地勢
県北部は、比較的緩やかな山地だが、県南部は標高1,000m級の山々が連なる山岳地帯。阿蘇山や九州山地が源流である一級河川、菊池川・白川・緑川・球磨川などがあり、菊池平野・熊本平野・八代平野を潤す。地下水量は日本一。
熊本県のトマト栽培
- 収穫量日本一(およそ10万t/2位の北海道と比べると2倍)
※平成13年から1位をキープ。全国シェアの15%位を占める。
- 冬春トマトが盛んで、全体の7~8割を占める。
- 平坦地と高冷地でリレー栽培され一年中出荷されている。
※冬春トマトは平坦地である八代地域、夏秋トマトは高冷地である阿蘇地域。
冬春トマト
- 甘みが強い。
- 主な産地:熊本県、愛知県、千葉県
- 8月頃に定植され、10~6月頃まで収穫される。越冬トマト。
夏秋トマト
- 7月頃~11月頃まで収穫。収穫時期は5ヵ月と冬春トマトよりは収穫時期が短い。
- 程好い酸味と甘みがある。
- 主な産地:北海道、茨城県、福島県
トマト
- 原産地:ペルー
- リコピンという色素があるため赤い。リコピンは生活習慣病から身体を守ってくれる。
歴史
- アンデスの山に生息するペルービアヌムという緑色の小さな実が先祖。
- 日本で初めてトマトが渡来したのは江戸時代だったが、色が血の色として嫌われたため、当時の日本人には食用として受け入れられなかった。
- 昭和に入ってから、本格的に日本でトマトが栽培されるようになった。
DASH村でのトマト栽培
- 露地栽培/ハウス栽培(雨除け。サイドが空いており、虫や風は自由に入り込む。)
- 直立1本整枝法
- 最も古い整枝法で、初心者向き
- 本来、ほふく性のトマトを直立に誘引することで管理が楽に。
- 花房が6~7房、草丈が150cmと生育と収量が安定。
- 目的とする地点まで到達したら、早めに上葉2枚を残し生長点を摘心する。
※果実の肥大と充実を促進
※生長を抑え気味に管理すると、良品多収になりやすい。
- 収穫期間:7~9月の約2ヵ月間。
明雄さんメモ
やっぱり、トマトと言ったら夏野菜だな。福島は熊本のように暖かくないし、昔はハウスなんてなかったから、7~9月くらいまでしか収穫出来ないんだ。
トマト農家
斉藤 栄一郎さん 40歳
25歳の時、両親を手伝いたいと就農。有機肥料を使用、農薬の過剰散布をしないなど、自分の代で資源を使い尽くさず、後の世代まで持続可能な農業をめざして土づくりに力を注ぐ。
誘引方法
吊り下げ方式
- 垂直に生長させて、クリップで上から吊り下げる。
- 上まで到達したら、横に移動しつつ、生長点を下げて、さらに上に生長するように仕立てる。
- 収穫したトマト付近にある葉は不要なため、切り取っていく。
※ビニールハウスを有効利用して、長期間栽培ができ、収量も上がる。
※誘引を頻繁に行なうなど管理が大変だが、上に伸びようとする植物本来の働きを邪魔しないため、株へのストレスを軽減できる。
※斉藤さんのトマトは5~6mになり、一株から70~80個収穫。
明雄さんメモ
1本仕立てが普通だったから、あの仕立て方には驚いたな。
受粉
原産地は南米アンデスの標高2000~3000mあたりなので、殆ど虫がいない。そこで、トマトの花は下向きに咲き、風に揺れるだけで受粉する。(風媒花)
※日本ではハウス栽培で風が吹かないので、マルハナバチを使う。
※トマトは蜜がないためミツバチは集まらない。
マルハナバチ
- 体長2センチ(ミツバチよりやや大きい)
- 巣は、動物が掘った穴や木の根元の空洞、建物の隙間などに作る。
- 幼虫の餌と巣の材料になる花粉を集める作業が植物の受粉を助ける。
※花粉は幼虫の体を作るタンパク源になる
- トマトの花に停まったあと体を震わして、花粉を振るい落とし、出て来た花粉を腹部で受ける。この時、ストロー状の口を葯筒に刺すので、この刺し傷が「バイトマーク」として表れ、受粉したかの判断ができる。
- 寒さに強いが暑さに弱い
マルハナバチの受粉方法
- 受粉するのにベストなタイミングを見極められる。
- 花粉の集め方を学習すると続けて同じ花に訪花する習性がある。これを限定訪花性という。
ぶんぶん太助
マルハナバチでは、不十分な時に『ぶんぶん太助』を使い、花を振動させて受粉を促す。
明雄さんメモ
- 村では、ミツバチや野生のマルハナバチもいたし、ハウスには風が入るようになっていたから、自然に受粉されてたんだな。
- 山には野生のハチが沢山いたんだ。マルハナバチもよく見たぞ。木の葉を丸めて巣の中に良く運んでたぞ。
