出張DASH村

北海道 真狩村

  • 真狩川畔にいつからか不明だが、アイヌ人のヒートンド一族が生活していた。
  • 1895年(明治28年)、香川県出身の神原弥吉や大平紋治がマッカリベツ原野へ入地し、開拓。
  • 明治年代に入ると大規模農場の創設。耕地面積が拡大し、ジャガイモ栽培が盛んに。
  • 戦後、ユリ根の日本一の産地になった。

羊蹄山が生んだ雪下にんじん

  • 羊蹄山麓の肥沃な大地と伏流水で育ったにんじんは栄養価が高く、ビタミン・ミネラル・カルシウムなどを多く含む。特にカロテンは豊富。
  • 農家さんにとっても四季や天気を予測するバロメーターとなる。

羊蹄山とは

  • 標高1898M。
  • 形と周囲に山がない環境(独立峰)から『蝦夷富士』とも呼ばれる。
  • 2003年に気象庁により活火山に指定された。
  • 羊蹄山の名は、植物の「ギシギシ」に由来するという説がある。ギシギシは漢字で「羊蹄」と書く。

お世話になった方

大廣好美さん(35歳)

開拓当時から続く農家さんの5代目。父、寿男さんより今年の1月より畑を受け継ぐ。除雪、洗浄、選別と委託する事も多いが、全て自分たちの手で行う。雪下にんじんの他に、ユリ根も大規模に栽培。

大廣寿男さん(63歳)

寿男さんの代から雪下にんじんの栽培が始まった。ユリ根の振興会長も担っていた。

三野伸治さん(35歳)

好美さんの同級生。リーキ、根セロリなど、多品種の野菜を栽培。雪下にんじんは、一般的なオレンジのものだけでなく、黄色や紫色のにんじんも栽培している。
ウレタン加工した倉庫に雪を入れ、雪室に雪下にんじんを保管。

三野愛さん(35歳)

11年前に伸治さんと結婚し、三児の母。結婚後、伸治さんが栽培した野菜を広めるため、野菜ソムリエの資格を取得。

大廣さんと三野さんの関係

幼稚園と中学校までずっと同級生だった。小学生時代は、同級生が七人しかおらず、そのうち、男子は好美さんと伸治さんの二人だけ。高校、大学をそれぞれ別の道を歩んでいたが、共に農家を継いだ。

雪下にんじん(セリ科にんじん属/原産地:アフガニスタン)

  • 一年を通じて栽培されているが、比較的低温を好むため、旬は冬。雪下にんじんは4月。
    →冬に収穫されるにんじんはβ-カロチンが豊富なので、濃いオレンジ色をしている。
  • にんじんの生育適温は18~21℃。
  • 全国の生産量の3割を北海道が占め、次いで千葉、青森、徳島、埼玉、茨城の順となる。
    →地域の気候に合わせ、全国で周年栽培される。
    ・秋にんじん:北海道(全国の8割以上)
    ・冬にんじん:千葉、埼玉、茨城
    ・春夏にんじん:千葉、徳島
  • オレンジ色の色素はカロテンで、体内でビタミンAに変わる。
    →緑黄色野菜の中でも、カロテン含有量はトップクラス。約50グラム食べれば、成人に1日に必要な量のビタミンAがカバーできるといわれる。
    →カロテンの名も、英語のキャロット(にんじん)に由来。

にんじんは嫌いな野菜の代表?

  • 日本人の三分の一が「にんじん嫌い」で、三分の一が「にんじん好き」、残り三分の一が「好きでも嫌いでもないが、からだに良いから食べている」という調査結果があると言われる。
  • にんじん嫌いの理由は、その独特の匂い、いわゆる「にんじん臭」と言われる青臭い匂い。
    →そのにんじん臭とはテルペンとカロテンと言われる。

にんじんの歴史

  • アフガニスタン北部が起源とされ、数千年に渡る栽培の歴史がある。
  • 中央アジアからヨーロッパの方へと伝わったものが「西洋にんじん」
    →黄色が主流だったが、紫の色素を作る遺伝子が欠けたことで、オレンジ色のにんじんが誕生。
  • 中国の方へ伝わったものが「東洋にんじん」
    →日本では、金時にんじんという赤い品種のにんじん

にんじんの日本史

  • 江戸時代初期に、東洋にんじんが、江戸時代後期に西洋系のにんじんが長崎に上陸。
  • 宮崎安貞の「農業全書」(1697年)では、菜園に欠くべからずと栽培を奨励し、貝原益軒の「菜譜」(1714年)では、野菜の中で第一の美味なりと高い評価を得ていた。

