アイドル棋士の転落と奇跡
今から30年ほど前に将棋界のスターだった女性…林葉直子。
藤井聡太の師匠である杉本昌隆八段とは同期であの羽生九段とも同世代。
実力もさることながら、その美貌でテレビやCMでも人気だった彼女だが、現在52歳…健康的な姿はそこにはない。
彼女に一体何が起きたのか?
1968年1月24日、福岡県福岡市。直子は林葉家の次女として誕生した。
警察官だった父に教わり将棋を始めたのは5歳。
すぐに大人たちを負かすようになり、小学6年生の時に女流アマ名人戦で優勝。
福岡の天才少女として騒がれ、東京へ移住。
12歳でプロ棋士としてデビューした。
史上最年少の14歳3か月で「女流王将」を獲得すると、美しい顔立ちと実力も相まって人気は急上昇!
特集が組まれるほど大人気になった直子は「女流王将10連覇」「女流名人3連覇」と女流棋士のタイトル戦に勝ち続け、テレビやCM出演に大忙し。
そんな日々の中、直子は酒を楽しむことを覚えていく。
明るく陽気に酒を飲む彼女はいつまでも飲めるタイプだった。
ワインを一人で2本開けてもまだ飲める…それくらい彼女は酒に強かった。
なので一緒に酒を楽しむ友人が増え色んな酒を覚えていった。
中でもハマったのはウイスキー。
以来、アルコール度数の高い酒を好んで家でも飲むように。
テキーラを一晩で一本開けたこともあった。
それでも、体調を壊すこともなくメディアに出るその姿は健康そのもの。
だが、異変は95年に将棋界を引退し、不倫で世間を騒がせたあとの2004年。
直子が36歳の時に起こり始める。
実は将棋界を引退してからというもの、直子の生活の中心は執筆活動になっていた。
ふとしたことから編集者の知り合いに勧められ、書き始めた少女小説がヒット。
漫画原作も手がけるようになり、累計で200万部を売り上げる作家になっていた。
しかし、アイデアに行き詰まると気分を変えるため飲んだ。
苦手なシーンも飲めば書けた。
お酒に強い体…しかし徐々に異変が
直子はもともと酒が強く、大量に摂取することができた。
それには肝臓の機能が関係している。
胃に入ったアルコールはまず肝臓で分解される。
すると顔が赤くなったり、吐き気や頭痛の原因となるアセトアルデヒドが発生する。
このアセトアルデヒドは肝臓内の酵素で、体に害のない物質に処理される。
つまりこの酵素が多く分泌される人は気持ち悪くなるなどの症状が出にくいので大量に、長く飲めるタイプ。
しかも酒をやめる理由もないので毎日のように飲む人が多い。
直子もまさにこのタイプだった。
たくさん飲んでも気持ち悪くならないのでずっと飲んでいたのだ。
そして、ある異常が現れる。
まず不意の出血。
ある日の夕食で…カツを噛んだ際、歯茎から出血した。
さらに夜中の激痛!夜中に足が、しょっちゅうつるようになった。
しかし、当時の彼女はこれが内臓の異変だとは思わなかった!
その2年後…福岡に住む母から連絡が。
長く患っていた父が亡くなった。
その後、直子を保証人に1億円以上の借金を残していたことがわかった。
その借金を返済することは直子には無理だった。
選んだ方法は…自己破産。
いままでの蓄えもほとんどなくなり、食事は500円以下の弁当が中心に。
しかしそれでも酒はやめられない。
安くて強い酒を大量に摂取するように。
こうして、直子の体は限界を超えた。
夜中につる足の痛みは骨折したかのような激痛になり、お腹がまるで妊婦のようにパンパンに膨れた。
足は酷く殴られたような紫色に。
やがて歩くことにさえ支障をきたすようになって、ようやく直子は病院へ。
すぐに検査が行われた。
検査の結果、「γ-GTP」の数値が1200を超えていることが判明した。
余命1年から復活できた理由とは
「γ-GTP」とは、アルコールで肝臓が障害された時に上昇する酵素で肝機能の指標とされている。
正常値は女性は30以下。
100を超えると、脂肪肝や肝炎になる恐れがあるが、直子の場合は1200。
「アルコール性の肝硬変」であると診断された。
アルコール性肝硬変とは、アルコールを大量に飲み続けて肝細胞が破壊され「肝炎」となる。
これを放置すると肝臓が硬くなり機能を失う恐ろしい病。
肝硬変になっても飲酒を続けると5年生存率は30%と言われている。
実は歯茎から血が出やすくなったのは血小板の減少。
足がつったのは、カリウム不足。
腹が膨らんだのは、肝臓がまともな排出機能を失い、腹水が溜まったから。
足が紫になったのもどれも全て、アルコール性肝障害の症状だった。
長い期間、ほぼ毎日アルコールを大量摂取した結果だった。
すぐに治療が必要だったが自己破産した直子一人では無理。
母に連れられ、地元の福岡で入院することに。
治療は塩分を控えるなどの食事制限と薬の投与。
数値が多少良くなると退院できた。
しかし退院すると直子はまた酒を飲んでしまい入院。これを繰り返してしまった。
このとき、体重なんと38キロ。
ついには医師から余命1年を宣告されてしまう。
この状態の治療は肝臓移植が考えられた。
親族では弟が適合したが弟に迷惑をかけてまで生きたくないと、直子、移植を望まなかった。
そして死を覚悟した直子…しかし思いもよらぬ奇跡が!
彼女は6年たった今も元気で暮らしている。
実は余命宣告の1年が過ぎようとしていた頃…彼女は藤井聡太の存在を知った。
彼の活躍にワクワクし、自分ももう一度、将棋で何かをしたいと思った。
それが生きる意欲となり独自の食事制限を始めた。
禁酒は当然。りんご酢と蜂蜜をブレンドした特製ドリンクのほか、
医師にも相談した独自のメニューで減塩を徹底。
医師も驚くほどの回復だった!
そして去年…将棋イベントに参加することもできた。
そして、現在の夢はプロもアマも参加できる大会を作ることだという。
将棋ブームの今、これからの彼女に期待したい。