老人ホーム 睡眠薬混入殺人事件の謎
2017年、衝撃的な事件が報道された!
1件の殺人と4件の殺人未遂、そして傷害の罪で逮捕されたのは老人ホームに勤める当時71歳の「愛子」という女。
飲み物にある薬を入れ、職場の同僚たちに飲ませた。
そして、命を奪った事件。
実は…被害者自らがその犯行を裏付ける決定的な証拠を掴んだ!
一体、この施設で何が起きていたのか?そして、なぜ女はこんな恐ろしい犯罪に手を染めたのか?
関東にある、軽費老人ホーム。
ここは、ある程度自立できる高齢者たちを低料金で受け入れ、買い物や病院への送迎の他、様々なレクレーションを企画し快適な生活を送ってもらう為の老人ホーム。
管理していたのは当時40代の施設長。
そして、この施設には准看護師の資格を持つ人物が一人だけいた。名前は愛子。
愛子は准看護師経験があった事から入居者の体調を相談されることが多かった。
2年前に働き始めたこの准看護師の女は、頼りにされていた。
この老人ホームには、オープン当初から働いている中心的存在のベテラン職員がいた。
彼女はイベントやレクレーションなどを仕切れる頼れる女性だった。
そして、ベテラン職員と愛子の間で、恐ろしい事が起きる。
2017年2月。
愛子にとって、穏やかでない事が起きた。
実はこの当時、施設では新たな職員を探していた。
そんな時、ベテラン職員が息子の知り合いの看護師を紹介し、新たに施設に入ることになっていたのだ。
それは唯一の准看護師だった愛子にとって不安な事だった。
愛子はレクレーションやイベントなどの企画が得意ではなかった。
そんな中、自分が頼りにされていたのは入居者の体調などの相談。
なのに、新しい看護師資格を持った人が入ってきたら自分の立場はどうなる…。
その次の日、施設でカラオケイベントが開催されていた。
そして、恐ろしい計画が動き出す!
突然様子がおかしくなる施設職員たち
異変は昼を過ぎた頃に起きた。
ベテラン職員が廊下に倒れ、ろれつが回っていなかった。
ベテラン職員は事務所で休むことに。
だらしなく脱力した彼女、それは今まで見たことのない姿だった。
すると…突然、普段と違う口調で寝言のような意味不明の発言を繰り返したのちに寝てしまった。
一体、なにが起きたというのか?
そんなベテラン職員を見て、愛子は彼女の様子を見ると言って残った。
午後5時30分。
様子がおかしかったベテラン職員の姿が無い…愛子によると一人で帰宅したのだという。
そして午後6時30分…施設に電話が!
それはまさかの連絡だった。
ベテラン職員は、帰宅途中に対向車と正面衝突事故を起こし帰らぬ人となった。
明らかに様子がおかしかったベテラン職員。
なぜ、そんな状況なのに彼女は無理して帰ったのか?
事故の原因は、ベテラン職員の居眠り運転だった。
翌日、警察が状況を聞きにきたが、ベテラン職員は前日から宿直だったということもあり、単なる居眠り運転による事故だと思われた。
ベテラン職員が亡くなって数日後。
彼女の紹介で施設に入る予定だった看護師の件は見送られた。
こうして彼女は准看護師資格を持つたった一人の職員でいられることになった。
そんなある日。
施設で働く女性職員が愛子のちょっとしたミスを軽く注意した。
彼女は愛子の紹介でこの施設で働き始めていた女性職員。
明るく、施設でも中心的な存在になりつつあった。
そんな彼女から些細な注意を受けた愛子。
すると数日後に異変が…突然、力が入らなくなり意識が遠のく女性職員。
しかも、2か月もしないうちに10回以上。
女性職員は心配になり病院で検査もしたが異常は見つからなかったという。
さらにこの頃から、突然居眠りする職員が相次いでいた。
一体この施設で何が起きているのか?
悪霊の仕業?気づかれない女の悪事
あの日、突然ベテラン職員の身に起きた異変。
これを実行した人物は…准看護師の女・愛子だった。
全ての始まりはあの出来事からだった。
ベテラン職員が紹介をしたことで看護師資格をもつ職員が増えてしまう。
当時すでに70歳を超えていた自分は排除される…愛子は勝手にそう考えたのだ。
もちろん実際にはそのような話は全くなく、新たに採用しようとしていた看護師資格を持つ人は愛子とは別の業務につく予定だった。
愛子本人にも、これからも勤務を続けてほしい…そう伝えていたが、女の勝手な思い込みで、ベテラン職員を死に追いやったのだ。
一方で、そんな恐ろしい考えを持っている人間がいるなんて想像すらしていない施設長。
まず、疑ったのが『水』だった。
もしかして食中毒や感染症などが影響しているのか?
