放送内容

第1369回
2017.04.02
食パン の科学 食べ物

 いまや毎朝の食卓に欠かせない“パン”。総務省の家計調査によると、一世帯あたりのパンの購入金額は2010年から米の購入金額を上回っているんです。なかでも、いま、そのままでも美味しく食べられる生食パンが大人気なんです!さらに!トースターも驚きの進化を遂げていたんです!
 今回の目がテンは、進化し続ける食パンを科学します!

食パン業界の大革命!湯種でもっちり食感

 いま、多くの人に人気なのが、もっちり食感の食パン。では、なぜ食パンはもっちり食感が人気なのか?東京製菓学校で指導を行うパンの専門家・高江直樹先生に伺うと…高江先生は「日本の米文化からきていると思う。米のモチモチした、餅の食感が好きな日本人にとってパンももっちりした食感を好む」と解説。日本人が好きなもっちり食感。しかし、戦後欧米から入ってきた食パンに、モッチリ食感はありませんでした。そんな食パン業界に画期的な製法が生まれたのが数十年ほど前のこと。
 それが…“湯種製法”。普通のパン生地は、小麦粉と水を混ぜ合わせて作りますが、湯種は、熱湯と小麦粉をよく混ぜ合わせて作ります。糊のような少しねばねばしたものが湯種です。普通の生地に、この湯種を2割ほど入れ食パンを作ります。

 高江先生に、同じ材料で作った「湯種入りの食パン」と「湯種の入っていない食パン」を焼いてもらうと…どうやら、見た目に大きな違いはありません。2つの違いを比較するため向かったのは、製粉会社で長年、商品研究に携わっていた工学院大学の山田昌治教授のもと。山田先生によると、パンは水分が多いほどモッチリ感が多いということにつながるため、水分量はとても重要だそうです。日本人好みのもっちり食感はパン内部の水分量が影響していたんです。

 そこで、2つのパンの水分量を計測。湯種パンと普通の食パン、それぞれ中心の部分を切り出し計測すると…普通の食パンは約43%だったのに対し、湯種食パンは、約46%、その差は3ポイント!実はこの少しの水分量の差が、もっちり食感を生み出していたんです!
 顕微鏡で、小麦粉に含まれるでんぷんを見てみると…水で混ぜたでんぷんは、粒が残っているのに対し、熱湯で混ぜた方は、粒が変形しています。熱湯により、でんぷんに亀裂が入りその亀裂部分から内部にも水が入ったので、水分量の多い、もっちり食感のパンになったんです!

ポイント1

湯種製法の誕生で、日本人好みのもっちり食パンが一般家庭に広まっていったのだ!

超簡単!魚焼きグリルで絶品トーストに!

 東京・東銀座にあるお店「喫茶アメリカン」。こちらのお店に、食パンを使った名物料理があるそうです。出てきたのは、食パン一斤を丸ごと使った巨大な「たまごサンド」。ボリューム満点ですが、ひとりで食べ切る女性客もいるそうです。

 その美味しさの秘密を聞いてみると・・・実はこのお店では、開店の数分前に近くのパン屋さんから焼きたての食パンを運んでもらっているそうなんです。この日も、開店10分前に大量のパンが運ばれてきました。特別にパンを触らせてもらうと…まだ湯気が立つほどアツアツの食パンを分厚く切り、山盛りの卵を挟んだら…巨大卵サンドの完成!この“焼き立ての食パンしか使わない”というのには、理由があるそうで…店主によると「時間がたつとだめだと思っている。2時間以内の間に食べたら本当に美味しい、明日になるとおいしくない」とコメント。

 食パンはなぜ一晩たつと、変わってしまうのか?山田先生によると、「パンを放置しておくと、パンの中にあるでんぷんから水が蒸発していく。でんぷんは枝と枝の間に水分子が入り込んで、でんぷんがふんわりもっちりした食感をだしているんが、その分子から水がどんどん蒸発していくのでデンプンの分子が硬くしまってくるので、食感がかたくなると」と解説。
 そこで購入直後と、1日たったパンの水分量をはかってみると…購入時約43%だった水分量が、1日たつと、約39%に。4ポイントも水分量がダウンしたんです。このように水分が蒸発することで、パンがボソボソとした食感になってしまうんです。

