作品紹介
増山雪斎 江戸時代、享和元年(1801)
Fenollosa-Weld Collection
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姿を見せる、力を示す
古代エジプトのファラオや19世紀のフランス皇帝ナポレオンをはじめ、統治者の姿は人々を圧倒するような姿で絵画や彫刻に表されてきました。大きさや威厳のある表情にくわえ、贅沢な衣装、装身具や紋章などによって富や知性、徳などが示され、その力が表現されています。その姿だけではなく、衣服や鏡、刀、特定の動物なども力を示す象徴となりました。一方で、地域や文化が異なると、表現は大きく変わります。例えば、日本美術において、天皇の姿があからさまに描かれることはほとんどなく、牛車や御簾の内にその存在が示唆されてきました。本章では、こうした地位による人物表現の違いが認められる、合戦絵巻の傑作《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》も展示します。
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聖なる世界
宗教的な儀式を執り行うことも、為政者の重要な役割のひとつでした。多くの地域や文化において、古くから神々や精霊、祖先の霊魂などは、地上の人々より高位の、聖なる世界に属する存在として捉えられてきました。為政者は、そうした聖なる世界と俗なる地上の世界をつなぐ者となることで、自らの力を人々に示し、その力をいっそう強めてきました。彼らは、聖なる世界が表された芸術作品を所有し、また新たにつくることで、祈りを捧げ、自らの信仰を世に知らしめました。本章では、14世紀のイタリアでつくられた祭壇画の一部や、東大寺に伝来した紺紙銀字経《華厳経(二月堂焼経)》などをご紹介します。
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宮廷のくらし
宮廷は、王侯貴族の住居であるとともに、政治の中心でもありました。ふたつの機能を兼ね備えた空間は、贅(ぜい)を凝らして荘厳壮麗に飾り立てられるとともに、訪れる人々に支配者の力を体感させるように創出されました。
華やかなくらしを彩る調度品にも、支配者の圧倒的な力と富の表象としての意味がこめられているのです。本章では、そうした宮廷の建築や庭園、室内の様子が描かれた作品のほか、ジュエリーや皇妃ジョゼフィーヌの住まいであったマルメゾン城の食器セット、などをご紹介し、さまざまな時代や地域の宮廷のくらしをご覧いただきます。
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貢ぐ、与える
富や権力の象徴となる芸術は、外交の場においても活用されました。例えば、自国を守り、強固な後ろ盾を得るために、より強い国へ貢ぎ物が捧げられました。また、自らの支配下にあることを知らしめ、その権力の維持のために、美しい芸術品が与えられることもありました。本章では、こうした贈り物がなされる場面を表した作品や、エリザベス1世が贈り物としてつくらせたと考えられる銀器などをご紹介します。
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たしなむ、はぐくむ
権力者たちは、芸術を自国の統治や外交に役立てただけでなく、芸術のパトロンともなりました。彼らは、長い歴史の中でつくられた重要な美術品を収集し、代々継承しました。また、同時代の芸術家を支援し、新しい作品を自らのコレクションに加えていきました。そうして築かれたコレクションは、今日の世界中にある美術館や博物館の礎となっています。さらに、権力者自らが芸術活動に携わることもありました。日本では、多くの将軍や大名が能や茶をたしなんでいました。伊勢長島藩(現在の三重県桑名市長島町)を治めた大名である増山雪斎は画技に秀で、数々のすばらしい作品を残しています。このたび、本展のために修復された《孔雀図》が、初めての里帰りを果たします。
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