横手市山内
- 山内の各集落は山間にあり、秋田県の中でも屈指の豪雪地帯。
- 山間部にあるため、風が弱く、収穫した大根などの作物はを天日や風に晒して水分を抜くのが難しい。
※たくあん用の大根も干す事ができなかったので、生まれたのが大根を燻製にして漬け込む『いぶり漬け』。
- いぶり漬けや山内にんじん、いものこの産地として昔ながらの食文化が今も残されている。
※現在、いぶり漬けを作っているのが100軒ほどあり、半数が専用の燻し小屋を持つ。
秋田県
- 日照時間が全国で最も短く、年間の日照時間も1526時間。(1位の山梨県は2183時間)
- 冬季は日中でも氷点下の日がおおい。
いぶり漬けの歴史
- 晩秋から初冬にかけて、晴天の日が少なく、ダイコンが干せなかったので、建物のなかに干す方法が生み出された。
※茅葺屋根の住宅が主流だった時代は、囲炉裏の上に吊るし、火の熱と煙を利用。
- 薪ストーブが普及すると、囲炉裏が減り、いぶり漬けも作られなくなる。
※薪ストーブだと大根に『す』が入り、いぶり漬けにならない。
- 昭和40年代に燻し漬けを懐かしむ声が広がり、専用の小屋を持つ家庭が増えた。
※DASH村では、06-07年の冬に栽培した守口大根でつくったことがある。
いぶりがっこ生産者
東谷 久美子(あずまや くみこ)さん 53歳
5年前から本格的に作り始め、昨年のいぶりんピック(クラシカル部門)では優勝した。
いぶりがっこ生産者
高橋 廣子(たかはし ひろこ)さん 61歳
東谷さんの近所にすみ、一緒に作っている。30年以上いぶり漬けを作っており、燻し専用の小屋も2つ持っている。
いぶり漬けの工程 (約2ヶ月)
- 収穫した大根を洗い、一本ずつ縄で編む
- 燻し小屋で火を絶やさずに4~5日燻す。
- 燻した大根から縄を外し、水洗い。
- 約60日漬けこむ。
※いぶし期間:11月上旬~12月上旬 漬け込み:12月末~3月
工程①:編み込み
- 大根は一度凍ると、中の細胞が破壊され柔らかくなり、漬物のパリパリとした食感は出なくなるので、いぶし作業は秋までに行なう。
- 大根を10本1組で縛り、全て編み込むと10㎏にもなる。
- 改良秋田という漬物専用の大根もあるが、大根の種類によって食感などに違いが出るので、生産者の好みでつくられる。
※東屋さんは青首大根を使用。漬物専用の大根より、仕上がった時の食感が柔らかいらしい。
工程②:燻し(燻製)作業
- 燻しは、いぶり漬けの味を決める重要な工程。
- 気温や気候によって異なるが、およそ4、5日間燻し作業が行われる。
- 最初は強火で、2~3日したら火を弱火にする。
※強火だと早く乾燥して燻製の匂いが付きにくく、弱火だと時間がかかり、煙臭くなる。この火力の微妙なバランスが重要になる。
- 夜は火が消えぬ様に大きめの薪を入れるなどして管理する。
- 一定箇所だけ燻されてないよう、大根の位置か火の位置を変える。
- 燻し上がりの目安は、大根がくねくねと曲がるくらいがいい。
- 燻す温度で熱燻、温燻、冷燻に分けられるが、いぶり漬けは冷燻。
※30℃くらいの温度で長時間燻製するため、乾燥がさらに進み、保存性も向上する。
- 1kgの大根は最終的に250g程になる。
〈燻し小屋〉
- 小屋は木造が多く、完全に密閉されている訳ではなく、煙を通す排煙口もついている。
※大根の水分を飛ばすため。
- 東谷さんの燻し小屋は広さ約6畳、高さは約4mあり、一度に1200本程燻す事が出来る。
〈使用する薪〉
- 燻しに使用する薪は脂の少ない広葉樹。
- 村では、桜の木を使用したが、横手はリンゴの産地ということもあり、剪定や倒木したリンゴの木をリンゴ農家からもらい、薪として使用する家も多い。
〈主な広葉樹の特製〉
ナラ:タンニンを多く含んでいるので、色づきが早く濃いが、少し渋みが残る。
サクラ:日本の燻煙材の代表。クセが無いので異なる食材に同時に使用する事が可能。
リンゴ:豚肉や白身魚などの淡白なものに合う。上品でまろやかな味に仕上がる。
サクラやナラより煙の匂いは付かない。
※針葉樹の場合、品物が黒ずんでしまう上に、樹脂による刺激的な臭いが付いてしまう。
燻製
煙が持つフェノール化合物とカルボニル化合物の働きが抗菌・雑菌・保存性の上昇につながる。
フェノール化合物
食品を腐敗させる菌を減らし、殺す効果がある。
煙が食品の周りに膜を作り、外部の殺菌付着侵入を防ぐ。
カルボニル化合物
