先月、珍しく風邪をひき、半月ほど、声が本調子ではありませんでした。
治りが遅いなあ、年齢のせいか、と憮然としていたら、
「いや、今年の風邪は長引きます」
と、共に「皇室日記」を担当している、まだ三十代の青木源太アナウンサー。
ロケでのコメントも、ナレーション録りも、喉の痛みや気管支のモヤモヤと相談しながら、
おそるおそる、だましだまし...情けなく、申し訳ないことでした。
特に困ったのが、朗読番組「わたしの図書室」の稽古が出来ないこと。
30分番組2本分、50分の作品を声に出して読みたいのですが、
5分と経たないうちに、声がかすれたり、せき込んだり...。
これ以上痛めては話にならない、とあきらめ、2週間全く音読せず、本番に臨みました。
収録が終わって、
「井田さん、今日は良かったァ」
と、プロデューサー。私は「???」
何とか最後まで声が出てくれますように、とそれだけを考えていたのに...。
ひょっとして、練習しない方が、出来が良いのかしらン?
ふと、40年も前、演劇研究生だった時の、芝居の師匠のひと言を思い出しました。
研究生公演の稽古中、めまいを起こして稽古場の隅で横になっていた私に、
「お前も少し分かってきたか? 万全の体調で本番を迎えることなんて、ないよ」
その時々の体調を受けとめ、丁寧に仕事をする。それがプロというもの。
風邪がくれた、ささやかなお釣りで、初心に返った今年の春でした。