 時間が経ってしまった食パンを美味しく食べられる、トーストの焼き方を山田先生に教えてもらいます!使うのは、なんと魚焼きグリル!山田先生によると「トーストはできるだけ高い熱量で一気に焼くのが美味しいトーストになる」と言うんです。従来型のオーブントースターはおよそ1200W。しかも、熱源から遠い位置に食パンを置いて焼きます。一方、魚焼きグリルは…およそ1800W。しかも熱源が近いので、高温で一気に焼くことができるんです。短時間で一気に焼くために、まずは強火で1分予熱します。油で網がベトベトな場合はアルミホイルを敷きましょう。パンを入れ、片面を1分間、強火で焼きます。1分後…パンをひっくり返し、もう片面も30秒焼いたら完成!
 さらに違いをみるため、一般的なオーブントースターと魚焼きグリルで同時に食パンを焼いてカットしてみると…魚焼きグリルで焼いたほうがふっくら仕上がっていることがわかります。山田先生によると、魚焼きグリルで焼くと、焼く前よりも中心部分の水分の割合が増え、高い水分になると言うんです。

 そこで、パンの中心部の水分量を計ってみると…魚焼きグリルで焼いたものは、購入時より水分量がおよそ2ポイントもアップしていたんです。パンを高温で一気に焼くと、表面の温度が急激に高くなり、真ん中は冷たい状態。表面と中心とで温度差が生まれます。その温度差を均一にするため、パンの中では、温まった水分が、中心を温めようとパンの真ん中に移動します。
 山田先生によると、「自然界は、なんとか温度分布をなくそうとする。熱力学では、エントロピーは必ず増大する方向に変化する」と解説。

ポイント2

魚焼きグリルで焼いた食パンのように、温度などを均一化させるために物質がうごくことを「エントロピー増大の法則」と言うのだ!

進化系トースターの秘密に迫る!

 いま、家電量販店でひときわ盛り上がっているのがトースター売場!
 とある家電量販店では、1年前と比べ、売場を2~3割拡大したそうなんです。昔ながらのポップアップ式のものから、1000円台のお手頃価格の機種まで。さらに、ここ1年で高価格のトースターがぞくぞくと発売されているそうなんです。そこで、高級トースターの秘密を探るべく…トースターを製造しているメーカー「株式会社千石」にお邪魔しました!

 出てきたのは、暖房器具の専門メーカーが作ったトースター。見た目は少しオシャレなこと以外、特別変わった様子はありませんが…一般的なオーブントースターと比較しても一目瞭然!オーブントースターは、15秒から30秒で発熱するのに対し、高級トースターはなんと、わずか0.2秒で発熱します。では…なぜすぐに発熱できるのでしょうか? メーカーの方によると、電気暖房のヒーターとトースター、同じヒーターを使っているためだそうです。
 その素材というのが、「高分子ポリイミドフィルム」と呼ばれる、耐熱性の特殊なシート!実はこれ、人工衛星のはやぶさにも使われているそうなんです。このフィルムを加工しヒーターに使用します。ポリイミドフィルムを高温で焼くと…グラファイトシートという全く違う性質のものになり、ヒーターの材料として優れた要素を持つようになります。

 まず、電気を通すようになります。このシートをあえて電気を通しにくい形に加工することで、電気を通すと高温で発熱するようになります。
 さらに…電気を通す際に発生した熱を素早く熱源全体に伝えることができるため、瞬時に温まるんです。では、どのくらい熱伝導率が高いのか…鉄よりも熱伝導率が良い、銅とグラファイトシートで比較実験。
 まずは、それぞれを細く切り、端にバターを置きます。片側を熱し、どちらが先に熱が伝わるのが、バターのとけ具合で観察します。火をつけると…手前のグラファイトシートに乗っていたバターが溶け…そのまま落下!銅との差は明らかです!この様子をサーモカメラで見てみると…グラファイトシートの方が圧倒的に熱が早く伝わることがわかりました。従来の熱源となっていた素材では熱伝導率が低いため、全体があたたまるのが遅かったんです。

ポイント3

グラファイトシートを使うことで、高温で一気に食パンを焼くことができるようになったのだ!