雪下にんじんの特性

  • 水分が豊富な野菜は、凍ってしまうと水の体積より氷の体積のほうが大きいために、自身の細胞を壊してしまう。
  • 野菜は身を守るため、細胞内のデンプンを糖に変え、糖濃度を高め、氷点下でも凍らないようにする。
  • 甘みや旨味のもとであるアミノ酸含量が増加するので、味は甘くなる。
    アミノ酸とは・・・
    ・体の60~70%が水分だが、20%がたんぱく質などのアミノ酸でできている。
    ・おもに筋肉や消化管、内臓、血中のヘモグロビン、髪や皮膚のコラーゲンなど、カラダの重要な組織をつくるたんぱく質を構成している成分がアミノ酸。
    ・食べたものを消化したり、呼吸したりできるのも、アミノ酸のおかげ。
  • 特有のにんじん臭さが減少し、香りはマイルドに。
    →様々な匂い成分のうち、好ましく香る成分であるカリオフィレンが、12.6倍に増加してにんじんの総香気成分量の32%を占めるようになる。
  • 歯切れのよい食感である。

羊蹄山が雪下にんじんを生んだ5大条件

1.肥沃な土壌

  • 羊蹄山のすそ野にあり、山の恩恵を多分に受ける。
  • 肥沃な土壌に、起伏のある圃場は排水性に富むなど、おいしい作物を作る条件が整う。

火山の恩恵を受けた土壌

  • 真狩村は、羊蹄山や有珠山の活火山の影響を受け、ほとんどが黒ボク土。
    ・黒ボク土は、通気性や排水性が良いだけでなく、保水性もある。
    ・土壌が軟らかくて耕しやすい。
    →きわめて物理性がよく、作物の栽培に適している。
  • 排水性が良い分、肥料も流れやすいので、しっかり施肥は行う。
  • 黒ボク土は、日本全土の約16パーセントを占めており、およそ64%が農地。
    →畑地、果樹園、牧草地として広く利用される。また低地では水田としても利用される。

2.名水100選にも指定される羊蹄山の湧き水

  • 羊蹄山は、非常に水が浸み込みやすい岩質で山腹に渓流がない。
    →羊蹄山に降った雨や雪は、そのほとんどが地面に吸い込まれ長い地下水脈を形成する。
  • およそ100年もの年月をかけて、水はろ過・浄化され様々なミネラル分を取り込みむ。
  • 1日に8万トンもの水量が湧き上がるが、水温は6.5℃に保たれる。
  • 北海道内外から、採水するために人々が立ち並ぶほど。
  • 1985年には環境庁から「名水百選」に選ばれ、2008年の北海道洞爺湖サミットでも使用された。

3.最適な環境下で育てられる

高原性気候で昼夜の寒暖差が激しいため、甘味が強いにんじんが育つ。

4.北海道でも有数な豪雪地帯

  • 虻田郡は全ての市町村が豪雪地帯認定を受けている。
  • 羊蹄山麓で特に雪が多い要因としては、冬型の気圧配置が強まり大陸からの季節風に乗って来る雪雲が羊蹄山にぶつかって、雲が留まり大量の雪を落とす。
    →もし羊蹄山の標高がもっと低ければ豪雪にならないとまで言われる。

5.収穫後の品質保持

収穫後は速やかに予冷庫に保管され、温度を下げないように羊蹄山の伏流水で洗浄。

雪下にんじんと積雪の関係

  • 北海道には、にんじんの産地がいくつかあるが、雪下にんじんの産地と言えば真狩村。
    →にんじん全体の生産量は、十勝や富良野が多いが、積雪が少ない為、雪下にんじんが凍ってしまう。
  • 雪は土に比べて熱の伝わり方が悪いので、1m以上の積雪があると雪が断熱材になり、凍らない。
    →雪の中は0℃よりも低くなる事がないので、深度1mくらいは雪中と同じ温度になる。

氷温

  • 冷蔵でもない、冷凍でもない、第三の温度域。
    →この温度で野菜や果物、魚介類を保存すると旨味や甘味、保存性が増す。
  • 水は0℃で凍り始めるが、野菜や果物、魚や肉などの食品は、それぞれの凍り始める温度が違う。
    →この0℃以下からそれぞれの物が凍る温度(氷結点)のこと。また、その温度域を氷温域という。
    →にんじんが凍る温度は-1℃前後で、真狩村の雪の下の土壌は、ほとんど-0.6℃に保たれており、まさに氷温域にあると言える。

氷温域の特徴

  • 氷点下でも氷温領域では細胞レベルでは死ぬことはなく、むしろ、生きるか死ぬかの環境で、凍結から身を守るべく、細胞内に不凍物質を蓄積しようとする。
    →この物質が旨味や甘味成分であるアミノ酸や糖類。
  • 昔から日本には、寒仕込み・寒干しのように自然の冷気や水を利用した伝承食品がある。
  • 一般的に農水産物はとれたてが最も美味しいとされたが、氷温処理すると、鮮度を維持しながら熟成するので、とれたてよりも美味しくなると言われることも。
    →雪下にんじんの場合、それでいて穫れたて!
  • 切り身の魚でも、きざんだ野菜でも高温殺菌したり、凍結していないかぎり、氷温下で熟成させることが出来る。

