放送内容

2016年3月 2日 ON AIR

恐ろしいギャンブル依存の真実

2010年5月。相撲界に激震が走った。
相撲関係者の野球賭博への関与が明らかになり、
その後、場所が中止になる事態にまで発展。


その事件が世間に知られる発端となった人物が当時、大嶽親方だった元関脇の貴闘力。
豪快で気迫に満ちた相撲で人気のあった彼は現役時代から
ギャンブル依存症という厄介な病に侵されていた。


ギャンブル依存症とは賭け事への強い衝動からお金をつぎ込み
現実逃避、生活破綻へ陥る精神障害。
貴闘力本人曰く、これまでに5億円はギャンブルにつぎ込んでいたという。
彼に一体何があったのか?


"10万円が400万円以上の大金に"


1989年、東京・中野の藤島部屋。
貴闘力は中学を卒業後、すぐに相撲の世界へ飛び込んだ。


新弟子時代は寝る間もないほどの厳しい世界。
しかしその中で貴闘力は入門から6年、21歳で十両に昇進した。


大相撲の世界は番付で給料が決まる。
幕下より下の番付は給料が無く、十両に上がると関取として給料が出る。
現在では十両になると月給約100万円が相撲協会から支払われ、
これに懸賞金や様々な手当てが付く。


給料がもらえる事で共同生活から一人暮らしへ。
さらに付け人もついて生活が変わっていく。


そんなある日、兄弟子に誘われてついて行ったのが公営ギャンブル場だった。
あまり知識のないまま何となく1回の勝負に10万円を賭けた。
すると予想は見事的中。10万円が400万円以上の大金になった。


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それは味わったことのない高揚感。
ギャンブル依存症に陥る多くの人が最初に勝ったことが火種になるという。
貴闘力もまさにこのパターンだった。


"ギャンブル依存の魔の手が迫る"


順調に力をつけ、若貴兄弟に並び将来を期待されていた貴闘力。
相撲に打ち込む一方で、初めて感じたギャンブルでの高揚感が忘れられず
また勝てるのではと思い、再び公営ギャンブル場へ足を運んだ。


しかし、そうそう勝てるものではない。
負けを取り返そうと連日ギャンブルにお金をつぎ込んだ。


やがて頭の中はギャンブルで一杯に。
毎朝の日課はスポーツ新聞を読み、稽古の後に行くギャンブルを決める事。


朝の稽古を終えて食事をした後は体を休める事が大事なのだが
貴闘力は公営ギャンブルに足を運び続けた。
寝ているくらいなら、ギャンブルをしている方が疲れを忘れることが出来た。


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しかし勝つことはたまにしかない。
結局、給料もすべてギャンブルでなくなる。
貴闘力はそのたびに、「何やっているんだ俺」という後悔に苛まれてしまっていた。


"徐々に制御が出来なくなっていく"


お金が無くなるとやることがなくなるから相撲に打ち込む。
するといい成績が残せる。そしてまたお金を使っていく。


もともと相撲が好きで才能もあった貴闘力は
新入幕から8か月で小結に昇進し、その後も3役に定着し続けた。
この頃はまだ自分の中でギャンブルの制御が出来ていたという。


1993年10月には大鵬親方の三女と結婚。
翌年は惜しくも敗れたものの優勝に絡む活躍を見せるなど、
周囲は貴闘力の大関昇進に期待した。


相撲で勝てば給与の他にも懸賞金や手当がたくさん付く。
しかし、未来の大関として身だしなみを整えるためにお金を使うよりも
貴闘力はギャンブルにつぎ込み続けた。


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ギャンブル依存症の人には、頭の中に「やらないほうがいい」という考えが
必ず存在する。つまり、わかっているのに衝動的に不本意でやってしまうのが依存症。


