嘘だらけのデザイナー 墓穴を掘った自作自演
4億円以上もの現金が消えた事件がある。
その背後に見え隠れする自称デザイナーの「小田嶋透」という男。
巧みな話術で人を丸め込み、人生そのものが虚実に包まれたこの男が引き起こした
日本の犯罪史上まれにみる悪質な事件とは?
"事件は小田嶋の誘拐騒動から始まった"
1996年11月4日。
1人の女性が渋谷警察署を訪れた。その女性は小田嶋の妻。
妻によると1か月ほど前の9月25日、警視庁の者だと名乗る男と家を出たきり
夫である小田嶋が帰ってこないという。
夫が姿を消して数日後、自宅には
「ダンナハアズカッタ サツニレンラクスルト イイコトナイ」
と書かれた脅迫状が届き、身代金5千万円を要求する電話も掛かってきた。
妻はこの事から夫が誘拐されたと思い、警察署に届けを出したのだ。
誘拐事件として捜査を始めた警察。
実はこの事件にはもう一つの別の事件が絡んでいた。
誘拐されたとされる小田嶋はある別の事件の重要参考人だった。
その事件は半年ほど前に起きていた。
ある有名証券会社に勤務する課長代理の男性が一晩で2割儲かると謳い
5人の顧客から合計4億1900万円を集め失踪した。
すぐにこの事件の捜査に乗り出した警察。
その捜査の段階で浮かび上がったのが小田嶋だった。
課長代理の職場の同期から、知人であった小田嶋が指示をして課長代理にお金を
集めさせていたという証言があったのだ。
この証言をもとに姿を消す前の9月5日、警察は小田嶋を参考人として取り調べた。
小田嶋によると指示をしたという事実はなく仕事で悩んでいた課長代理に頼まれ
小淵沢の貸し別荘を用意しそこへ彼を車で送って以来、課長代理とは会っていないという。
そんな取り調べをしている最中に今回の誘拐事件が起きた。
一体誰が小田嶋を誘拐したのか。
"送られてきたのは切断された指。誰のものなのか?"
小田嶋の家には警視庁の特殊班が待機し
犯人からかかってくる脅迫電話の逆探知など様々な手段を講じるが足取りが追えない。
犯人からは警察に連絡したことがバレ、ある物を送りつけるとの連絡が。
それから数日後、小田嶋の自宅には第一関節から切断された指が届いた。
その後この指は小田嶋本人のものと確認された。
警察はこの行動から、身代金目的であれば犯人は小田嶋を殺さず
切断された指を治療する為病院へ連れて行くはずだと考え片っ端から病院へ連絡をした。
するとある病院で小田嶋らしき人物を目撃したという情報が見つかった。
病院側の証言によれば、夜中の1時くらいに若い女性から連絡があり
その後その女性に付き添われて指を切断した男性が外来に訪れたとの事。
実はこの女性は小田嶋の愛人。事件のカギを握る重要な人物だった。
偽名で書かれた診断申込書から小田嶋の指紋が見つかった事を受け
警察はこの誘拐事件を小田嶋の自作自演の狂言誘拐と断定。
自称デザイナー、小田嶋透は全国に指名手配された。
"巧みな話術で尋問をかわす犯人"
警察はまず小田嶋の愛人を取り調べることに。
しかしなかなか口を開かない愛人。
警察はまず負傷した小田嶋の指を治療することが先決と説得し
彼女から小田嶋の居場所を聞き出すことに成功する。
小田嶋は都心にあるホテルにいた。部屋に駆け込む警察。
するとそこには抵抗することなく正座をして待ち構える小田嶋の姿があった。
ようやく警察は小田嶋の逮捕にこぎつけることが出来た。
小田嶋の指の治療が終わると長い取り調べが始まった。
まず小田嶋は狂言誘拐をあっさり認め、自らが指を切断したと自供。
しかし半年前に姿をくらました課長代理と4億円の行方については口を割らなかった。
この小田嶋、フランスの国立大学を卒業、大学の教授にして有名アーティストの楽曲
を手掛けるなどデザイナー以外にも様々なウソの肩書を名乗る男だったが
実際は北海道の高校を卒業後、雑貨店などの職場を転々とする人生。
成功者とは程遠い道を歩んでいた。
小田嶋によると狂言誘拐は4億円の詐欺事件の取り調べから逃れたかったからで
課長代理が4億円を集めたことも持ち逃げしたことも無関係だという。
その後も課長代理の居場所など警察の尋問を巧みな話術でかわす小田嶋。
なかなか4億円と課長代理の行方がつかめない。
"ウソで塗り固められたこの事件の結末は?"
そんなとき、小田嶋の故郷の北海道で彼の同級生だと名乗る女性から
半年ほど前に突然訪れてきた小田嶋からスーツケースを預かったという連絡があった。
アタッシュケースを開けると、そこには総額2億8000万円もの現金が詰まっていた。
この事実を小田嶋に伝えさらに尋問すると
この金は株でもうけた内緒の金であるなど次から次へとウソを発し逃れようとする。
もうこの男にはどう言っても逃れられないような決定的な証拠が必要だった。
警察は愛人に小田嶋の正体を告げ捜査に協力してもらえるよう要請した。
騙されていたことに気付いた愛人はある決定的な証言をする。
以前、小田嶋と小淵沢の別荘に行った際に、山奥のある場所に印をつけていたという内容のものだった。
警察はその愛人と共に小淵沢の山奥で印をつけた場所へ行くと
地面が一部盛り上がっているポイントを発見。掘ると白骨化した遺体が見つかった。
検査の結果、その遺体は課長代理のものだった。
実は小田嶋は、課長代理を別荘に送り届ける際にロープで殺害し
以前愛人と別荘に行ったときに目星をつけていた山奥にその遺体を埋め
詐欺で集めた4億円を奪っていたのだ。
ついにウソでも逃げられなくなった小田嶋。
裁判でも無罪を主張したが、2006年に無期懲役の判決が下った。
現在も後を絶たない詐欺事件。
うますぎる話しはくれぐれも注意してほしい。