雪下にんじんの収穫~出荷まで

  • 雪下にんじんの収穫は、3月20日くらいから4月いっぱいまで行われる。
    →雪下にんじんは、完熟な上、水分が多いので日持ちがせず、旬はおよそ1ヵ月と短い。
  • 降雪が落ち着き、2mほどの積雪が解ける前までに収穫しないといけない。
    →早すぎると、除雪した後に雪が降り、二度手間になる。
    →遅すぎると、芽が動き出し始めてしまう。

収穫

  1. ユンボでにんじんのすれすれまで除雪。
  2. 融雪剤(炭)を散布し、3日ほど放置し、雪を解かす。
  3. 畝をほぐし、人の手で集めて、茎を切り取る。
  4. 袋に集め、トラクターで運ぶ。

保管(雪室倉庫)

  • 天然の冷蔵庫。室温は2℃前後、湿度は約90%以上に保たれる。
    →食品の水分が損なわれる事なく、みずみずしく新鮮な状態で長期保存する事が出来る。
    豪雪地帯ならではの雪の活用法。
  • 電気を使わず環境への負荷が少ない上、食品が電気振動を受けない点も良い影響があると言われる。

洗浄

にんじん洗浄機

  • U型に配列されたブラシロールが回転することにより、むらなく均一に洗浄できる。
  • 洗浄にも羊蹄山の湧き水が使われる。

選別

選別は、細かく11段階に分けられる。
→SS・S・M・L・2L・3L/優品M・L・2L/20kg箱/カット(傷物など)

良質なにんじんの見分け方

  • 上から見て、葉のついていた部分が小さいもの。
    →茎の太さは、にんじんの芯の太さとリンクしており、芯と外側の部分では、栄養価も甘さも異なる。
    →βカロテンの量で2倍、ショ糖の量で4倍、外側のほうが多い。つまり、芯の部分が細ければ、外側の部分が大きいということになり、その分、栄養や甘みの多いにんじんが食べられる。
  • 季節や品種によって多少違うが、なるべくオレンジ色の鮮やかなものを選ぶ。
    →カロチンが豊富な証拠。
    →カロチンはガンを抑制する効果がある。さらに、抗酸化作用を発揮して動脈硬化や心筋梗塞の原因となる活性酸素の働きを防ぐ。

カロテンは皮付近に多い!

にんじんの皮は非常に薄く、出荷段階の洗浄で泥と一緒にほとんどが洗い流される。
→今まで「皮」と思ってむいていたのは「内鞘(ないしょう)細胞」という部分で、栄養が最も多く含まれている場所。割合でいうと、カロテンは2.5倍、ポリフェノールは4倍、グルタミン酸は1.5倍もある。
→根菜類は、皮に栄養分を集めて、野菜のみずみずしさを外に逃がさないようにブロックしている。

皮を剥くようになった理由

  • 野菜の皮をむく習慣が広がったのは戦後になってから。
    →江戸時代から伝わる漬物や切り干し大根は、皮をむいてない。皮をむかない方が効率良く栄養分を吸収できるので、皮まで食べる工夫をしていた。
  • 食べたときの食感をよくするため。
    →食物繊維が集まった皮の部分は、かみ切りにくく、のどごしが悪くなる。
  • 外国産の野菜の皮には農薬や防腐剤がついている、と心配する人がいる為。
    →ここ10年くらいで食の安全が注目され、皮を厚くむく人が増えた。

調理

カロチンは油に溶けやすいので、サラダ油やオリーブオイル、バター、生クリームなどといっしょに調理すると、カロテンの吸収利用が促進される。

雪下にんじん麺のパスタ

  1. 雪下にんじんをピーラーで1cm幅に薄く削る。
  2. 牛乳、生クリーム、コンソメの素を合わせて、フライパンで温めたソースにすり下ろした雪下にんじんを加えて、粉チーズ・塩・コショウで味を調え、弱火で加熱。
  3. オリーブオイルでにんにく(みじん切り)と1cm幅に切ったベーコンを炒める。
    そこに1.を入れ、炒める。しんなりしてきたら、火を止める。
  4. 茹でたフットチーネの上に4.を盛り、刻んだパセリ(or にんじんの葉)をふり、完成。

雪下にんじんの丸ごと唐揚げ

  1. 雪下にんじんに火が通るまで蒸す。
  2. 蒸し上がった雪下にんじんに粉をまぶす。
  3. 残った粉ににんにく、てん菜糖、醤油を加え、ヨーグルトくらいの固さになるまで水を加えてよく混ぜる。
  4. 2.の野菜を3.にくぐらせ、180度くらいの油できつね色になるまで揚げる。