「心技体」
先日プロゴルファーの宮里藍選手が現役引退を表明しました。その大きな理由が「モチベーションの維持が難しくなった。自分とも向き合えないし、今までやれていた練習ができなかったり、トレーニングでも追い込むことができなくなった。自分が求めている、理想とする姿は、もうそこにはなかった。」というものでした。改めてトップアスリートで居続ける難しさを感じた言葉でした。
その言葉を聞いた時にふと思い出したのは、昨季限りで引退を決意した、巨人一筋20年、類稀な走力でチームに大いに貢献した鈴木尚広さんの会見でした。
「体力的、技術的には上がっていますが、心が離れていった。僕の仕事は一発勝負。心技体、一つ欠ければ勝負できない。プロフェッショナルとしての生き様ができなくなった時が引き際なんだと。準備こそが僕の全て。でも雲行きが怪しくなってきた。」悲壮感は漂わせない会見でしたが、改めてその野球人生の重さを感じました。
もちろん、宮里選手と鈴木さんの意味するところが全く同じということはありません。ただトップアスリートがいかに厳しく自分を見つめ、自分と接し、自らを追い込んで猛練習を積んでその実績を築いているのか。その努力を全て知る訳ではありませんが、触れた範囲でもそれは驚くべきものです。
スポーツ中継に携わっていると、その選手がプロの世界に入り、地位を築き、やがて自分の変化や心技体の衰えに戸惑い、苦悩する姿に長いスパンで接することが多くなります。
若い時には倒れこむほどの練習量で球界を代表する存在になったある野球選手は引退を決意する数年前、悩みました。もっと練習をしたいが、そうすると疲労が蓄積し当日の試合のパフォーマンスに影響してしまう。彼がある日低い声で呟きました。
「ああ悔しい、もっと練習がしてえ。」
普通ではできないことを鮮やかに成し遂げてしまうトップアスリート。しかしその裏にある様々な思い、葛藤。これを伝えることも私達の役目だと心がけ、日々向き合いたいと思います。