食材の水分を抜き出す力がある。
殺菌効果がある。
工程③:水洗い
- 燻し後の大根の表面には煙やすすが付いているので洗い流す。
- そのまま漬け込むと、苦みが残る上、煤が混ざるためジャリとする。
工程④:漬け込み
- 燻し後、1日冷ましてから行なう。
※燻したばかりに漬けむと、まだ温かいため酸味が強くなる。
- 麹、大根と交互に桶がいっぱいになるまで敷き詰めて、およそ60日漬けたら完成。
※長く漬けすぎると酸味が強くなる。
〈漬け込みの材料〉
塩:脱水と殺菌効果。
ザラメ:砂糖よりも甘みが増し、よい色になる。また、仕上がりにネバリが出ない。
米麹:旨みと甘みが付く。
米糠:香りが付いて大根からでる水分を吸ってくれる。
蒸かし玄米:大根の旨みを引き出すのと玄米の香ばしさが付く。
※それぞれの作り手によって分量は変わり、紅花やトウガラシ、ウコンも入れる。
いぶりんピック
- 一番おいしいいぶりがっこを選ぶイベント。
- 横手市役所の発案で2005年から開催されている。毎年2月初旬に行なわれ、各家庭からの応募により出品される。
- “第6回いぶりんピック"(2012年2月2日開催)参加者30人。
部門
クラシカル部門:いぶり漬けのみ
フリースタイル部門:燻した食材を活用した創作メニュー
いぶりがっこクラシカル部門
- 審査基準:食味・外観・歯ごたえ
- 横手市在住している方のみエントリーが出来る。
- 金・銀・銅の入賞者には「秋田杉の樽」が贈呈される。
いぶりフリースタイル部門
- 審査基準:食味・インパクト・商品性
- 全国から応募が可能。
今回の主な作品:燻し柿チョコ、いぶりがっこタルタルソース、天草いぶし桜鯛漬け
がっこまんじゅう、ハタハタの燻製、いぶり大学芋、いぶりクッキー等
結果
- 東谷さんが3位。
※去年の優勝に続き2年連続で入賞した。
- 高橋さんは審査員特別賞。
明雄さんメモ
- 昔から、燻し大根を作ってたぞ。囲炉裏に吊るして、一週間くらいしたら、漬けるんだ。当時は、砂糖とか蒸かした玄米とか高級で買えなかったから、米ぬかに漬けただけだったけど、燻しの風味がしてうまかったぞ。
- 冬場は、大根以外にも凍み餅だったり、そばの実だったり色んなもんを囲炉裏の上に置いて、保存したんだ。腐らなくていいから、囲炉裏はよく重宝してたな。だけど、こたつになってからは、使わなくなっちまった。
雪中(せっちゅう)キャベツ
- 9月下旬から10月上旬に種蒔きし、雪が降る直前に収穫し、雪の中に保存する。
- ある程度の雪が積もっていると(30cm以上)雪の厚みで断熱効果が発生し0℃に保たれる。
※作物の凍結開始温度は-1.5℃程度。
- 雪の下に保管する事で、外観、内部成分、食味ともに、収穫時の品質が長期にわたり維持される。
- 横手市増田町の60件程いる農家のほとんどが雪の中に野菜を保存しているが、出荷・販売しているのは5件程。
栽培農家
佐藤 久夫(さとう ひさお)さん 61歳
キャベツ、白菜、ネギ等、多種の野菜を栽培。毎冬、キャベツ約6000個、白菜 約4000個を雪中保存している。
その他の雪中保存している野菜
白菜…稲ワラで結束して、キャベツと同様に一カ所にかためておく。食べる時は、痛んだ外皮をはいで、中心部だけを食べる。
ネギ…ネギが雪で折れない様に横に寝かせて保存する。糖度が増し柔らかくなる。(軟化ネギ)
DASH村の冬野菜
- 例年、白菜などの冬野菜の一部は収穫せずに畑に植えたまま保存していた。(多くは室(むろ)で保存)
- 野菜を覆うほど雪が降らないので、凍ってしまう。
※凍み白菜として食べていた。
- 結球表面が日に当たり葉温が上昇するが、夜間は氷点下になると凍結する。このように凍結と解凍を繰り返しことで凍結障害が起こる。
- 作物の限界を超して強く凍結すると、細胞が致死し、白化(障害を受けた後に乾燥した場合)したり、ぬるぬる溶けたような状態(障害を受けた細胞から細菌が侵入し、腐敗を引き起こす)になる。
※DASH村の白菜などは、凍結障害にかかっていた事が予想される。この保存方法だと葉の痛みが激しくなり、販売できなくなる。
雪中貯蔵でキャベツの甘みが増す理由
収穫前のキャベツは、寒くなるにつれ糖含量は増えるが、この時期には甘みを感じるのを妨害する成分も多く、甘みは感じにくい。しかし、雪中保存すると糖含量は変化しないが、悪臭成分や青臭み成分は、急激に減少するので甘さがましたように感じられる。
