《野外での婚礼の踊り》ピーテル・ブリューゲル2世 1610年頃 Private Collection

Special スペシャル

魅惑のベルギー、ブリューゲル紀行

3、農民画家ブリューゲルの見た風景

アントウェルペン時代、雄大な風景やボス風の幻想世界、また風俗や寓意を描いた作品で人気を博したピーテル・ブリューゲル1世は、1563年の結婚を機に、ブリュッセルへと居を移しました。
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ブリュッセル郊外に広がる、フランドルの田園風景
©神戸シュン/NTV
人生の最後の6年となるこの時代、彼の重要なテーマとなったのが、農民たちの労働や祝祭、遊びなどを描いた「農民画」です。文化的エリートでありながら、生き生きと生活する農民たちに共感していたブリューゲルは、近郊の農村に出かけては農民たちと飲食を共にし、祭や婚礼などにも参加しました。その道すがら彼が眺めたであろう風景が、ブリュッセル南西の田園地帯「パヨッテンラント」に広がっています。この地域には、ブリューゲルの農民画に登場するような納屋や水車などが今も点在しており、それらはブリューゲル野外美術館、通称「ブリューゲル街道」として整備されています。
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左:ディルべークとエテルベークを結ぶ、ブリューゲル街道
右:代表作《絞首台の上のカササギ》に描かれたとされる水車
©神戸シュン/NTV
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シント・アナ・ぺーデ教会と近くを流れる小川は、《盲人の寓話》に描かれた
©神戸シュン/NTV
実はブリューゲルの描く風景は地元フランドルの景色と、平地に住む人々が憧れたアルプスの山々を合成したものです。そのため、描かれた風景そのものを特定することは難しいのですが、たとえば、街道の起点にこぢんまりと佇むシント・アナ・ぺーデ教会のように、ブリューゲル晩年の作品《盲人の寓話》(1568年、ナポリ、カポディモンテ国立美術館)の背景と同定されたものもあります。
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ボクレイク野外博物館に建つ「ブリューゲルの農家」
©神戸シュン/NTV
このブリューゲル街道と並んで、16世紀のフランドルの農村の雰囲気を今に伝えているのが、ベルギー東部に広がるボクレイク野外博物館の展示物です。広大な自然の中に、農家や教会、風車など主に16~19世紀にかけての建物が80軒以上も移築されたこのオープンエアミュージアムには、「ブリューゲルの農家」と言われる16世紀の小屋があり、大きなかまどを備えた土間へと入ることができます。ブリューゲル没後450年となる2019年、この小屋では、彼の描いた農村の生活をより具体的に体験できるようになるそうです。
■木谷節子 プロフィール
アートライター。現在「婦人公論」「SODA」などの雑誌やアートムックなどで美術情報を執筆。近年は、絵画講座の講師としても活動中。
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