2012年4月17日放送

65年間、毎日、金槌を振り続けてきた人がいます。
毛抜き職人 倉田義之(くらたよしゆき)さん。

江戸時代から伝わる、「江戸本手打ち」という技法で毛抜きをつくる唯一の職人。
硬いステンレスを金槌で叩き、密度、強度を高くする
伝統の技で、バネのある毛抜きに仕上げます。

「これ全部手作りで作ってます」

「枕草子」に、「抜き心地のよい毛抜きは珍しいもの」と歌われるほど、
貴重だった化粧道具。

心地よく抜ける毛抜きは、一本のステンレスを折り曲げる時、一寸の狂いもなく、
刃先がぴったり重なります。
その匠の技は光が全く漏れないほど。
先代の「絶対に手を抜くな」という教えを胸に、魂を込め、金槌を振り続けました。

「寝る暇なんで考えなかったね。夢中で働いてました」

倉田さんを支えた言葉。それが…

雨垂れ(あまだれ)石を穿(うが)つ」

「雨垂れ(あまだれ)石を穿(うが)つ」

(出典:「漢書」より)

長い間、雨粒に打たれると、かたい石にも穴が開くように、
たゆまぬ努力で必ず事を成し遂げられるという中国の歴史書の言葉。

努力が生んだ、抜き心地のよい毛抜き。

「満足してもらいたいんです。完璧に抜けるって事を」

受け継がれてきた137年の伝統と誇りを自分の名前と共に毛抜きに刻む倉田さん。
長く使って欲しいと願い、金槌を振ります。