SOSは妻に届くのか?
アメリカ・フロリダ州、ソノトサッサ。
この街のタクシードライバー、ジョン・エイガンは仕事が終わると
愛する妻のジェシカに帰宅の連絡を入れることが日課となっていた。
家に帰ると愛する妻が出迎えてくれる。
さらに3人の子供と生まれたばかりの孫にも恵まれ、
ジョンは幸せな生活を送っていた。
"仕事帰りの寄り道が事件の始まりだった"
2007年5月30日。
かわいい孫の為いつものようにミルクを準備するジェシカ。
台所を探すが、その時たまたまミルクを切らしていた。
困っていると丁度いいタイミングでジョンから仕事が終わったという電話が。
ジョンはジェシカに頼まれ帰り際にミルクを買いにスーパーに向かった。
すると自分のタクシーを停めようと2人の男が現れた。
仕事は終わりにしたつもりだったが、あいにくこの日は客足が悪く売り上げもイマイチ。
ジョンはこの2人を最後の客として乗せることにした。
2人組の男は1人が前、もう一人が後ろに乗り込んだ。
ジョンが2人に目的地を訪ねた瞬間、首筋に冷たい感触が...。拳銃だった。
2人組はタクシー強盗だったのだ。
ジョンは強盗を刺激しないよう、売上金をすべて渡した。
しかし二人組はそこで終わるどころか、ジョンを解放しないまま車を走らせた。
"命がけの電話を妻へ"
ジョンはこれまでにない恐怖におびえながら車を運転していた。
自分は殺されるのか?浮かぶのは家族の姿ばかり。「もう一度家族に会いたい...」。
その時気付いた。ジョンの耳には運転時でも会話が出来る
携帯電話用の無線イヤホンが付いたままだった。ついさっき妻と電話で話したばかり。
リダイヤルを押せばこの状況を妻に伝えることが出来るのではないか?
下手に動けば自分の命はない。だがこのままでは殺されるのを待つばかり。
ジョンは決心した。2人に気付かれないようにポケットにある携帯のリダイヤルを押す。
その頃、ジェシカたちはいつもより帰宅が遅いジョンの異変に気付き始めていた。
もう帰ってきてもおかしくない時間。何かあったのか?
そんな時にジョンから命を懸けた電話が鳴った。
ジェシカが電話に出る。すると電話先からこんな声が聞こえた。
「頼む。殺さないでくれ!金はあれで全部なんだ。家で帰りを待ってる家族がいるんだ!」
ジェシカは電話先のジョンの言葉といつもより帰りの遅い状況によって
すぐに気が付いた。「ジョンは強盗に襲われている」と。
慌てふためくジェシカの姿を見て子どもたちもジョンの事態を理解した。
二男はすぐに警察に連絡。しかしジョンは今どこを走っているのかわからない。
ジェシカはどうにかジョンの居場所を聞き出そうとするが
普通の会話ではばれてしまう。決め手が無いまま時間だけが過ぎていく。
すると再びジョンの声が聞こえた。「301号線に行けばいいんだな?」
ジョンはジェシカに伝えるように何度も強盗が指示する言葉を繰り返した。
長男が地図を用意し301号線の場所を確認する。
しかし道は長く301号線だけでは居場所を特定できない。
このままではらちが明かない。ジェシカは決心した。
家族はジョンを救うため車を出し、301号線へ向かった。
"ジョンを救うため家族が立ち上がる"
ジェシカたちを乗せた車は301号線へ到着した。
しかしジョンが乗るたった一台の車を探し出すのは困難だった。
もう少しだけジョンから情報を聞き出すしかない。
しかし、余計な事を話せばジョンは命を失う可能性もある。
ジェシカは命綱の電話を耳から話すことなく、ジョンからの言葉を待った。
その時、ジョンから言葉が。
「この道を左折だな?」「フローレンス通りに向かうんだな?」
ジョンも必死に相手に気付かれないよう、今の状況をジェシカに伝えようとした。
しかしあまりに指示を言葉にして繰り返すジョンの言動に強盗も気付き始めている。
そしてついに恐れていた事態が。
強盗は車を停め、ジョンに降りるよう指示。ジョンの命乞いの言葉を最後に電話が切れた。
ジェシカや息子たちは愕然とした。
"途切れた電話。ジョンの命は?"
やがてジョンのタクシーを見つけたジェシカたち。
しかし車はもぬけの殻。強盗どころかジョンの姿も見当たらない。
やはり最悪の事態が起こってしまったのか。
数分後、連絡を聞きつけた警察もやって来た。
警官がトランクを開けると...、そこにいたのは血まみれのジョンだった。
ジョンは車を降ろされたのち、激しい暴行を受けトランクに閉じ込められていた。
幸い命に別状はなかったが、ジェシカが車を発見せず、このまま放置され続けていたら
ジョンの命は失われていたかもしれない。
この事件は新聞でも大きく報じられた。
ジョンの命はジェシカの勇気ある行動によって救われたのだった。