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