おいしいトマトの見極め方
実の下側から放射状に伸びる星形の白いライン。これが糖度が高い証。長ければ長いほど糖度が増すと言われている。
明雄さんメモ
ハウスが使えるようになったのは最近だったから、ずっと露地で栽培してたんだ。だから、水を切ったりと、甘くするように栽培出来なかったから、トマトに星のマークができるなんて知らなかった。
トマト自動選果機
コンベアーの上に自動で開いていく受け皿があり、そこにトマトを一つずつ乗せる。
受け皿が進むにつれ、受け皿の底が徐々に開いていき、適応なサイズまで開いた所でそれぞれ落ちる。落ちて来たトマトをサイズごとに選びながら一つ一つ手作業で箱詰めする。
※機械が年代物になって、若干計測にズレが出るようになったので、見極めるには熟練の勘も必要。
箱詰め名人
中村 由美さん 45歳
選果歴:3年
斉藤農園でも選果の速さはトップクラスで、触れただけでトマトのサイズが分かる。
八代地域 (トマトの生産量日本一)
- 冬春トマトの生産量日本一。
※10月から翌年6月まで、年間2万トンが出荷。
- 江戸時代以前の八代平野は、大部分は海の底だった。
トマト農家
松村 薫さん 42歳
栽培品種:アニモ・みそら・りんか
収穫時期:11~6月
栽培歴:約8年
およそ8年前に両親が務めていたトマト栽培を手伝うようになった。一般的なトマトを栽培しているが、土壌の条件から生産される「塩トマト」を販売。塩トマトのケチャップやジュースも販売する予定。
糖度計
トマトに照射した光と果実内部から戻ってくる光を対比して、糖度と酸度を計測。
塩トマトの特徴
- 通常のものより小さめサイズ。
- 歯ごたえがある。
- 糖度は8度以上。(通常:5~6度)
- 生産量は農協共販で約250トンと八代地域で栽培されるトマトの10分の1を占める。
歴史
熊本県では、塩トマト栽培は40年ほど前から存在していたが、当時は大玉のトマトが流通だったため、小ぶりという理由で売れず、廃棄処分にされていた。しかし、一部の市場で小ぶりだが甘くておいしいと反響を呼び、売れるようになり、平成3~4年頃より「太陽の子」「塩次郎」などとして出荷し始めた。
特徴
- 塩トマトが美味しくなるのは、土壌の塩分濃度が高いため作物が水を吸収しにくくなり、その影響で甘くなる。(ショック農法)
- 塩分というストレスを与えている為、株が枯れるのがおよそ一ヵ月早い。
- 同じ畑で塩分濃度が異なる為、塩トマトがなる部分とならない部分がある。
※大規模な農園を所有していても、多く塩トマトが取れるとは限らない。
塩トマトの仕組み
- 八代市水島地区は地下水が自噴している場所が多く、生活用水や農業用水などとして使う。
- 地下水を使用する事で淡水の量が減り、海の圧力も相成って帯水層に海水が侵入、地下水に混ざる
- ハウス内の水分を制限する栽培において、地表が乾くので塩分を含む水が水蒸気となって遡上し、塩分は地表に蓄積される。
※粘土質の土が多い場所は、水蒸気が遡上しやすく、塩分も多く地表に蓄積され他の場所よりも塩分濃度が高くなる。
- 植物は浸透圧によって水分を吸い上げているが、地表部分の塩分濃度が濃くなると、根から水分を吸い上げる際、トマト自身の樹液も濃くならないと吸い上げられないので、樹自体が濃縮され、濃度が濃い高糖度な塩トマトが出来る。
明雄さんメモ
塩トマトは、初めて食べたけど、本当に美味しいな!自分でもあんなに甘く育ててみたいけど、福島では難しいかな。けど、ミニトマトは甘いぞ。
分類:ナス科ナス属
原産地:インド
シーズン:5月~9月頃おもな産地:、高知県(約11%)、熊本県(約11%)、福岡県(約9%)
※2010年の統計では、収穫量では1位だが、出荷量は高知県に次いで2位。
熊本市植木町
- 2010年に熊本市に統合
- 「スイカの名産地」として有名。生産量日本一。
ナス農家
木山 英樹さん 32歳
栽培品種:筑陽
(冬春ナス:収穫11~7月 収量50t/夏秋ナス:収穫6月~12月 収量50t)
栽培歴:7年
元々アパレル業界で働いていたが、25歳の時に親の跡を継いで農家に転身した。ナスを周年で栽培する傍ら、植木名産のスイカの栽培にも力を入れる若手農家。スイカの品評会では最優秀賞を獲得。
筑陽の特徴
- 九州で一般的なナス(長さ20cm)
※関東で一般的なナスの長さは15cmほど。20cmになると長なすと認識されることもある。
- 『肥後のでこなす』