雪中保存のメリット
- 光が当たらない
- 0℃に保たれる
- 湿度が100%
※光合成や呼吸など植物の生命活動を最小限に抑える事ができるため腐敗しにくい。
※0℃は野菜の品質を保つには好都合な温度。作物の呼吸による消耗が非常に少ない。
雪中保存方法(キャベツ)
- 12月初旬(雪が積もる前)頃、キャベツを根っこごと収穫し、木枠で囲った中に1カ所にまとめて並べる。このように固めておくことで収穫しやすい。
- まだ締まっていない若いキャベツ(7割位の結球)を使用し、残している根から養分を吸うため、徐々にギュッと締まる。
明雄さんメモ
- 福島県は秋田県ほど雪が降らなかったから、野菜は雪じゃなくて、土の中に埋めて保存したんだ。ジャガイモやニンジン・大根を埋めてたけど、春まで保ったぞ。
- 雪が降ったら、掘り起こすのが大変だったな。
せりとは
- セリ科の多年草
- まるで競い合う(競り)ように群生していることでせりと名付けられたと言われる。
- 独特の香りを持ち、主に茎や葉を食用とする。
- 種子の発芽率が低い植物で、栽培する場合はランナー栽培となる。
※DASH村では里山から流れる小川(水車裏など)に自生している。
三関地区
- 山に囲まれて、風通しが良く、寒暖差が大きいため、果樹がよく栽培されている。
- 東鳥海山(標高777m)に連なる山からの湧き水が豊富。
- サクランボやリンゴの木に挟まれてせり田が広がる。
三関(みつせき)せりとは
- 江戸時代から栽培され、在来種から選抜淘汰されたもの。
- 冬に獲れる貴重な野菜として重宝された。
- 他の地域のせりに比べると葉や茎が太く、長く伸びた根が白くしっかりしているのが特徴。
- 根っこまで食べる。
※東京では根の部分を食べる習慣がないため、安価で取引されるため、殆どが秋田県内での販売となっている。
- 松尾芭蕉が象潟を訪ねた元禄年間(1688~1703年)には、堰に自生するセリが既に村の特産になっていた。
秋田の鍋に欠かせない一品。
栽培農家
高橋繁浩(たかはし しげひろ)さん 65歳
明治時代から続く4代目。せり栽培30年のベテラン。夏場はサクランボ、冬はせり栽培を行なう。
セリのハウス栽培
- セリのハウス栽培の歴史は浅く、まだ20年程しか経っていない。
- ハウスが出来る以前は露地栽培で、霜や雪の重みで葉や茎が萎びてしまっていた。
- 現在では露地が2割、ハウスが8割となっている。
- ハウスに溜まる雪が断熱効果を高めており、水温は3~8℃に保たれている。
収穫
- 路地の収穫は10~12月。
- ハウスは12~3月。
- 根っこごと収穫するため“シホー"という三関せり収穫の専用のフォークで土ごとかき出す為。普通のフォークとは違い、先っぽが尖っていない。
特徴の白くて長い根
- 湧き水が流れる事で、隅々まで酸素が行き渡り、独特の根が育つ。
- 気温が下がると自然と葉茎の生長は止まるが、土に保温された根の部分は生育し続けるため、根が長くなる。
※土に含まれる鉄分が根から出る微量の酸素に反応(酸化鉄)して根が赤くなってしまう。対策として、木炭を土の中に混ぜる。そうする事によって、木炭に含まれる酸素に鉄分を反応させる。さらに、炭を混ぜる事により、浸水性、通気性も高まる。
※せりの心臓部とも言われる、根と茎の間の部分が凍ってしまうとせりは死んでしまうため、その部分は漬かる様に水は深めに入っている。
ランナー栽培
- 各家で病気にかかっていない、いいセリ(親株)を種用に残しておく。
- 4月、収穫が終わった頃、それらを苗代である丘の畑(種田)に移植。
- ここで育てた親株から、やがてランナー(匍匐茎)が伸び、そこから子、孫と発芽する。
- 夏ころまでに1メートルにも伸長し、田一面に広がる。
- セリの花が咲く9月頃に茎を鎌で刈り取り、
- 切りそろえた後、水を抜いた本田に植えつける。
植え付け時期
- 露地は8月下旬~9初旬
- ハウスは9月下旬~10月初旬
- 植え付ける茎は1本60cmくらいに仕立てる。
- 植えた茎は必要ない部分のため収穫する頃には溶けてなくなっている。
明雄さんメモ
- 秋田県のセリのように、冬に野菜は栽培してなかったな。冬は、殆ど山仕事をして、山の管理をしてたな。
- セリは、春先からよく水辺に自生してたから、とって天ぷらや和え物にしてよく食べてたぞ。
- 春先に出るセリは緑の部分が少ないから、根っこまで食べてたぞ。