ギャンブルの事を考えると脳内でドーパミンという物質が分泌され快感や興奮を促す。
通常は脳内麻薬とも言われるドーパミンと同時にノルアドレナリンという
注意力や判断力を高める物質が分泌されることで冷静な判断が保たれるがギャンブル依存症の人は
このノルアドレナリンという物質が少なくなることで欲望に走ってしまうという。


"一度は立ち直り、優勝を果たす"


貴闘力も徐々に制御が出来なくなってしまう。
これまでは自分の給与内でおさまっていたが、金を使い切ると次の給与まで我慢が出来ない。
ついには同僚にお金を借りてまでギャンブルをするようになった。


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お金が無くなると、平気でウソをついて借金をする。
本業が疎かになっていった貴闘力は負け越しが続き、大関どころか前頭にまで転落。
溜まっていく黒星と借金。少しでも借金を返済しようとついには高利貸しにまで手を出した。


それを返済に充てればいいのだが、どうしてもギャンブルで一発逆転を狙ってしまう。
しかしそんな奇跡など起きるわけがなかった。
借金が借金を呼び、貴闘力の状況はまさに火の車だった。


そんな貴闘力に手を差し伸べてくれた人がいた。
妻の父、大鵬親方だった。
ギャンブルをやめるという約束のもと、借金を肩代わりしてくれたのだ。


妻の為、大鵬親方の為にももう一度相撲で恩返しする。
そう誓い、ギャンブルを絶って稽古に取り組んだ。


そして、幕内最下位となっていた貴闘力は2000年3月、
大相撲史上初の幕下最下位からの優勝を果たした。


これで誰もが立ち直ると思った。
しかしギャンブル依存症の怖さはここからだった。


"親方となった彼に悪魔の誘いが"


やめようと心に誓ったギャンブル。
しかしふとスポーツ新聞に目が留まってしまう。


どうせ負ける。そう思って我慢した時に限って予想が当たる。
買っておけばよかった。そういう衝動にかられてしまう。
結局ギャンブル依存の魔の手からは逃れられなかった。
優勝後の相撲はパッとした成績を残せず、2002年に引退。
その後は大嶽親方となり、義理の父である大鵬の後継者の道へ進んだ。


しかし親方となって若い力士を育てる立場となっても
ギャンブルをやめることは出来なかった。


そんな彼に悪魔の誘いが。
近づいてきたのは先に引退していた元力士。
その元力士の口から出てきたのは「野球賭博」という言葉だった。


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野球賭博とはプロ野球の試合の勝敗を賭けの対象とする違法賭博。
負ける率が高いとみられるチームにはハンデが付けられる仕組み。


この違法賭博に大嶽親方が関与していたとマスコミが大々的に報じ
ついには相撲界から追放され、妻とも離婚することとなってしまった。
まさに、ギャンブルで人生を破滅させてしまった瞬間だった。


"現在も依存症に苦しんでいる"


その後周りの多くの助けもあり、再起をかけ焼肉店をオープンした貴闘力。
自らも店に出て働いた。


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店の経営は順調だった。
多くの人に迷惑をかけ、もうやらないと心に決めたギャンブルだったが
いざお金を目にすると襲ってくるあの衝動。まだギャンブル依存症からは抜け出せていない。


そして現在、貴闘力は焼肉店で仕入れから接客まで毎日店に出て働いている。
ギャンブルの借金や店舗経営などの支払い、養育費など様々な支払いをしている彼は
月に6万円で生活をしているという。


寝泊まりも店舗の上の階の一室。
テレビも外し、外部の誘惑もシャットアウトしているという。
この状況を厚生施設だと語る貴闘力。人生をギャンブルで破滅させた彼は、
とにかく仕事を忙しくしてギャンブルが出来ない生活を送っている。


その甲斐もあり、現在11店舗にまで広がった飲食店経営。
しかしもう相撲に携われない、自分の培ってきた技術を自分の過ちのせいで
後輩に伝えられないということが一番の後悔だという。


今もなお、ギャンブル依存症との闘いは続いている。

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