秋から春にかけてハウスで栽培する筑陽の中の選ばれたナス。調理しやすいように品種改良され、煮てよし、焼いてよし、揚げてよし、漬けてよしの4拍子そろったナス。
栽培方法
- 周年栽培
※夏用と冬用とハウスを分けて、一年中栽培している。
- 4本仕立て
※株に負担がかかるが収益が上がる為、ほとんどのナス農家の人はこの仕立て方をしている。
※夏と冬とでは光の当たり方が違うので、光がよく当たるように、仕立て方を変えている。
ナスの誘引方法
茎(枝)の角度を調整することで、光の届き方や株の生育の旺盛さをコントロールすることができる。
冬春ナス V字型整枝法
ナスの植物体の特性として、茎を直立させた方がその茎は旺盛な生育を示す傾向にあるので、真っすぐ上に伸びる事が出来るので、生育段階の生長が旺盛で木自体が強くなる。しかし、生育後の日当りが、若干悪くなる。
夏秋ナス U字型整枝法
U字にすると生育段階で水平に誘引しなければいけないので、そこで木が弱る。
夏秋ナスの特性として、木自体が強くなり過ぎて、変形果や劣化果が出来やすくなってしまう事もあるので、木を一度弱らせから垂直に仕立てるとバランスが良くなる。光の当たり具合は、全体にまんべんなく当たる。
収穫(摘心)方法
次の花芽に栄養が行くように、収穫するナスがなる枝の根元から切りとる。
花の上に葉を残さないのが特徴。生育の早い夏秋栽培では、摘心作業の遅れによる徒長枝の発生が抑えやすくなり、作業上効率的となる。品質、収量も葉を残した場合と比べて同程度かやや良好となった。このように、収穫しながら、側枝の摘心も行なう(側枝更新剪定)。
明雄さんメモ
若手の農家さんだったけど、自分なりに勉強して、努力して作り上げたナスは、上物だった。あれ程の建物で、あの量を管理するのは大変。すごい努力をしているんだと思う。これからも、頑張って欲しいと思う。
大長なすの特徴
- 40~70cmと全国でも最大級の長さを誇る
※関東で一般的なナスの長さは15cm
- 太さが一定=調理しやすい
- 果肉は甘さがあり、水分が多く柔らかいが、アクがないので、生で食べられる。
- 水分量が多い
井村 正裕さん (熊本県熊本市北区植木町内)
栽培品種:黒紫
収穫時期:4~11月
大長なす部会の部会長。大長なすを守り、広めるため、自身も栽培しつつ若手農家の育成も行なう。
栽培日程
9月頃 播種
2月 定植
4~11月下旬 収穫・出荷
- 同じ株から半年以上、収穫し続けられ、合わせると一株で100本以上は収穫出来る。
- 一度に、30本ほど生る事もある。
生長具合様子見
- 生長具合はヘタ元を見る
ナスの紫色は「ナスニン」という色素で、日光に当たる事によって作用する。伸びたばかりは白く、徐々に紫色に変色していくので、ヘタ元が濃い紫にグラデーションする。
- 株の具合は、葉脈や茎の色味を見て判断する。
※濃くはっきりとした紫色だと株は健康な状態と言える。
ナスニン
アントシアン系色素のポリフェノールの一種。強力な抗酸化作用があり、眼精疲労の回復にも効果的。また、コレステロールの吸収を抑制し、生活習慣病のひとつとなる動脈硬化の予防効果もある。
栽培方法
天敵栽培
害虫のアザミウマ類・コナジラミ類を退治する為、天敵であるスワルスキーカブリダニを散布。スワルスキーカブリダニ(直径:0.3mm)はボトルに入れられ販売。直接、ボトルから散布する
苗の育成方法
- 高い位置で実が生るように、60cmの位置で二手に分かれるように仕立てる。
※1つ目の花が咲いた所から二手に分ける
※十分でないと実が短くなる上、曲がったり、地面につき病気にかかりやすくなるなど問題が生じる。
※ポットで株を育成させる段階で苗同士密接させ、徒長を促進。
- 筑陽の定植時の苗の高さは30~40cmほど。
選果
大長ナスを計るお手製専用物差しがある。
長さは「M・L・2L・3L・特」と記された目盛りで区分けし、幅13cmある物差しからはみ出さないかどうかで曲がり具合を判断する。これを元に箱詰め作業を行う。
明雄さんメモ
- 大長なす料理は、本当にうまかったな。焼大長なすは一番美味しかった。太くて長いから食べきれないかと思ったが、ぺろっと食べきっちゃったぞ。
- 実際に今、育ててるんだが、下につかないように苗の段階で高く仕立てるのがなかなか難しい。
- もらった苗を畑に植えたら、今、実が10~20cmくらいにまで生長したけれど、少なくとも30~40cmくらいにはなると思う。いいやつを作って、みんなに食べさせて上げたいな。