明雄さんのにっぽん農業ノート

日本は現在、生産量世界3位、栽培面積世界2位と世界でも有数な花卉産業国。
国内で見ると花の生産量1位は愛知県。電照菊の栽培が盛んで、4割を占める。生産量2位の千葉県は、南部の温暖な気候もあり、1~3月の露地による花栽培が盛ん。ストック・キンセンカ・カラーなど日本一の生産量を誇る。

千葉県

  • 南は太平洋、西は東京湾、北西には江戸川、北は利根川に接するなど、四方を海と川に囲まれている。
  • 全体に標高が低く、平均海抜は49mで、日本一の低平な県。最高点の愛宕山でも408m。

気候

  • 三方を海に囲まれ東方沿岸には黒潮が流れているため、冬暖かく夏涼しい海洋性の温暖な気候。
  • 降水量は、夏季に多く、冬季は少ない。
  • 南房総沿岸は、沖合を流れる黒潮の影響で冬でもほとんど霜が降りない。
    ※霜が下りないので、冬期に花の露地栽培が可能。

花文化の歴史

  • 飛鳥時代:日本人は花を身近な美しいものとして歌に詠み、万葉集にも数多く掲載される。
  • 平安時代:北白川(左京区)の女性が、比叡山のすそ野・白川に広がる花畑の花を京で売り歩いた事が日本で最初の花売りと言われる「白川女(しらかわめ)」。
  • 江戸時代には、野生の植物を庭に移したことから園芸が始まった。
    ※花問屋から花を仕入れて売り歩く、花の流通形態が確立し、庶民にまで園芸ブームが起こる。

南房総市

  • 南房総地域は、千葉県の市町村別で生産量1位、県内の生産量の6割以上を占める。
  • 千倉地区の白間津花畑は田んぼの裏作として花が栽培されていたことから、花つみが始まった。

花つみ よしだ
吉田 涼 (よしだりょう) さん 18歳

12月から3月までストック・キンセンカ・ポピーなどの花を栽培。観光客が花つみをしたり、地方に配送したりする。4月になると花ごと畑にすき込み肥料にして、トウモロコシ・ジャガイモ・サトイモ等の作物を栽培する。

緑肥

緑肥となる作物を直接土壌にすき込み、有機物に分解させる事で土壌を改善し、次の作物の養分にする事。
※花が咲く時期にすき込むのがベスト。種が出来てしまうと、土壌に落ち雑草化してしまう。

メリット

①肥料効果
②保肥性の増大
③透水・排水性の改善
④土壌微生物の多様化
⑤雑草抑制
⑥景観の向上

生育中

①根から糖類のムシゲル(有機物)が放出される。

ムシゲル

  • 根の表面や先端部から分泌される不溶性の粘液物質。
  • 酸性多糖類、有機酸、アミノ酸、酵素などで構成されている。
  • 植物を土壌から引き抜いた時、土を払い落とせないことがあるが、これはムシゲルによるもの。
  • 水や無機塩類を吸収する上で非常に重要。

②根圏の近くに生育する微生物群がムシゲルを分解し、ビタミン・ホルモンなどの栄養物質を生成すると同時に粘性の分泌物を出す。これが接着剤となり、団粒構造を発達させる。

③餌となるムシゲルが増えることで有用微生物が増え、病原菌を抑制、減少させる。

すき込み後

すき込まれた緑肥作物は、分解され、腐植(土壌の黒い部分)となる。

畑に生えた苔の役割

  • 苔は、土壌から蒸発した水分か大気中の水分を吸収し生きているので、雑草と違い土壌の栄養素を奪い取らない。
  • 土壌に群生すると雑草を抑えるので、除草効果がある。
  • 土壌の水分が蒸発するのを防ぐので、保水性を補う。
  • 苔は生長していくにつれて、土壌と接している面が土壌化し、有機物に還元される。
    ※栄養分が少ない土壌にも水分を吸収して生きる苔は一番に生える。苔が生える事によって、その土壌に有機物が増え、他の植物が増えていく。
  • まだ緑色の苔も、他の植物と同じようにヨウ素をもち、水分と光で光合成を行なっているので、一緒に土壌にすき込めば腐植となり、土壌の栄養分となる。

ストック(アブラナ科)

  • 夏・秋まき一年草
  • 原産地:地中海地方
  • 古代ギリシャやローマ時代には栽培され、薬草として利用されていた。
  • 「ストック」は英語名で「幹」や「茎」を意味し、しっかりした茎を持つことに由来。
  • 花の形は一重と八重がある。
  • 主な用途:成人式・葬儀・お彼岸など

キンセンカ(キク科)

