放送内容

2015年10月28日 ON AIR

30年間の苦しみが2日間で変わった瞬間

1996年。アメリカ・ミネソタ州。
ウィノナ州立大学に通う2年生、ジーン・シャロンは恋をしていた。
相手はバスケットボール部のスター選手、スティーブン・アボット。


しかし、ジーンは自分に自信がなくその気持ちは片思いのまま。
実は、彼女は幼いころからある難病に悩まされていた。


"脳性麻痺と診断される"


ジーンはシャロン家の3番目の子どもとして誕生したが
幼いころから座ったときにバランスが取れず、歩き出すと足が内向きになり
すぐに転んでしまう。


成長するにつれその症状は重くなり
つま先が内向きになり膝同士がぶつかるようになった。
両親は娘の治療のため、いくつもの病院を回った。
ジーン4歳の時、神経内科の権威と呼ばれる医師から診察を受けた結果
脳性麻痺が原因の痙直型両麻痺と診断された。


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痙直型両麻痺は脳性麻痺が原因で、脳の運動をつかさどる部分が損傷を受け
手足が麻痺を起こす疾患のひとつ。
この病には特効薬がなく、筋肉を柔らかくするための薬を飲むしかなかった。


そんな中、母親はジーンにこの病気に打ち勝ってもらいたいと
おんぶをしたり、車いすを与えるようなことはせず、自分の足で歩くようにと
甘やかすことなく娘に接した。


母親は普通の小学校に通わせ、体育の授業以外は他の子と同じ授業を受けさせた。
ジーンの成績は非常に優秀だったが、手先が自由に動かせないため、
字を書く、本をめくる、ハサミを使うなどの当たり前のことが彼女には困難だった。
それでもポジティブで明るく学校生活を楽しむジーン。


しかし、成長するにつれ筋肉の硬直は進んでいた。
筋肉を柔らかくするための薬は種類も量も増え、1日15錠も服用した。


"運命の人と出会う"


ジーンの症状には大きな特徴があった。
朝は筋肉の硬直が比較的少なく、みんなと同じペースで歩けるが、
午後になるとゆっくりしか歩けなくなり、よく転ぶようになる。


特にたっぷり寝られた朝は自転車にも乗られるほど調子がよくなる。
しかし夕方になると体が硬直し、パジャマの着替えもできなくなった。
思春期になると朝、体が動くうちにシャワーを浴びるなど自分の症状に
合わせた生活を送るようになっていた。


そんなジーンも成長し大学に進学することに。
ある日、ジーンはひょんなことから、ずっと片思いしていたスティーブンと知り合うことに。


スティーブンは気さくでとても話しやすかった。
スティーブンも、自分の状況を悲観することなく前向きなジーンに好意を持つようになり
2人は毎日会って話すようになった。


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"子どもの為、もう一度診断を受けることに"


知り合って2年、大学卒業を機に2人は恋人同士に。
ジーンは就職カウンセラー、スティーブンは医療関係の会社に就職した。
そして2人は、交際を始めて2年後の2000年7月29日に結婚。


新婚生活も、家事はスティーブンが率先して行った。
スティーブンは彼女をサポートしながら夫婦2人で一生この病と闘う覚悟が出来ていた。
ジーンもスティーブンとならこの病と闘い続けられると感じていた。


その後、2人の娘に恵まれたジーンとスティーブン。
しかしジーンは病気の為、娘のオムツもろくに取り替えられない。
育児をすると睡眠がとれず、体の硬直もひどくなり夫や両親に頼る事も多かった。


母親らしいことが出来ない事が一番の苦痛だったジーンは
今より少しでも動けるようにならないか、医師や薬の専門家に相談した。


様々な病院をまわる中で紹介されたマーサ・ナンス医師の元を訪ねたジーン。
マーサ医師に、睡眠をとると体の調子が良くなることなど自分の症状を伝えると
医師は、痙直型両麻痺ではないという驚きの診断をジーンに伝えた。


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これまで30年間闘い続けていた自分の病が勘違い?
驚きを隠せないジーンにマーサ医師は試してほしいというある薬をジーンに処方。
ジーンは半信半疑ではあったが、飲んで失うものはないと思い薬を服用した。


"30年間苦しんだ病が2日で治った!"


それから2日後となる2010年4月4日、目覚めるといつもと体の感覚が違う。
ベッドから起き上がり、すんなりと立つことが出来た。


小さいころからずっと筋肉が硬直していたジーンにとって
生まれて初めての感覚だった。


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マーサ医師はジーンの病気を痙直型両麻痺ではなく、ドーパ反応性ジストニアだと診断。
脳から筋肉を緊張させろという指令が大量に出て
過剰に筋肉が強張る症状を、"ジストニア"という。そのジストニアの原因が、神経伝達物質ドーパミンを作り出す回路に問題が生じたケースを、"ドーパ反応性ジストニア"という。
これは、約100万人に1人の割合で発症する非常に珍しい先天性疾患。


痙直型両麻痺と判別しにくいドーパ反応性ジストニアだったが
実はドーパ反応性ジストニアには特効薬があった。
これを服用したことでジーンの症状はみるみるうちに回復。
数か月後にはスティーブンと一緒に約16キロのハイキングが出来るまでになっていた。


一生戦い続けなければならないと覚悟していた病が2日で治るという
奇跡の大逆転を経験したジーン。


現在は自分と同じような人を救うべく
ブログでの情報発信や講演活動などを行っており、それにより20人もの人が
正しい診断を受けられるようになったという。

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