ナゾの多いアレルギー
女子プロゴルファー、岡村咲。
彼女はマスクをして試合に臨んでいる。
その理由は、あるアレルギーと闘っているため。
彼女を襲った珍しいアレルギーとは?
"輝かしい未来を期待される"
咲はプロゴルファーを目指していた父の影響で10歳からゴルフを始めた。
父の指導の下、たちまちその才能を開花していった咲は全国大会に出場するまでに。
2人が住む徳島からの参戦は移動も大変。
そこで父は、なんとマイクロバスを購入。後部座席を畳敷きの寝室に改造し
自ら運転しながら全国の大会に出場していた。
そんな父の思いに答えるように、咲はジュニア大会で優勝。
日本代表として世界大会にも出場した。
高知中央高校へ進学すると、ゴルフ部に所属。
寮生活をしながらのゴルフ漬けの日々。2年で3度ジュニアの全国大会で優勝した。
日本全国で期待を集める有望選手に成長した。
咲には輝かしい未来が待っている。周囲の誰もがそう信じていた。
だが、それは高校2年生の終わり頃に起こった。
"ゴルフが出来ないほどの咳に悩まされる"
咳が止まらない上、体がだるく風邪のような症状。
ゴルフ部の練習にもついていけない。
咳はひどくなる一方で、階段を登るのも辛くなっていた。
病院で検査をしてもらうと、喘息と診断され運動をやめるよう勧められた。
大好きなゴルフをやめるなんて考えられない。
しかし練習を続けたが、咳がひどすぎて嘔吐したり、喉が傷つき血も吐いた。
ゴルフはもとより、授業すらも出られなくなった。
ひどい咳を心配されぬよう、親とはメールでのやりとり。
この時は咲を苦しめている本当の原因を知る者はいなかった。
さらに咲には血便や重度の抜け毛など新たな症状が見られるようになった。
様々な病院で診断を受けても血液検査に異常がないことから本当の原因を
突き止めることが出来ない。
ある病院では精神的なものとして抗うつ剤を処方される事もあった。
高校卒業と同時にプロに転向。
トーナメントの出場資格を獲得し、厳しいトーナメントツアーに参戦することに。
コーチは父。再び父と娘がタッグを組んだ。
試合中、咳がひどいときはマスクをつけた。
しかし、それが原因で集中力を奪われコントロールが付かず、体力の低下で飛距離も出ない。
さらに全身がむくみ、指の関節を曲げるのが痛くてグリップを握れない。
咲を苦しめているものは一体何なのか?
母は医学書を読んだり、テレビを見て娘の病について独自に原因を調べていた。
そしてたどり着いた結論。食べ物のアレルギーなのではないか?
ところが、どこの病院へ行っても詳しい検査をしてもらえなかった。
原因の分からない咳に苦しみながらも、咲は3年連続でツアー参加の権利を取得。
応援してくれるスポンサーも付いた。
"原因は遅延型食物アレルギー"
そしてプロとなって4年目の2014年、運命を変える出来事が。
スポンサー企業の紹介で、ある病院を訪れた。
そこでようやく咲の不調の原因を知る事となる。
咲の血液をアメリカへ送り、検査したところ、
遅延型食物アレルギーという非常に珍しいアレルギーを持っている事が判明したのだ。
一般的な食物アレルギーはアレルゲンとなる物を食べてすぐに症状が出る。
対して遅延型はその名の通り、食後に時間が経ってから発症するもの。
それは数時間後だったり、数日後だったりとさまざま。
また、湿疹が出るわけでもなく、疲労や頭痛、消化器系の症状が出ることが多いため、アレルギーとの関連に気づきにくい。
ただ、血便や重度の抜け毛の症状は直接関係するかは今も分かっていないという。
咲は小麦、卵、乳製品、さらに味噌や醤油などの発酵調味料全般で
アレルギー反応が起こることが分かった。
また、サトウキビから作った砂糖もダメ。
一方、米や加工していない肉、魚、野菜などは食べられるが
調味料のアレルギー反応が多いため料理法が少ない。
"アレルギーと向き合う日々"
診断を受けて2年。
現在の生活は、アレルゲンとなる食物を摂取しないよう、
買い物時には原材料の表示を必ず確認する日々。
自身のアレルギーを知ってから正しい食事をするようになり
咳もピッタリ止まって、抜け毛もおさまったという。
しかし今も外食は出来ないため、食事は自分で調理する。
味付けには、みりんや砂糖の代わりにはちみつや、アレルギーの無い特別な醤油を使用。
麺も米を使った物なら食べられる。
しかし、ツアー中は自炊が難しい。
そこで、父はまたも専用のマイクロバスを購入。
咲はこの中で自炊をしながらツアーに参戦している。
そんな咲は自身のアレルギーを知ってから一度だけ誘惑に負けたことがある。
それはバウムクーヘン。
体調が良かった事もあり、少しだけならと一口食べた。
しかし約5時間後、ひどい咳に見舞われ意識を失ってしまったという。
目覚めると、あたりは暗くなっていた。
なんと8時間も意識を失ってしまっていたのだ。
現在も、さっきまで元気だったのに急に容体が悪くなることもしばしば。
咳と脱毛は無くなったが、倦怠感・動悸は今も続き、頭痛はひどくなっている。
咲のアレルギーは、まだ詳しいことがわかっていない。
最近はアレルゲンとなる食べ物を少しだけ食べ、何時間後にどんな症状が起こるか
メモすることで少しでも自分の症状を解明しようと努力しているという。