1月21日 田辺 研一郎

「10年後のスーパースター」
 
去年11月クラブワールドカップの取材でアルゼンチンを訪れた。
日本テレビサッカー解説者の都並さんから、
アルゼンチンに行くなら是非バビーフットボールを見るとよいとアドバイスを受け、
取材の合間に首都ブエノスアイレス郊外まで車を走らせてもらった。
 
都並さんがアルゼンチンサッカーの原点はここにあると話すバビーフットボールとは
フットサルとほぼ同じくらい大きさのコートで行う子供のサッカーのことだ。
バビーとはベビーを意味する。
 
フットサルとの違いはタッチラインを割った際キックインではなくスローインであるところ、
フットサルでは認められていないスライディンングが認められているところだ。
 
更にピッチはコンクリートの上に少し柔らかいラバーでコーティングされているだけなので、
球足が早く、正確なボールコントロールが求められる。
ボールはフットサルのものより小さく少し重たく、あまり弾まないのが特徴だ。
 

 
取材に訪れた日は、ちょうどブエノスアイレス市のチャンピオンシップ決勝戦が行われていた。
 
私が見たのは2007年生まれ 8歳の子供たちの決勝戦である。
 
スライディングの連発。ボールを奪う、取られたら取り返す意識がすごい。
切り替えろ!などという言葉は存在しない。
当たり前のように攻守の切り替えができている。
 
特にスローインやGKからのスローがあるのでヘディングの機会が多いのに驚いた。
落下点を読む力、相手との体の間合い、ジャンプのタイミングなど
ヘディングの技術が小学生レベルにしては信じられないほど高いのだ。
 
「日本のサッカーに足りないものが詰まっている」そんな事を感じながら、ただただ圧倒されていると、
会場でラモン・マドニさんというスカウト界の重鎮に会った。
 
現アルゼンチン代表のテベス、元代表のレドンド、ソリンらを発掘した
マドニさんのお眼鏡に叶うと十中八九プロになれるという。
観戦中にも何人もの親御さんが息子をアピールするため挨拶に来ていた。
 
マドニさんによると、子供たちを見るうえで大切な要素は3つ。
1.技術(ヘディング、ボールコントロール、ドリブル)
2.リズム(ボディーバランス)
3.根性
特に根性を見ると聞いた時には驚いた。
 
しばらく試合を見ていると、再びマドニさんに呼ばれ
『あの白いチームの10番をみておくと良い』と言われた。
それからしばらくは彼だけを見ることにした。
 
彼の名は
ベンジャミン・コレアレくん8歳。
マドニさんいわく、彼にはリズムがあり、両足でボールをコントロールでき、ヘディングの技術が高い。
そしてボールを奪いに行く激しさがある。
8歳にしてすでにプロが約束されている男の子だ。
確かにうまい、1人別次元。そして感情を表に出さず黙々とプレーする。
 
試合後にマドニさんがコレア君を紹介してくたので、一つ気になったことを聞いてみた。
『試合中、笑ったり、怒ったり、悔しがったりほとんど感情を出さなかったけれどどうして?』
 
コレア君は『とにかく、今何をすべきか考えてゲームに集中していました』とニコニコしながら答えた。
試合中の表情とは別人だ。
 
このやりとりを聞いていたマドニさんは
『この集中力こそがプロになれるかなれないかを分ける大事な要素。
良い選手は総じて喜怒哀楽を出さず、ゲームに集中している』と静かに語った。
 
マドニさんが表現する「根性」とは集中力を
指すのではないだろうか。ここに、スカウトの極意があるように感じた。
 
コレア君との別れ際、私は「いつか君がワールドカップでプレーするのを楽しみにしているよ!」と声をかけた。
 
最後にマドニさんが私にむかって
「メディアの力は本当に大きい。東洋からあなたが来てくれて、励ましてくれた。
きっとコレア は日本人と話したのは生まれて初めてだったと思う。
こういう経験が彼を成長させるんだ」そう語りかけてくれた。
 
もしかしたら10年後 2026年のワールドカップで実況アナウンサーがこう叫ぶかもしれない。
「アルゼンチン代表に新星現れる。その名はベンジャミン・コレア18歳!」
 

 
(真ん中が未来のスーパースター!ベンジャミン・コレア君、右がアルゼンチンスカウトの重鎮マドニさん)