  • 原産地は地中海沿岸。
  • 江戸時代末に中国から渡来。中国名の「金盞花」を日本語読みして、「きんせんか」という。
    ※金盞花の「盞」はさかずきのことで、金のさかずきをひっくり返したような形が由来。
  • 別名はカレンデュラ、ポットマリーゴールド。
  • ヨーロッパでは昔から民間薬として利用され、特に殺菌作用に優れるとされた。
    ※キンセンカから作られた軟膏は火傷からにきびまで幅広い皮膚のトラブルの治療薬になるとされる。
  • 日本では観賞用として花壇などに植えられるが、ヨーロッパではハーブの1つに数えられ、エディブル・フラワー(食用花)になる。

カラー(サトイモ科)

  • 球根植物で、多年草。
  • 原産地は南アフリカ。
  • 別名:オランダカイウ(和蘭海芋)
    ※オランダから、海を渡ってきたサトイモ科の植物という意味。
  • サトイモの花は日本ではあまり見かけないが、カラーの花と似ている。
  • 湿地性・畑地性の2系統あり、湿地性は白色、畑地性は様々な色が出来る。
  • 湿地性のものが原種。
  • カトリックのシスターの衣服の襟(collar)に似ていることや、ギリシャ語の「美しい(callas)」に由来したなど複数の説がある。

君津市

  • 房総半島のほぼ中央部に位置する。
  • 年平均降水量が1,600mm、年平均気温と15℃と比較的温暖な地域。
  • 地下水が豊富で、自噴井戸が多く存在し、動力を使わない井戸掘り技術「上総堀り」発祥の地。
    ※上総掘り:江戸時代の金棒突掘り技法にかわり、竹の弾力を利用して井戸を掘る方法。
  • 日本の三大カラー生産地(千葉・愛知・熊本)のひとつであり、君津市は生産量日本一。
  • 昭和29年頃、安房から株を持ってきたのが小糸カラーの始まりとされる。

カラー農家
鳥井 まち子さん 63歳

  • 両親は兼業農家で、自身も平成2年にビニールハウス2つを引き継いでカラーの栽培を開始。規模拡大し、もともと田んぼだったところにハウスを設置。
  • 繁忙期には娘さんに手伝ってもらっているが、それ以外は1人で作業を行っている。
  • 浮き草の掃除係として、アイガモが2羽いる。2羽とも名前は「ぴーちゃん」。

カラーの特徴

  • 花のように見える部分は、仏炎苞(ぶつえんほう)といって花を包む葉。
    ※開き始めると葉緑体が抜けるため、白くなる。
  • 仏炎苞に包まれた黄色い部分が肉穂花序(にくすいかじょ)。丸くて小さな花がいくつもついている。
    ※この種でも栽培することが出来るが、収穫したカラーのサイズになるまで、3~4年はかかる。

栽培の特徴

  • 井戸水を循環させて水田状態にして栽培。
  • 株は基本的には植えっ放しだが、弱ったり、抜けたら補植する。
  • 肥料をあげすぎると苞の部分が緑がかったり、斑点が出来るので、あまり施肥は行わない。
  • アイガモ農法
    ※村の田んぼと同じように、浮き草を食べたり、土を撹拌したり、糞が肥料になったりする。ただ、村では大人になると穂を突いてしまう為、ヒナの時期しか田んぼに放していなかった。カラーの場合は傷つけられることがないため、大人になっても放したままにしている。

収穫方法

  • 茎の根元を持ち、回すようにしながら引っ張り抜く。
    ※花に皺が入るなどすると売り物にならなくなる。力を入れすぎて茎に手の痕がついても売り物にならない。
    ※収穫する花(一番花)の下には新しい花芽(二番花)が控えているので、二番花を傷つけないようにする。
    ※丈が長いほど高価になるので、なるべく長く収穫する為、根元から切れるこの方法で収穫される。
  • お店に並ぶ時を考慮し、5歩咲きの花を収穫。
  • 1日200本~250本くらい収穫する。(最も多いときで500本)

小糸の井戸水

  • 小糸地区は小糸川の中流域にあたり、川よりも耕地が高くなる。
    ※飲料水・農業用水の確保が困難な場所だったため、より良い水を得る手段の一つとして井戸掘り技術が発達した。
  • 井戸水は年間を通じて15℃前後と水温が一定な為、天然の冷暖房の効果がある。
    ※カラーは春に咲くが、この井戸水のおかげで秋から春にかけて咲かせることができる。

