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「ボテロ展」をふくよかに味わう10の魔法
2022.06.17
10. リピートするならこれを見ろ! 多様なボテロ作品に触れて、あなたもボテロ通に!

こんにちは! いよいよ展覧会も終盤戦に入ってきましたね。「ぶらぶら美術・博物館」「ニコニコ美術館」など様々なメディアでも取り上げられ、会期終盤に向けて来場者の熱気がどんどん高まってきているのを感じます。

また、ついリピートしたくなってしまうのがボテロ展のいいところ。見るたびに新しい発見があります。コラム「番外編」で取り上げた、本展で音声ガイドのナビゲーターを務める伊東健人さんも、すでに2回足を運んだとお話してくださいました。

そこで今回は、まだ展覧会を見ていない人はもちろん、すでに一度会場に足を運んだ人にもオススメしたい、本展出品作の中でも特に個性的だった作品を3点選んでご紹介します!

 

尽きない創作意欲! 80代後半になってから始めた、新感覚の水彩画

展示室内で、作品保護のため少し照度を落としたエリアがありますが、ここに展示された作品こそが、ボテロさんが2019年夏から手掛けている最新の水彩画シリーズです。

油絵では特に赤(ピンク)と緑を多用するボテロさんですが、今回の水彩画シリーズではどの作品にも少しずつ「青」が入っているのが特徴。ボテロさんが幾度となく描いてきた、カーニヴァルや闘牛、ダンス、カップルといった定番のモチーフが、水彩画として生まれ変わりました。

(左)《マタドールとピカドール》2019年 鉛筆、水彩/カンヴァス 138 x 100cm
(右)《カーニヴァル》 2019年 鉛筆、水彩/カンヴァス 130 x 100cm

もちろん、描かれる人物は変わらず「ふくよか」ですが、絵具の着色は薄くて控えめ。むしろドローイング作品に近い軽やかさが感じられます。

ただ、よく見るとやっぱりそこはボテロさんのこと。軽やかな作品であっても、ちゃんとひねりを入れてきているのが凄い。新境地となるような実験的な試みをしているんです。

まず、水彩画なのに、描かれているのは紙ではなく普通のカンヴァス上です。しかも、わざわざ、ガサガサした裏地を選んで描いているんです。

(左)《踊る人たち》2019年 鉛筆、水彩/カンヴァス 133 x 100 cm
(右上、右下)《踊る人たち》(部分)

また、青鉛筆で下書きを描き、その線をあえてカンヴァスの上に残したままにしているのも面白いですね。水色の線がそのまま残ることで画面全体が青っぽくみえますし、ボテロさんの制作プロセスが可視化されているのも興味深いです。油絵の作品と見比べてみるのも面白いですよ。

 

本展No1の意外性?! 悪魔が夜空を舞う漆黒の絵画

《夜》1998年 油彩/カンヴァス 191 x 140cm

さて、個人的に本展で一番衝撃的だったのが、こちらの《夜》という作品。カンヴァスの大半がほぼ「黒」一色で表現され、ミステリアスな雰囲気に包まれています。

様々なポーズで空を飛んでいる、悪魔のような怪物も謎めいています。力士のような体型をしているのは、ボテロさんらしい作風ですが…。一体、彼らは誰? 何のために飛び回っているの?そして、右下には星の光に赤黒く照らされた謎の建物が…。

こういう時は、音声ガイドを聞いてみると、ヒントが得られるもの。音声番号「10」をタップすると、右下に描かれた赤紫の建物は、ボテロさんの祖国コロンビアの首都・ボゴタにあるボリバル広場の教会を表しているとのこと。…ということは、怪物たちは中世の教会建築に壁面装飾として描かれているガーゴイルなのかもしれませんね。

Webで調べてみると、ボリバル広場に、この絵に描かれたような立派な教会が確かに存在していました。

ボリバル広場/カテドラル

このボリバル広場は、「南アメリカ解放の父」とも呼ばれ、南米諸国の独立運動を支えた伝説的な指導者シモン・ボリバルの名前を冠した公共の広場なんです。首都ボゴタの中心地にあり、ボテロ美術館から歩いて数分の場所にあります。 

