首都直下地震に備える
「首都直下地震」は発生する確率が高くて備えが必要と言われていますが、首都直下地震とはどういうものなのでしょうか?
実は、首都直下地震は同じメカニズムで繰り返し起きる特定の地震ではなく、関東地方の平野部に存在する活断層で発生するものや、沈み込むプレートの境界部分で発生するもの、さらには沈み込むプレート内で発生するものといくつかのパターンの地震が考えられています。
◆関東付近はプレートが複雑に潜り込み、地震活動が活発に
(内閣府資料から)
南関東では伊豆半島の東側の相模湾から房総半島の沖合にかけてフィリピン海プレートが日本列島がある北米プレートの下に沈み込んでいて、そのプレート同士がくっ付きあう境界が相模トラフと呼ばれています。東日本大震災を起こした日本海溝や南海トラフと同じように巨大地震を引き起こすのがこのプレート境界です。
一方、首都やその周辺の地下はとても複雑な構造になっています。東京などは北米プレート上にありますが、その下側には南側から沈み込むフィリピン海プレートがあり、さらにその下には東側から太平洋プレートが沈み込んでいるという3つのプレートが重なり合う形になっています。この複雑な構造のプレートの運動により、地震の発生メカニズムが他の地域に比べとても複雑で、地震活動も活発な状況にあるのです。
◆地震発生にパターンは6つに分類される
(内閣府資料から)
南関東では、これまでもマグニチュード(M)7や8クラスの地震がいくつも発生しています。この地域で発生する地震の様式は概ね次のよう に分類されています。
① 地殻内 (北米プレートまたはフィリピン海プレート)の浅い地震
② フィリピン海プレートと北米プレートとの境界の地震
③ フィリピン海プレート内の地震
④ フィリピン海プレートと太平洋プレートとの境界の地震
⑤ 太平洋プレート内の地震
⑥ フィリピン海プレート及び北米プレートと太平洋プレートとの境界の地震
このうち、②及び⑥のプレート境界で起きる地震は、M8クラスの大きな地震が起きることが知られています。
◆M7クラスの地震が今後30年間に起きる確率は70%に
(内閣府資料から)
「首都直下地震」は、こうした6つのパターンの地震が想定されていますが、いずれの地震が起きても首都圏周辺に大きな被害をもたらすものと考えられています。過去に大きな被害が発生した「元禄関東地震」と「関東大震災」はいずれもプレートの境界の相模トラフで発生したM8クラスの巨大地震です。
この元禄と大正の2つの巨大地震の間には、活断層で起きた地震などM7クラスの大きな地震が8回も発生しており、平均すると27.5年に一度はM7クラスの大きな地震に襲われる計算になります。
こうした過去の分析から、今後30年以内にいずれかのパターンの地震が起きる「首都直下地震」発生の確率は70%と言われています。
◆首都直下地震が起きるとどんな被害になる?
首都直下地震が起きたらどのような被害になるのか、内閣府が被害想定をまとめているほか、東京都が独自に行っている想定も公表されています。
内閣府の被害想定では、揺れによる全壊家屋は約17万5000棟におよびます。冬の夕方、それも風に強いときに発生した場合には建物倒壊に加えて火災による被害も大きくなり、全壊棟数は約61万棟にのぼり、死者は最大約2万3000人に達する想定です。建物被害に伴う要救助者も最大約7万2000人となります。
ライフラインやインフラの被害も深刻な想定です。
電力:発災直後は約5割の地域で停電。1週間以上不安定な状況が続く。
通信:固定電話・携帯電話とも、輻輳のため9割の通話が規制され、1日以上継続。
メールは遅配が生じる可能性。
上下水道:都区部で約5割が断水。約1割で下水道の使用ができない。
鉄道:地下鉄は1週間、私鉄・在来線は開通までに1か月程度かかる可能性。
主要道路:通行可能までに少なくとも1~2日が必要。
その後は一般車両は通行できない緊急交通路となる。
一般道:深刻な交通麻痺が発生。
港湾:復旧には数か月を要する。
燃料:非常用発電用の重油を含め、軽油、ガソリン等の消費者への供給が困難となる。
◆首都の中枢機能が停止する恐れも
