全身の毛が逆立つような瞬間がある。
箱根駅伝だ。
もっとくわしく言うと、実況がいよいよ迫る瞬間の、
視界の遠くにようやく選手の姿を捉えた瞬間。
選手を見つけた沿道の観衆が遠くから沸き始め、
選手が近づいてくるとともに歓声もこちらに近づく。
歓声が、走る。選手の、少し前を走る。
2020年1月2日・3日、第96回箱根駅伝。
今大会は平塚中継所の実況を担当。
往路・復路ともに区間新記録の瞬間を実況する機会に恵まれた。
選手達にはもちろん及ばないが、
とにかく夢中、一心不乱とはこのこと。実況中はそんな時間だった。
一生懸命、年末年始を返上して資料をたくさん作ったのに、
今年もほとんど使わなかった。
かっこいい表現をたくさん言ってやろうと肩を回していたのに、
用意していた原稿はほとんど使えなかった。
区間新が出る襷リレーの直前に、
「歴史が変わる瞬間をご覧いただきましょう」と咄嗟に言った。ほんとうに咄嗟です。
「いや、お前誰やねん!どの立場で言ってんねん!」というツッコミも聞こえてきそうだが、
本当にそう思ったんだから仕方ない。
まばたきすら我慢して観て頂きたいと思ったのだから、仕方ない。
でも、それでいいのだと思える。
それがいいのだと思える。
それほどに、目の前で起きていることが衝撃的で、感動的で、
用意した原稿よりも余程、伝えるべきことなのかなぁと感じた。
箱根路を目指すランナーたちは1月4日から練習を再開する。
同じように私も、1月4日から、来る第97回箱根駅伝の実況を目指している。
早く、次の箱根駅伝が来ないかなぁ、と、思い焦がれる360日くらいが始まる。
ちなみに、箱根駅伝が終わった日、1月3日。
この日に飲むビールが、1年で一番、世界で一番、おいしい。
遅ればせながら。
あけまして、おめでとうございます。