狙われた大手ハンバーガー店
2004年4月、アメリカ・ケンタッキー州。
アメリカの誰もが知るハンバーガー店で、史上最悪とも言える卑劣な事件が起こった。
この街に住むルイーズ・オグボーンは母と2人暮らしの18歳。
体調の悪い母親を気遣いながらアルバイトに精を出す毎日を送っていた。
"店に警察と名乗る男から電話が"
ルイーズの職場は大手ハンバーガーチェーン店。
女性店長のドナ・サマーズはルイーズの頑張りに一目置いていた。
そんな女性店長のドナは上司であるエリアマネジャーに常日頃から店内のもめ事や
売り上げなどに対し厳しいプレッシャーをかけられていた。
そのプレッシャーがのちに大きな事件を引き起こすことになる。
ある繁忙期の週末に警察と名乗る男から電話がかかってきた。
何事かと思い電話に出るドナ。
警察と名乗る男が言うには、従業員が客の財布を盗んだとのこと。
しかもそれは20歳くらいの若い黒髪の子だという。
その条件にあてはまるのはルイーズしかいなかった。
ルイーズの事を男に伝えると、男は彼女を事務室へ呼んで状況を説明する様に指示した。
ドナはエリアマネジャーからプレッシャーを
かけられている状況もあり、この男の指示のままにルイーズを事務室に呼び状況を説明。
しかしルイーズには身に覚えのない事だった。
ドナはルイーズを信じたいが、スタッフの窃盗ともなれば店のイメージにも傷がつく。
警察を名乗る電話先の男の指示のままルイーズのポケットや私物を調べた。
しかしどこを探しても客の財布などない。
男にそれを伝えると、男は自分たちが到着するまでルイーズを外に出さないようにドナに伝えた。
さらにこの捜査にはエリアマネジャーも協力しているという一言がドナの心に響いた。
エリアマネジャーが関わっているのなら自分は従うしかない。
ドナは電話先の男の指示に疑うことなく従い続けた。
"保身のため指示に従う店長"
そして男の指示はエスカレートする。
体の隅々まで調べるためルイーズの服を脱がせるようドナに指示をした。
疑問はありながらも指示に従うドナ。
そしてルイーズもさらに警察沙汰になることで母親に迷惑はかけられないと考え
服を脱ぐことに同意した。
しかし、こんな捜査を実際に警察が指示するのだろうか?
もちろんそんなわけはなかった。電話先の男は警察でも何でもない男だった。
完全なる愉快犯だったのだ。
男は当てずっぽうに大手ハンバーガーチェーン店に電話をかけ、
今回ドナの店がターゲットとなった。
巧みな誘導質問で店の情報を手に入れ、彼女たちを脅していきながら電話先の状況を
想像し、楽しんでいたのだ。
そんなこととは知らないドナは副店長に今の状況を説明。
警察からの電話と信じ込んでいるドナたちは言われるがままルイーズの服を脱がせ
下着だけの状態となった。
男はさらに下着も脱がせるように指示。
副店長はおかしいとドナを説得するが、ドナは自分に責任が及ばないように必死だった。
言われるがままルイーズの下着も脱がせ、ついに丸裸に。
もちろん裸になったって何も見つからない。
さらに男は証拠品になるからと下着をビニール袋に入れ保管するように指示した。
こうしてルイーズは裸のまま、来るはずのない警察を待つことになってしまった。
"婚約者を監視に付かせる"
電話がかかってきてから30分。
時間が経つにつれ店はますます忙しくなっていく。スタッフの数が足りない。
ドナは店の状況から仕事に戻りたいと電話先の男に伝えた。
すると男はルイーズが逃亡しないように、信頼のおける人物に監視させるよう伝えた。
ドナには婚約者がいた。すると男はその婚約者を監視役にするよう指示をしたのだ。
男性が裸の女性従業員の監視役をする。
普通に考えればありえない事だが、今のドナの心理状態ではそんな判断は出来なかった。
自分の保身のために言われるがまま婚約者を呼び裸のルイーズの監視役をさせた。
説明を受けた婚約者は困惑をしながらもドナの言う通りに監視を続けた。
そしてその状況を想像しながら優越感に浸る男は電話を受け取った婚約者に
とんでもない指示をした。
その内容とは裸のまま両手を上げさせて何度もジャンプさせるというもの。
ルイーズにとっては屈辱でしかなかったが無実を証明するために必死だった。
言われるがまま丸裸でジャンプをするルイーズ。
"嘘だと気付くも時すでに遅し"
婚約者も見事にダマし、電話のやりとりは3時間も続いた。
するとさすがに他のスタッフがこの捜査はおかしいと異変に気づき、
ドナも改めてエリアマネジャーに電話をして状況を確認した。
もちろんエリアマネジャーは窃盗事件のことなど知るはずもない。
ドナはここで初めて電話先の男が警察ではない事を知った。
こうして店は本物の警察に通報。
そして捜査を開始すると電話の発信元は店から1000km以上も離れた
フロリダ州の公衆電話だという事がわかった。
地元の警察の協力を依頼すると、なんと被害に合ったのはこの店だけでなく、
30州にわたり、70店以上にも及んでいた。
犯人はシリアルナンバー付きのテレホンカードで電話をしていたため、
そのカードを購入した店を割り出し、防犯カメラを確認するとある男の姿が映っていた。
その男の名前はデイビッド・スチュワート。
所在を特定し家宅捜索をすると、部屋の中は警察関連のグッズで一杯だった。
警察になったつもりで多くの店に電話をかけた愉快犯はここでついに逮捕。
一方、今回の事件の被害者となったルイーズは犯人や自身を追い込んだ店長のドナを
訴えるのではなく店自体を相手取り、日本円にして約7億円で和解が成立した。
自分の立場を守る為、犯人の口車に乗ってしまったことで起きた悲劇だった。