《野外での婚礼の踊り》ピーテル・ブリューゲル2世 1610年頃 Private Collection

Special スペシャル

魅惑のベルギー、ブリューゲル紀行

2、ブリューゲルの版画を訪ねて

ピーテル1世が原画を手掛けた版画を
数多く所蔵するベルギー王立図書館
©神戸シュン/NTV
ベルギー王立美術館をはじめ、様々なミュージアムが建ち並ぶブリュッセルの「ロワイヤル広場」。その先にある「芸術の丘」の階段を下りたところに立つベルギー王立図書館は、ピーテル・ブリューゲル1世の世界屈指の版画コレクションで知られています。
1554年頃、イタリアからアントウェルペンに帰ったピーテル1世は、画家としてのキャリアを版画の下絵制作からスタートさせました。彼に仕事を依頼したのは、国際的な版画出版業者ヒエロニムス・コック(1517・18-70)。まずピーテル1世の雄大な風景版画を世に送り出した彼は、悪魔や怪物が躍動する作品で知られたヒエロニムス・ボス(1450頃-1516)風の幻想的な絵を描かせます。それによりピーテル1世は「第2のボス」と言われるほどに名声を高め、画家としての人気を不動のものとしました。
左:ピーテル・ブリューゲル1世 《邪淫》(連作「7つの大罪」より) ベルギー王立図書館
右:ピーテル1世が実際に描いた《邪淫》の原画(部分)。 ベルギー王立図書館

ピーテルの原画では、左中央の男の帽子が、司教のかぶる帽子であるのに、摺られて反転した版画では、普通の帽子になっている。
教会への諷刺が効きすぎと考えて、版元のコックが自主規制した?
※≪邪淫≫は本展に出展されません
©神戸シュン/NTV
プランタン・モレトゥス印刷博物館
遺族により大切に守られてきた印刷工房
©神戸シュン/NTV
当時ピーテル1世が住んだアントウェルペンは、ヨーロッパで最も重要な貿易・金融都市であり、同時に多くの人文主義者たちが集う一大文化都市でもありました。その面影を今も残しているのがプランタン・モレトゥス印刷博物館です。16世紀にクリストフ・プランタン(1520-89)が創業したこの世界最古の産業印刷工房は、一族が代々住んだ館とともに残され、2005年には、世界文化遺産に登録認定されました。
『多言語対訳聖書』や『全ネーデルラント地誌』など歴史的に重要な出版物ほか、約1500点もの書籍を出版したというプランタンは、当時のヨーロッパ最大の出版事業者として、西洋文化の発展に大きく貢献した人物です。 
おびただしい書籍は、
本が人類の「知」そのものであったことをあらためて感じさせる
©神戸シュン/NTV
彼は、ヒエロニムス・コックから版画を購入し、自ら出版した本とともに、ヨーロッパ各国に輸出していました。その中には連作『7つの大罪』など、ブリューゲルの銅版画もありました。コックと同様プランタンもまた、当時ブリューゲルの名を国際的に知らしめた立役者と言っていいでしょう。
■木谷節子 プロフィール
アートライター。現在「婦人公論」「SODA」などの雑誌やアートムックなどで美術情報を執筆。近年は、絵画講座の講師としても活動中。
Back Number

Special

update コラム「ブリューゲル紀行」