スペシャル

《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》(部分)
鎌倉時代、13世紀後半
Fenollosa-Weld Collection

スペシャル

ボストン美術館展を楽しむ7つの秘密
アートナビゲーター ナカムラクニオ

2020.03.26
第7話
巨大なエメラルドに秘めた物語
7-1
大粒エメラルドの魔力

古今東西の権力者たちが愛した美術品が並ぶ今回のボストン美術館展で、異彩を放つ作品がある。60カラットの巨大なエメラルドのブローチだ。
これは、アメリカで最も成功した女性と呼ばれるマージョリー・メリウェザー・ポスト(1887-1973)が所有していたもの。アクセサリーというよりは、彫刻作品といったほうが近いかもしれない。 ポストは、アメリカで初めてシリアルを販売した「ポストシリアルズ」の経営者だった父から莫大な遺産を相続し、さらに会社を発展させ億万長者になった女性実業家だ。フロリダにあるトランプ前大統領所有の別荘「マー・ア・ラゴ」を建てた人物としても知られている。
そんな彼女は、古代から「叡智の宝石」として知られるエメラルドをこよなく愛した。クレオパトラから皇帝ネロまでを魅了した富と権力の象徴であり、中世には、未来を予言する力がある石と信じられていたそうだ。

 
ヒルウッドの「邸宅美術館」

そんな実業家であるマージョリー・メリウェザー・ポストが1955年から1973年まで住んでいた大邸宅を公開した庭園美術館がある。ヒルウッド・エステート・ミュージアム&ガーデンズ(Hillwood Estate Museum & Gardens)だ。
アメリカ、ワシントンDCは、美術館と博物館に埋め尽くされていて、ワシントンナショナルギャラリー、スミソニアン国立自然史博物館、フリーア美術館など、1週間あっても回りきれないくらいの数がある。しかし、もし数時間余裕があるならばぜひここを訪ねて欲しい。
ワシントンDCの中心部から少し離れた丘にひっそりと佇むこの美術館は、一歩中に入ると、巨大な迷路に迷い込んだような錯覚に陥る。まるで豪華な邸宅に実際に招かれたような気分だ。ドアを開けると、キラキラとゴージャスなシャンデリアが出迎えてくれた。そして、空間を埋め尽くすロシア美術のコレクションに驚かされる。

 

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ナカムラクニオ/Kunio Nakamura

荻窪「6次元」店主/ライター。
著書は『金継ぎ手帖』『古美術手帖』『チャートで読み解く美術史入門』『魔法の文章講座』『世界の本屋さんめぐり』など多数。

 

 

 

芸術×力 ボストン美術館展
会場:東京都美術館
会期: 2020年4月16日(木)〜7月5日(日)