まさかの遭難 ママはどこへ
2015年5月 ニュージーランドの首都ウェリントンの郊外。
中国系ニュージーランド人のスーザン・オブライエンは小さいころから走ることが
大好きな女性だった。
"久しぶりにトレイルラン大会へ出場"
スーザンは小学校から大学まで陸上部に所属し
夫のダニエルと結婚し、娘のミーシャを妊娠するまでトレイルランや、マラソン大会には
10回以上出場していた。
9か月になる娘に母乳を与え、育児をしながら母としての幸せを感じていた
スーザンだったが、子どもが生まれ久しぶりに思いっきり走りたいとも思っていた。
そんな中、久しぶりに大好きなトレイルランニング大会に出場する事になった。
「トレイル」とは舗装されていない道という意味で
大自然の険しい地形そのままに山道などのコースを自己責任の元、走り抜けるという
世界的にブームとなっているスポーツ。
今回スーザンが参加するのは広大な自然公園を20km走るトレイルランコース。
多くの大会に出場経験のあるスーザンにとっては短い距離だった。
ほんの数時間だけ子育てを忘れて全力疾走。
スーザンにとってはリフレッシュ代わりの大会になるはずだった。
午前9時にスタート。
スーザンはこれまでのブランクを感じさせない軽快な走りで
次々に参加者を抜き去っていく。
"待てど暮らせどスーザンは帰らない"
夫のダニエルもスーザンの実力を知っていたため、
いい順位でゴールするだろうと確信しゴール地点で待っていた。
しかし、待てど暮らせどスーザンはゴール地点にはやってこない。
既にスタートから3時間。他の参加者はみんな帰ってきた。
異変に気付いたダニエルは運営関係者に妻が帰ってこない事を伝えた。
運営が調べてみると、途中棄権のリストにも載っていない。
実はスーザン、スタート直後は軽快に飛ばしトップグループのすぐ後ろに着いて
1人で走っていた。しかし、後ろのグループとトップのグループと少し距離があったため
コースの分岐点で道を誤ってしまいコースアウトしてしまったのだ。
20分ほど走った後にスーザンは他の選手を見かけない事に気付く。
しかし、その時には分岐点から3km近くも離れてしまっていた。
広大な自然公園で方向感覚を失ったスーザンは進めば進む程コースを離れてしまい
いつしか本来のコースから20kmも離れた山の中で遭難してしまった。
"遭難したスーザンを救ったのは?"
日は暮れ、気温も下がっていく。
食料はチョコバー1本のみ。死の恐怖に直面するスーザン。
夜になり寒さと空腹に苦しむスーザン。こんな時思うのは家族の事だった。
娘のミーシャはおっぱいが飲めなくて泣いているんじゃないか?
心配でたまらなかった。
その瞬間、ふと思った。
母乳?これがあればもしかしたら助かるかもしれない。
娘の命を支えるおっぱいで自分の命をつなぐ。
スーザンは空になったチョコバーの袋に自分の母乳を絞り入れ飲んだ。
空腹の今の自分には甘くておいしく感じる。
母乳にはカルシウムやビタミンなど、体に必要な栄養素が多く含まれており
また、母乳を飲んだことで体温が上がったと考えられた。
行動力がわいてきたスーザンは周りにある木々を集めて体にかけ
寒さをしのいで一晩を持ちこたえた。
翌日の朝、捜索隊がスーザンを発見し無事救助することに成功。
スーザンは家族と再会することが出来た。
お騒がせママ、スーザンは
いつか娘のミーシャと一緒に走ることが夢だという。