10月12日 井田 由美

美術番組「美の世界」を長らく担当し、数多くの芸術家にお会いしました。

大家と呼ばれる方々は皆、気さくで、美術の素人である私のインタビューに、
やさしく答えてくれました。

いつも驚いたのは、年齢を感じさせない、みずみずしさ。
「絵描きは六十歳から」という言葉もあるそうで、
五十代のある日本画家は、
「僕なんか若造です。早く六十になりたい。本物の絵が描けるようになるかも知れない...」と、真剣なまなざしで語っていました。

美の真髄を究める、険しく、長い道のり。
テレビのディレクターやカメラマンに定年があることを不思議がる画家もいました。
「どうして?定年になったら、急にカメラが重くて担げなくなるんですか?」
そんなやりとりを傍で聞いていた若い私も、いつの間にか歳を取り、先月で定年。
誕生日の前と後で、急に声が変わったり...は、していないようです。

芸術家のたぎる情熱には及ばないけれど、
日々の仕事の中で、新たに知ること、気づくことを大切に、
もうしばらく、アナウンサーでいたいと思っています。