バスに乗っていた誘拐犯
アメリカでは幼児誘拐事件が後を絶たない。
毎年約46万人、一日で約1300人もの幼児が行方不明となり
深刻な問題となっている。
そんな幼児誘拐事件に遭遇したあるバスの運転手の話。
2015年6月5日、米カリフォルニア州ミルピタス。
バスの運転手、ティム・ワトソンは妻と2人の子どもを持つ男性。
いつも通り仕事へ向かうティムはこの日思わぬ幼児誘拐事件に遭遇することになる。
"子連れの黒人男性がバスに乗車"
ティムはIT企業が集まることで有名なシリコンバレーの公共バスの運転手。
午前10時45分、グレートモールというバスの終点で30分の休憩を
取っていたティムはある子連れの黒人男性に声をかけられた。
バスの発車時間を知りたいという男性。
ティムは普段通りその男性に発車時間を伝え、男性は子どもを連れたまま去った。
そしてその発車時間となり子ども連れの男性はバスに乗車。定刻通りに出発した。
走り始めて15分、会社の運行管理センターから連絡が。
事件や事故が起きるとネットワークに登録している交通機関に警察から
メッセージが届く仕組みとなっている。
警察によると今から少し前に幼児の連れ去り事件が起きたとの事。
犯人は20代前半の黒人男性、黒いフードつきのトレーナーにジーンズ。
連れ去られたのは3歳の男の子、紺色のシャツに青いズボン、赤いクロックス。
2人の特徴がティムにも知らせられた。
"子連れの男性、実は誘拐犯だった!"
実は1時間ほど前、市内の図書館で母親が目を離したすきに3歳の男の子が行方不明に。
同じ図書館にいた人からは若い男性が連れ去ったという目撃情報が。
この男の子も黒人だったため兄弟か親子かと思い違和感はなかったという。
ティムは警察からのメッセージにある事が頭をよぎった。
バスの発車時刻を聞いてきた子連れの男性、警察からの情報と同じ特徴じゃないか?
まさかと思いバックミラーをのぞくティム。
子連れの黒人男性は一番後ろの席に座っていた。
ティムは警察からの情報と後部座席に座る2人の特徴を照らし合わせた。
すると驚くべきことに、服装が一致したのだ。
誘拐犯に間違いないと確信したティムは無線で連絡を入れた。
オペレーターによるとバスの終点に警察を待機させるとの事。
バスの終点はここから15分先、しかも途中に停留所は3つもある。
もしこの誘拐犯が途中で降りることがあれば子どもはどうなるかわからない。
ティムの長い長い15分が始まった。
"運転手の機転!そして誘拐犯は...?"
終点まで誘拐犯を連れていきたいティムは祈るような気持ちでいた。
その祈りが通じたのか誘拐犯は途中の停留所で降りることなく終点へ。
しかし待機しているはずの警察が見当たらない。
焦るティム。そんな時サイドミラーを見るとパトカーが後ろから追走していた。
ここで誘拐犯に気付かれたらどんな行動をするかわからない。
終点に到着したバス。
警察は後ろのドア横で誘拐犯を待ち構えている。
乗客が巻き込まれることなく誘拐犯を警察に確保させる方法をティムは考えた。
一番後ろの席に誘拐犯が座っている。という事は一番最後にバスを降りるはず。
こう考えたティムは、まず前のドアを開け一般の乗客を前へ誘導。
誘拐犯が最後に席を立った瞬間に後ろのドアを開け誘拐犯のみこのドアで
降ろさせた。ティムの思惑通り待ち構える警察に誘拐犯はなすすべなく確保された。
こうしてティムの機転により、無事男の子は助けられ乗客にもケガはなかった。
ほっとするティム。騒動後は急に力が抜け、手の震えが止まらなかったという。
しかし、この行動は多くの人から称賛され市長や州議会議員、警察から表彰された。
彼は今日も乗客の命を預かり安全運転に努めている。