《野外での婚礼の踊り》ピーテル・ブリューゲル2世 1610年頃 Private Collection

Special スペシャル

魅惑のベルギー、ブリューゲル紀行

最終回、栄光のブリューゲル一族

ピーテル1世から、ピーテル2世、ヤン1世と息子たちに受け継がれた、フランドルの絵画の魂。その才能はさらにその子や孫たちにも継承され、ブリューゲル一族は150年に渡って優れた画家を輩出しました。
たとえば、ヤン1世の内孫にあたるアブラハム・ブリューゲル(1631-1697)は、父のヤン2世のもとで修業した後にイタリアに渡り、屋外に置かれた静物画の名手として活躍しました。外孫にあたるヤン・ファン・ケッセル1世(1626-1679)もまた、動物画を得意とする画家となり、昆虫や貝類を標本のように描きました。ヤン1世の娘婿で、後にネーデルラント総督の宮廷画家となったダーフィット・テニールス2世(1610-1690)のように、一族に新たに加わった才能もありました。
special_column06_photo01.jpg
左:アブラハム・ブリューゲル 《果物の静物がある風景》 1670年 Private Collection
右:ヤン・ファン・ケッセル1世 《蝶、カブトムシ、コウモリの習作》 1659年 Private Collection, USA
ピーテル1世のひ孫たちも、それぞれ個性あふれる画家に成長した
こうしたブリューゲル一族の繁栄は、《鳥罠のある冬景色》(1565年)をはじめ、《反逆天使の墜落》(1562年)や《ベツレヘムの人口調査》(1566年)などピーテル1世の傑作を所蔵するベルギー王立美術館で一望することができます。
special_column06_photo02.jpg
左:フランドル絵画の宝庫、ベルギー王立美術館
右:展示室には、ピーテル1世の傑作や息子たちの作品が並ぶ
©神戸シュン/NTV
special_column06_photo03.jpg
美術評論家で本展の共同監修者セルジオ・ガッディ氏
©神戸シュン/NTV
本展の監修者のひとりであるセルジオ・ガッディ氏は、ピーテル1世が創始し子孫たちに受け継がれたブリューゲルスタイルの魅力は、偉大な自然への眼差しと、そこに生きる人々の「日常生活」を描いたことにあると言います。
special_column06_photo04.jpg
ピーテル・ブリューゲル2世 《野外での婚礼の踊り》
1610年頃 Private Collaction
「ピーテル1世は、若い頃イタリアに滞在したにも関わらず、当時の主流だったルネサンス絵画からほとんど影響を受けませんでした。ご存じのようにルネサンス美術は人間そのものに焦点をあて、その人の背負っている運命や幸福などを理想的に描きました。しかしピーテル1世は、お酒を飲み、愛し合い、ハグをする、農民たちのとても生々しい日常生活に目を向けたのです。彼は絵画の中に初めて、人間のリアルライフを描きこんだ芸術家といえるでしょう。そして子孫が代々受け継いだこのブリューゲルスタイルは、後のオランダやフランドルの風俗画に大きな影響を与えました。本展では、こうしたブリューゲルスタイルをぜひお楽しみください」
■木谷節子 プロフィール
アートライター。現在「婦人公論」「SODA」などの雑誌やアートムックなどで美術情報を執筆。近年は、絵画講座の講師としても活動中。
Back Number

Special