東京・大田市場 日本一の青果市場

  • 取扱品目:水産物・青果物・花き
  • 面積は日本最大。敷地面積(建物面積):386426平方メートル(298313平方メートル)
  • 青果市場の取扱量日本一
    ※青果・花きの取扱量に関しては1日当たり3,239t(17年度)
    ※花は、切り花に換算すると1日の取扱量が324万本(同)
  • 青果物については、東京中央卸売市場のうち4割強、全国でもその1割を扱うマンモス市場。

蘭とは

  • 地球上に、花を着ける植物が約25万種あるといわれ、蘭はその中の約1割を占める。原種だけで約750属、35,000種もあるといわれる種子植物中、最大の科。
  • 熱帯から亜熱帯が中心だが、南極を除くほとんどの大陸に生息。日本でも約300種が自生しているといわれる。

胡蝶蘭とは

  • ファレノプシスはギリシャ語の「蛾のような」に由来し、日本では蝶の様に見えたため、胡蝶蘭と名付けられた。
  • 原産地は台湾、東南アジアからインド、オーストラリアの一部。
  • 樹木などの表面に根を張り、そこを伝わる養水分を摂取している着生蘭。
  • 樹上などの風通しの良い場所で生育し、乾燥状態に比較的強い。
    ※日本の蘭は、その品質の良さから世界でも人気がある。

地生蘭と着生蘭

蘭は生息状態が大きく2つに分かれる。
※地生蘭:腐葉土などの地面に根を張って自生する。地生蘭は比較的水気を好む性質を持つ。シンビジュームやパフィオペディラム、エビネなど。
※着生蘭:樹木の幹・枝や岩の上に根でしっかりと張り付いて自生する。木や岩の上で生息する性質から乾燥した環境を好む。カトレア、コチョウラン、デンドロビュームなど。

椎名洋ラン園 胡蝶蘭農家
椎名 正剛(しいなせいごう) さん 58歳 (左)

親が梨農家だったが継がずにラン栽培を始め、今では15,000㎡に及ぶ生産拠点を置き、毎年50万ポットを出荷。育種にも精力的に取り組んでおり、家庭内で飾りやすいコンパクトなミディー胡蝶蘭というスタイルを確立。

椎名 正樹 (しいなまさき) さん 31歳 (右)

正剛さんの長男。胡蝶蘭の栽培から管理を取り締まっている。

ミディー胡蝶蘭とは

大輪大型の胡蝶蘭をコンパクト化し、どこにでも手軽に飾れるよう品種改良された胡蝶蘭。
コンパクトになったおかげで、大量生産が可能になり価格も安く提供出来るようになった。

苗の生長

①クローンにより、苗を培養。(期間:2年半)
※花茎の節を利用し、無菌のプラスティック容器で培養。
※培養剤には、寒天が使われ、栄養として、リンゴ・バナナ・ヤシの実の汁などが混ぜられている。
※苗の培養は中国で行なわれ、2年半ほど育成された苗が、椎名さんの元に届けられる。
②水苔で苗を育成する。(期間:約半年)
③ある程度、生長した所で、バークに植え替える。(期間:約半年)
※胡蝶蘭は木や岩などに自生するので、ある程度の空気を取り込む必要がある。そこで、胡蝶蘭が自生する環境に近いバークを使用している。
※保水性・保肥性が乏しいので、液肥を含ませた水ゴケやスポンジを細かくしたもの、そして炭なども入れている。
④充分に生長した苗を18~23℃の低温ハウスで花芽分化させる。(3ヵ月)
※この温度は原産地の冬にあたり、冬の寒さで花芽分化が促される。
⑤蕾ができ、27℃前後のハウスに移動。
⑥一ヵ月の間に開花し始め、出荷される。

ムービングベンチ

ムービングベンチとは、ベンチを格子状に組まれたレールの上に乗せて移動させることによって、作業場を区分けしたり、栽培ステージに合わせてベンチロケーションを決定するなど温室内の栽培管理を容易にできる。
※胡蝶蘭では椎名洋ラン園さんのみ。

交配・品種改良について

ずい柱(雄しべと雌しべが合体した部分)に花粉塊があり、その下に花粉つけて交配させる。

  • サイズ・色だけではなく、寒さや病気に強い品種づくりということも心がける。
  • 受粉させると、基本的に母体に似るので、その特性も考慮する。
  • 品種改良が完了するまで4~5年か、もしくはそれ以上かかる。
  • 商品として売り出すまでには、8年以上はかかる。

花を長く楽しむ方法

  • 花が咲いた後、株の状態が良ければ、二番花を咲かせることができる。花芽の根元から2、3節残し、その節の上1cmくらいの位置で切ると、残した節から花芽が伸びてくる。
  • また、二番花が終わったら、花芽を根元から切る。すると、翌年、新たな花芽が出る可能性がある。
  • こういった性質から「長生きの花」としても知られている。