2018年10月9日放送

茶筌(ちゃせん)師、久保恭典さん。
茶会の度に新しいものがおろされる茶筌。
奈良県の高山町では550年以上前から密かに茶筌を作り続けてきました。
「明治初期までは秘伝だったので一子相伝でした。
人に見つからないように夜に作業を行い技術を守ってきたので、
父親も夜に作業をしていました。」
いくつにも割った竹の先をナイフで薄く削る作業が腕の見せどころ。
「“味削り”という名称で、先端の厚さは100分の5mmくらい。
あまり厚いとお茶の泡立ちが悪いですし、薄すぎると腰が無くて泡が立たない。
立てたお抹茶の味まで変わってしまう重要な工程です。」
穂先を丸めて1本ずつ交互に広げて形を整えれば完成です。
「茶筌と言えば釣り針のように先が曲がっているものを思い浮かべるでしょうけど、
それは裏千家という流派の茶筌だけなんです。」
流派により形も材質も異なり、その種類は60以上あります。
「違う材質の物で均一な仕上がりのものを作ることが、
高山茶筌の一番の技術の真骨頂だと思います。」
室町時代から高山茶筌を守り続ける久保さんが共感する言葉。

「秘すれば花なり」

隠して受け継がれる方が人々を魅了するという意味。室町時代の猿楽師、世阿弥の言葉です。

「我々は作家ではなく職人なので新製品は作れないんです。
決められたことを忠実にこなすことが仕事なので、
お客様に『使いやすかったよ』と言ってもらうことが励みになります。」