だが、体調不良を訴えていたのは職員のみ。入居者は誰一人、不調を訴えていない。
謎の不調…気になったのは人が変わったようになったということ。
この施設が何かに憑りつかれてでもいるのか?施設長はそう思ったりもしたという。
一方、この頃。
頻繁に体調不良を起こしていた女性職員を夫が送り迎えしていた。
ある日、愛子が通りかかった女性職員の夫にあいさつをしたが無反応だった…ただあいさつの声が聞こえなかっただけだったのだが、愛子は無視をされたと思った。
そして、2017年5月15日、事件が起きる。
この日から女性職員の夫が施設の手伝いをしながら送り迎えをすることになった。
休憩中にお茶を差し出す愛子。
だが、そのお茶には大量の睡眠導入剤が入っていた…。
愛子は、入居者たちの薬を管理していた。
そして、睡眠導入剤を混ぜたお茶を女性職員と夫の2人に飲ませた。
午後2時…2人に症状が出始める。
異変に気付いた施設長は2人を仮眠室で休ませた。
しかし、午後5時30分。
愛子は2人を無理やり起こし…なんと車で帰宅させた。
その結果、夫婦も事故を起こした。
妻は全治1か月の重傷…夫は全身打撲で、しばらく目を覚まさなかったという。
心配する同僚を演じる愛子…これがこの女の手口だった!!
最初の犯行も、ベテラン職員の目を盗み、睡眠導入剤をコーヒーに混入。
頬を強く叩き無理やり起こし、意識がもうろうとした状態で運転させたのだ!
だが当時、愛子を疑う者は誰一人いなかった…なぜなら率先して体調不良の職員たちを介抱していたから。
ただ一人の准看護師…職員たちは愛子を頼った。
その為、悪霊の仕業ではないか?…施設内ではそんな噂すら流れていたという。
施設長はお祓いにも行った。
一方…愛子はすでに新たな女性を狙っていた。
この施設で働き始めたばかりの30代の女性。
特に何かをされたわけでない…ただ自分より若く美しかった。
愛嬌があって男性職員たちや入居者ともすぐに親しくなっていた…それが気に入らなかった。
そして…またも恐ろしい計画を実行する!
ふとした行動で疑われ始める
職員になったばかりの30代の女性。
だが1か月も経たずに、5度も体調不良を起こしていた。
実は彼女も車通勤。
しかも通勤時に幼い息子の送り迎えをしていた。
その為、家に着くなり玄関で倒れ、翌朝まで目覚めなかったこともあったという。
彼女は施設に行った時だけ、症状が起きると気づいていた。
そして、愛子の悪魔の所業も終わりの時を迎える。
ある日、30代女性が郵便物を取りに行くと席を外した時の事だった。
施設長はふと愛子の動きが目に入った…なぜか30代女性の席の前にいたのだ。
そして、机の上にあった飲み物に何かを入れたような気がした。
一瞬の出来事…。
だが、確かに何かを入れていた…この施設で起きている恐ろしい出来事がさっきの行動につながっている?…そう思えた。
なので施設長は戻ってきた30代女性を近くへ呼び、パソコンに「飲み物に何か入れてって頼んだ?」と文章を入力し、彼女に見せた。
これは愛子に気づかれないためのとっさの行動。
もしかしたら30代女性が何か入れてくれと愛子に頼んだものなのかもしれない。
それなら自分の思い過ごしという事になる。
すると、30代女性が回答を打ち込んだ。
彼女が打ち込んだのは…「頼んでません」という文字だった。
この時、施設長は施設で起きている出来事に准看護師の女が関係している…そう思った。
30代女性に体調が悪くなった日付などについて詳しく聞いてみると…すべての日に准看護師が出勤していたことが分かった。
謎の液体と体調不良…何か関係しているに違いない。
しかも…別の職員も女が飲み物に何かを入れている様子を見たことがあったというのだ!
すぐにその飲み物を持って警察に相談しようとも考えた…だが飲み物の成分は調べるとしてもそれだけでは女が入れたという証拠にはならない。
狙われた30代の女性は恐怖でしかなかった。
施設では常に優しい女性…そう思っていた。
もし、あの謎の液体を飲まされ、これまでと同様に事故にあったら…自分の家族はどうなる…?
それは許せない!そして…ある作戦に出る。
明かされる犯行の一部始終
次の日、彼女はあえてコーヒーを持参し職場へ。
すると…愛子が手に何か持っているのが見えた。
すぐに作戦を実行!携帯を充電するフリをしてカメラを起動した。
それを自分のコーヒーが写る位置に設置し、決定的瞬間をとらえようとしたのだ!
いったん席を離れ、しばらくして彼女は携帯を回収。
撮影した映像を見ると…そこには、衝撃的な犯行の一部始終が!
30代の女性がカメラを設置したのち、部屋を出ていく。
14分後…愛子はコーヒーが置かれた机の前へ。
そして…会話を続けながら怪しげな白い液体をコーヒーに入れた!
これは女の悪事を証明する決定的な証拠となった。
その後、コーヒーから睡眠導入剤の成分が検出され、愛子は逮捕された。
裁判では、『未必の故意』による殺人として、死ぬかもしれないとわかりながら行った犯罪であると認定し、ベテラン職員の殺害と夫婦への殺人未遂、さらに30代女性への傷害の他、事故に巻き込まれた人たちへの殺人未遂の罪にも問われた。
自分は排除されるのではないかという勝手な思い込み、さらに自分が職場を紹介した女性から些細な注意を受けたことへの恨み。
そして、若くて人気があった職員への嫉妬心。
勝手な思い込みで命を奪った罪は重い。
女は今年1月、懲役24年の刑が確定した。