首都地域には国の政治、行政及び経済の中枢を担う機関が集っていて、ここで巨大地震が発生すると災害対策をする機能が大きく支障を受けてしまう可能性もあります。その場合には救助活動がうまく進まなかったり、被災者への支援も円滑に行われなくなったりする可能性もあるのです。さらに中枢機能に障害が起きると、日本の経済もストップするでしょうし、企業活動もストップして大混乱が起きる事も想定されます。
首都直下で地震が起きた場合にはこうした事態が起きることも想定しておくことが大切です。
◆心配なのは大規模火災の発生
首都直下地震で特に心配されるのが市街地で火災が多く発生して延焼してしまうことです。関東大震災でも死者の大半が火災によるものでした。特に東京などでは、木造住宅が密集する市街地が広がっていることから、 極めて大規模な延焼被害や同時多発の市街地火災が発生することが想定されています。
地震と火災について詳しくはこちら・・
地震と火災|日テレ防災サイト|日本テレビ (ntv.co.jp)
◆膨大な数の人たちが帰宅困難となる可能性も
昼間、多くの人が会社や学校などにいる時間帯に首都直下地震が発生すると、内閣府の想定では、東京都市圏で約1,700万人、うち東京都で約940万人もの人が自宅の外で地震を迎えることになります。そして、その日のうちに家に帰すことができなくなってしまう帰宅困難者は、東京都市圏で約640万人~約800万人、東京都で約380万から約490万人に上るとされています。
地震直後に多くの人が一斉に徒歩などで移動しようとすると、道路が人で埋まり緊急自動車が動けなくなるなど、救命・救助活動にも支障が出ることになります。このため、東京都では救命活動が重点的に行われる72時間は、会社や学校などの出先や、さらには一時滞在施設にとどまって欲しいとしています。
会社などから動けなくなったり、長距離を歩いて帰宅することになることを想定して、会社に運動靴を置いたり、会社でも非常食などを準備しておくなど、普段からの備えが大切になります。
◆首都直下地震にいかに備えたらよいのでしょうか
首都直下地震で命を守るためには、普段からの備えが大切です。
●安否確認の方法を複数準備しよう
首都直下地震では通信ができなくなる可能性が高く、帰宅困難も生じて家族が離れ離れでいる時間が長くなる可能性が高くあります。事前にお互いの安否をどうやって確認しあうのか、いくつもの方法を決めておくようにしましょう。もしもスマホが使えなかった場合はどうするのか、どうしても連絡がつかない時の合流場所をどこにするのか、居場所などを紙に書いて自宅前に貼るなどのルールを決めておくと安心です。
●物流がストップすると大変 備蓄は1週間以上が理想
人口が多い首都圏で物流がストップするとすぐに食べるものも無くなってしまいます。あまりに被災者の数が多くなると、非常食の配給も滞る可能性があります。たとえけがなどをしなくても、世の中の物流がストップしたりライフラインがストップしたりするだけで、その日から生活の維持が厳しくなります。備蓄はしっかりと家族全員が1週間は食事をし、生きていけることができるようにしておくとよいでしょう。
●高層ビルでは長期間室内に留まる準備が必要
高層マンションなど高いビルの高層階では長周期地震動によって特に大きく揺れる可能性があり、コピー機など物が動きまわって凶器になる可能性もあり、こうしたものをしっかり固定しておく対策が重要です。さらに、揺れによってエレベーターがストップしてしまい、簡単に外に出ることができなくなる可能性が高くあります。食料や飲料水の備蓄は勿論のこと、さらに下水の配管がずれていないか確認出来るまではトイレも使えなくなるので、簡易トイレなどの準備も大切です。東京・港区では1週間は高層階で籠城できる準備をしておいて欲しいと呼び掛けています。
●そしてなによりも、自宅が倒れたり家具が倒れてこないように、家の耐震化や家具も固定といった対策が最も重要となります。
◆東京都が2022年に見直した新たな被害想定とは
東京都が公表した想定の見直しでは被害状況などのシナリオを詳細に検討して公表しています。
まとめた記事はこちらからご覧ください・・
【首都直下地震シナリオ①】水は?電気は?通信は?・・地震後にライフラインはどうなる?東京都が公表した首都直下地震の新たなシナリオとは (ntv.co.jp)
【首都直下地震シナリオ②】被害の実態はどのようなものになるのか、そして救助の手はどう展開していくのか? (ntv.co.jp)
【首都直下地震シナリオ③】避難所ではどのような生活になるのか? (ntv.co.jp)