ボテロさんが本作を描いた2000年当時、長年続く内戦や政治対立、麻薬問題など多くの問題でコロンビア国内は疲弊していました。ボテロさんは、祖国コロンビアに対する複雑な想いを、本作でのモチーフを通して象徴的に表現しようとしたのかもしれませんね。

ちなみに、音声ガイドでもBE:FIRSTのメンバーが解説してくれていますが、実はボテロさんの一番好きな色は、本作を覆う「黒」なのだそう。よく見ると、画面内も一様に同じ黒ではありません。細かくグラデーションがつけられ、雲のような大気の表現も秀逸です。ぜひ、ボテロさんの「黒」の深みも味わってみてくださいね。

 

ボテロさんの原点《泣く女》を最後にもう一度鑑賞してみる

《泣く女》1949年 水彩/紙 56 x 43 cm

さて、ここでもう一度展示室の最初に戻って、ボテロさんの画家人生の原点を確認しておきましょう。実に今から73年前に描かれた、1949年の作品《泣く女》です。

本作が描かれた時、ボテロさんはまだ若干17歳。学生時代の貴重な初期作品です。

ボテロさんは、70年以上に及ぶキャリアの中で、油絵、パステル、ブロンズ彫刻など、様々な技法で作品制作に取り組んできましたが、その原点は水彩画にありました。本展の中で最も新しい作品と最も古い作品が、ともに水彩画である、っていうのはちょっと面白いですよね。

もう、まったく今とは全く違う作風で描かれていますよね。画面いっぱいに描かれた豊満な人体は、オロスコやシケイロスといった、当時のメキシコを代表する著名な壁画作家たちから影響を受けています。水分をたっぷり含んだ筆を使い、極太で武骨な輪郭線を表現したり、紙のにじみを活かした陰影表現を試みたりと、さすがの腕前です。女性の体全体から、涙がにじみ出てきているような、味のある作品です。

驚いたことに、ボテロさんの作風の特徴である「ふくよかさ」が、すでにこの時点で画面の中にあふれ出ているようにも見えます。面白いのは、「ふくよかさ」が今とは真逆の発想で表現されていることです。現在、ボテロさんは人体の先端部分を小さく描き、胴体部分をふくらませますが、《泣く女》では真逆。胴体はノーマルサイズのまま据え置かれ、手足が特にふくらんで描かれています。

また、《泣く女》と最新の水彩画連作シリーズを見比べてみるのも面白いですよ。同じ水彩画でも、1949年と2019年では、こんなにも作風が変化しているのだ、ということが実感できるでしょう。

 

最後に…

さて、1ヶ月半にわたって連載させていただいたボテロ展「特別コラム」も今回が最終回。取材を兼ねていたとはいえ、一つの展覧会に6度も足を運んだのは、ボテロ展がはじめてでした。ボテロさんの作品は、見るたびに新鮮な驚きを感じられるので、途中から「今日は何を発見できるかな?」と楽しみで仕方がありませんでした。最後、会期中にもう1度だけ、ボテロさんに魔法をかけてもらいにBunkamuraへと足を運ぼうと思っています。

これまで、全10回お付き合いくださいまして、本当にありがとうございました!

 

齋藤 久嗣(さいとう・ひさつぐ)

フリーライター。1975年生まれ。IT企業のエンジニア、営業などを経て、41歳のときに「かるび」の名前でブロガーとして脱サラし、その後ライターに。現在は、アート分野を中心に各種メディアでの記事執筆や編集業務、アート系イベントでの広報業務など幅広く活動中。共著に21年『名画BEST100』(永岡書店)など。
Twitter: @karub_imalive

ボテロ展 ふくよかな魔法
BOTERO – MAGIC IN FULL FORM
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(渋谷・東急百貨店本店横)
会期:2022年4月29日(金・祝)〜7月3 日(日)