遺伝子を調べた恐怖
2008年。アメリカ・ニューヨーク。
ジョディー・シュナイヤーは恋人のデイビッドとの結婚を間近に控え、
幸せの絶頂にいた。
"ガンになりやすい家系"
式場も決まり、あとは、2か月後の式を待つばかり。
ジョディーの家族も皆、婚約を祝福してくれた。
特に仲の良かった姉のアリソンは自分の事のように喜んでくれた。
ところが、姉妹の将来を大きく変える出来事が。
それは家族で集まり、ジョディーのお祝いをする日に起こった。
お祝いに駆けつけてくれた叔母から父親へ
ふと「ガンの遺伝子検査」は受けたのかと一言。
ジョディーは何のことかさっぱりわからない。
実は父方の家系はガン家系だった。
父親の母、つまり結婚するジョディーの祖母は50代で乳ガンを患い他界。
更にその父親には13人の兄弟がいたが、なんとそのうち7人がガンで亡くなっていた。
不思議な事にガンを患ったのはほとんどが女性。主に乳ガンや卵巣ガンだったという。
その事実を知った国立衛生研究所から一族そろって
検査を受けて欲しいと依頼されていたが、父は遺伝子検査を拒否していたのだ。
父方の一族が持っていた遺伝子は2分の1の確率で子孫へ遺伝すると言われている。
父親は娘たちの事を思い、検査に応じる事にした。
"父親の遺伝子に変異が確認される"
それから1か月後。
父親は遺伝子検査の結果、「BRCA1」という遺伝子に変異が確認された。
人の細胞の核にある23対、46本の染色体。
その17番目にあるのが「BRCA1(ビーアールシーエーワン)遺伝子」
それが何らかの変異で本来の機能が失われると、乳ガンや卵巣ガンにかかりやすくなる。
「BRCA1」や「BRCA2」という遺伝子変異があると
乳ガンになる可能性はなんと41%~90%。
卵巣ガンは8~62%と変異が無い人に比べ各段に高くなるという。
父親はこの事を直ぐに娘たちに伝えた。
不安を覚えたジョディーとアリソン姉妹。検査を受けるべきか?
陰性なら安心できるが、もし陽性ならどうしよう。
姉妹で話し合った結果、2人そろって遺伝子検査を受ける事にした。
そして3週間後。結果は2人とも陽性。
父親と同じく遺伝子の変異が確認された。
医師からは確かに発症の確率は人より高いが、早期発見すれば治る病なので
定期的に健康診断を受けるようにとのことだった。
事実を知ってしまったショックは大きく、ジョディーは結婚式も先延ばしする事になった。
"皮下乳腺全摘術の存在を知る"
この日から、ジョディーと姉の生活は一変した。
3か月に1度のペースでMRI、それに血液検査やマンモグラフィー検査など
あらゆる検査を行った。
結果を聞く時は生きた心地がしなかった。今日こそはガンが見つかるんじゃないか?
まだ発症すらしていないガンに怯える日々が続いた。
遺伝子に隠された事実を知ることは良かったのか? 知らない方が良かったのか?
検査結果から数か月が経った頃、乳ガン治療で評判の医師を訪ねたジョディー。
その医師から皮下乳腺全摘術という手段がある事を聞いた。
「皮下乳腺全摘術(乳頭乳輪温存)」とは下にある乳腺組織を切除し、
乳頭や乳輪を含めたほとんどの皮膚を残すもの。
乳腺組織を切除した後、そこにシリコンバッグを入れることで、
ほぼ外見は元どおりにすることができる。
この手術を行えば41%~90%ある乳ガンの発症率は5%以下まで下がるという。
これは2013年、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが行った事で
一気に世間に広まったが、この時はまだそんな手術を知る者は少ない。
結婚前の体に傷をつけるなんて。
悩む彼女の様子を心配していた婚約者はジョディーにガンの恐怖から
解放されるならと手術を勧めた上で改めてプロポーズをした。
こうして二人は結婚式を挙げた。
そして、2010年1月。
姉妹2人は胸を切除し、見た目は以前とほとんど変わらない状態に。
乳ガンになる可能性は5%以下に減少した。
そして現在、ジョディーは2人の子どもに恵まれ、幸せな家庭を築いていた。
手術した胸は、膨らみが戻っている。
そしてなんと現在妊娠中。8月に出産を予定している。
彼女が子どもを続けて産んでいるのは、卵巣ガンへの恐怖があるためで
40歳になったら、卵巣も切除手術を受けるつもりとのこと。
子どもたちが遺伝子変異を受け継ぐ確率は2分の1。
1日も早く根治治療が見つかる事を願っている。