身体を共有する少女たち
アメリカ・ミネソタ州。
ぴったりと身体を寄せ合う双子の姉妹。
いつも体を寄せ合い、仲がよさそうに見える彼女達。
実は体が1つしかない。誕生の瞬間から、こうして生きてきたのだ。
明るく活発な2人は、どのような生活を送っているのか?
"結合双生児の姉妹"
彼女たちはミネソタ州の小さな街に暮らしている。
向かって左が「アビー」。右が「ブリタニー」。
彼女たちは当時11歳。
父のマイク、母のパティ、
それに弟、妹に囲まれて育ってきた彼女達は
毎日元気に学校に通っていた。
2人で一冊の教科書を広げる。でもノートはそれぞれ別々にとっている。
実は彼女達の手足は、それぞれが担当している
右手右足はアビー、左手左足はブリタニー。
だから宿題も、テストも別々。評価も一人一人もらうのだという。
姉妹がこの世に生を受けたのは1990年3月7日。
母のパティは出産の瞬間まで生まれてくる子どもは一人だと思っていた。
しかし生まれてきたのは体が繋がった結合双生児だった。
結合双生児とは、体の一部分を共有している双子のこと。
通常の一卵性双生児は、受精卵が分離し、誕生する。
しかし分離するタイミングが遅くなると、分離しきれず、一部がくっついた状態で
誕生すると考えられている。
死産となるケースも多いため、
アビーとブリタニーも、出生後、24時間生存することさえ危ぶまれていた。
彼女たちは、一つの骨盤に、それぞれの背骨を持つ。
そして、頭部、心臓、胃、肺、は、それぞれ独立しているが、
肝臓、小腸、大腸、子宮はひとつしかない。
このように多くの臓器を共有していたため、分離手術は不可能だった。
"一緒なのに別々の不思議な体"
しかし、周りの心配をよそにアビーとブリタニーは元気に成長。
1歳半のときには歩くことができるようになった。
そんな彼女達の体はどのように機能しているのか。
胃は2つあるので、それぞれが空腹を感じ、食べるタイミングも別。
食べ物の好みも2人は違う。
アビーはピザが大好物だが、ブリタニーは好きじゃないという。
さらにアビーとブリタニーは生活スタイルも大きく異なる。
アビーは早寝だがブリタニーちょっぴり夜更かしが好き。
寝るタイミングもバラバラなのだ。
そして彼女達はスポーツが大好き。
周りの子どもたちと変わらずに走り回っている2人だが、
右手右足を「アビー」が、左手左足を「ブリタニー」が動かしているとすれば、
まさに神がかり的なあうんの呼吸で動作している事になる。
親でも不思議に思うその体。
アビーが右腕を蚊に刺されても左側のブリタニーはそれを感じない。
さらに痛みやかゆみだけではなく、暑さや寒さの感じ方、
時には病気にかかるタイミングまでもが2人別々だというのだ。
いつもは仲の良い2人だが、たまに意見が合わずに口論になってしまうことも。
2人はケンカすると口をきかなくなるという。
それは互いにとって一番辛い時間。
そして薬を飲むときも彼女たちは助け合っている。
風邪をひいたときは薬を飲むのが苦手なブリタニーのために、
そのほとんどはアビーが服用するのだという。
血流は共有しているため、一人が飲めば、もう一人にも効果が現れるという。
アビーとブリタニーは、個々の人間なのだ。
"高校生になり車の免許を取得"
それから5年。2人は16歳になった。
毎朝協力しながら、髪をセット。そして朝の洋服選びはいつも言い争いとなる。
2人の好みはバラバラなのだ。
彼女達は地元の高校へ。
たくさんの友人達に囲まれながら、勉強やスポーツに励んでいた。
さらに、2人はあることにも挑戦していた。
それは自動車の運転。教習所に通い始めたのだ。
ハンドルは2人で操作する。
右側担当のアビーは、アクセルとブレーキ、
左側担当のブリタニーはウインカーを操作する。
試験は2人それぞれが受けるため
同じ試験内容をアビーとして、そして、ブリタニーとして、2度行わなければならなかった。
そして2人とも見事、免許を取得。それぞれの証明写真の欄には、2人の顔が。
"将来の事を考え始めるように"
地元の高校に通っているアビーとブリタニーは将来について考え始めていた。
高校卒業を1年後に控え、彼女達は将来について考えるように。
共に抱く夢もある。
それは子どもを産んでお母さんになりたいという夢。
しかし彼女達の体の生理機能は複雑。さらに彼女達が2人の男性と結婚するのか、
1人の男性と結婚するのか、社会はそれを判断する基準を持っていない、と専門家は語る。
彼女達は様々なハードルを乗り越えながら、いつも一緒に歩んで来た。
お互い分離されることは望んでいない。
"共通の夢である学校の教師に"
そして2012年。
彼女たちは大勢の仲間たちに祝福されて、22回目の誕生日を迎えた。
22歳ともなればすっかり大人の女性。メイクするときもチームワークは抜群!
アビーがマスカラを塗り終えるとブリタニーにバトンタッチ。
そんな2人に人生の転機が。
高校時代は別々の進学先を希望していたが、お互い納得するまで話し合しあった結果、
アビーの希望である、地元のミネソタ州の大学に行く事を決めた。
2人で同じ講義を受けるので、大学の費用は1.5人分にディスカウントされたという。
いつも笑顔で、元気に、毎日を楽しんでいる2人の姿は、多くの人々に勇気を与え、
若者達の人気者となった。
大学を卒業すると、2人は共通の夢だったある職業に就いた。
その仕事とは小学校の教師。それは、2人共通の夢だった。
大好きな子どもたちと触れ合える仕事を選んだのだ。
アビーとブリタニー。楽しいことも、苦しい事も、いつも2人で乗り越えてきた。
これから始まる新しい生活も常に2人は一緒。
教師となって4年、26歳となった現在も子どもたちと全力で向き合っているという。