病気と闘う始球式
今年5月31日、千葉ロッテマリーンズ VS 横浜DeNAベイスターズの一戦。
その始球式を務めたのはスポーツ用品会社に勤める花島工真(たくみ)さん。
そしてその様子を見つめるのは彼女の舘石彩さん。
ある特別な思いが込められた始球式。この2人には命を懸けた壮絶な闘いがあった。
"野球好きのカップル。彼女の身に異変が"
工真と彩は共通の友人を通じて知り合った。
お互い野球観戦が大好きで、地元のチームである千葉ロッテマリーンズの大ファンだった。
そんな2人は意気投合。自然な流れで付き合うようになっていった。
そんなある日、地元の病院で看護師として働いていた彩は右ひざに痛みを
感じるようになっていた。そのうち治るだろうと気にせず仕事を続けていたが
いつまでたってもその痛みはなくならない。
工真のすすめもあり、検査を行った彩は驚愕の事実を告げられる。
彩の足の痛みの原因は骨肉腫。骨のガンだった。
命に係わる病と診断された彩は思い悩み、工真に電話ではなくメールで伝えた。
工真は聞きなれない病名にいてもたってもいられず仕事を抜け出し彩の元へ。
落胆する彩に工真は大丈夫だからという言葉しかかけられなかったが、
その一言が彩にとっては嬉しく大きな支えとなった。
"苦しい治療。献身的に支える彼の優しさ"
彩の治療は、まず右大腿骨にできたガン細胞を抗ガン剤で小さくし
手術で取り除くというものだった。すぐに強い抗ガン剤が投与され、彩の闘病が始まった。
激しい副作用による高熱、吐き気、髪の毛も抜け落ちる。
必死に治療に耐える彩を工真は献身的に支えた。
そんな苦しい治療を続ける彩にさらに追い打ちをかける出来事が。
ガンが肺に転移していることが分かった。
骨肉腫は血液を介して他の部分にガン細胞が転移する危険性が高い。
看護師としてこの病気の恐ろしさを知っていた彩にとって最も恐れていた事だった。
一方で骨肉腫について必死で勉強していた工真もこの恐ろしさは理解していた。
しかし弱音を吐かない彩に何もできない自分の無力さが悔しかった。
工真は仕事の時間を変えてもらい、少しでも長く彩と一緒にいられる時間を作った。
一度は工真のために別れたほうがいいとも考えた彩だったが
優しい工真の気持ちに応えるように病気と闘った。
そして右大腿骨と肺のガンの摘出手術は成功。彩は工真と共に病に打ち勝った。
"再び忍び寄るガンの恐怖。"
退院を機に同棲を始めた工真と彩。
彩は歩けるまでに回復した今年1月に念願の職場復帰を果たした。
ようやく普通の生活に戻れる。
そう思ったある日の事、再び右ひざに痛みが走った。
それは、前にも感じたことがある痛みだった。
祈るように受けた検査。結果、ガンの再発が判明する。
目の前が真っ暗になる彩。初めて声をあげて泣いた。
検査の結果を聞いて急ぎ彩の元へ向かった工真。
絶望に打ちひしがれた彩の姿がそこにあった。
必死に励ます工真。しかし彩は工真に別れを切り出すほど自暴自棄になっていた。
かける言葉が見つからない工真。情けない自分を悔やんだ。
何かできることはないか?彼女を笑顔にしたい一心で工真はある計画を考えた。
"彼女を笑顔にしたい。彼のとった行動とは?"
再び闘病生活に入った彩を工真は野球観戦に誘った。
そして5月31日、千葉ロッテマリーンズ VS 横浜DeNAベイスターズの一戦。
スタジアムには2人の姿があった。
試合開始前、バックスクリーンには工真の姿が映し出される。
何も聞かされていない彩は驚いた。
スクリーンに映し出された工真は千葉ロッテマリーンズの今江敏晃選手にこう語った。
工真:「僕は今回の始球式で病と闘う彼女にプロポーズをしたいと考えています。今江さん、僕と対戦して下さい!」
それはプロポーズを懸けた始球式。
工真は彩に自分の気持ちを知ってもらうべく
ある会社が行う始球式のイベントに応募し、密かに練習を続けていたのだ。
観客からの割れんばかりの拍手に包まれながら2人はグラウンドへ。
彩が見つめる中、工真は決意を込めた渾身の一球を投げる!
工真の投じた球は少々浮いたものの今江選手から見事に空振りを奪った。
そして工真はマウンドに彩を呼び、自分の気持ちを婚約指輪と共に贈った。
涙を浮かべ、笑顔で工真のプロポーズを受けた彩。
その笑顔は工真が一番見たかった彩の表情だった。
2人は8月に入籍。来年の5月に結婚式を控えている。
現在、彩は足の手術に成功。放射線治療と抗ガン剤治療は引き続き続けているものの、
2人の間には迷いのない強い覚悟と笑顔があった。