放送内容

2016年6月15日 ON AIR

なぜ彼女は命を落としかけたのか?

静岡県にある病院。
ここにとあるアレルギーと闘う女性がいる。


彼女は6年前、その特殊なアレルギーが原因で皮膚は火傷のようにただれ、
指先は爪までボロボロに。
顔や体の粘膜に激しい炎症の様なものが起き、生死の境をさまよった。


彼女を襲った特殊なアレルギーとは?


"体調不良で市販の薬を服用"


2010年8月、愛知県。
彼女は看護の道を志し、4月から親元を離れ、愛知県にある看護学校に通っていた。


学校が終われば、夜は遅くまでアルバイト。
それは、看護学校が夏休みに入った8月下旬の事だった。


彼女の元に、バイト先の店長から電話が。
急きょバイトに入って欲しいという相談だった。
だが、風邪を引いたのか体調がすぐれなかった。


それでも頼まれると嫌とは言えない性格なので引き受けることに。
しかし、翌日以降も体調は良くならず・・


通常のバイトシフト日になっても変わらない。
薬を飲んで乗り切ろう。そう思い市販の解熱剤を飲んだ。
その薬が効いたのか、仕事中は体調も楽になった。


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だが翌日、ズキズキと頭が痛い。
そこで今度は普段から使用している、頭痛・生理痛の薬を飲んだ。
この日はバイトも休み。1日体を休めることに。


だが夜になると体に異変が。何だか息苦しく、唇が痛い。
見ると、ニキビの様なものが唇の周りにできていた。
これが、恐ろしいアレルギー症状の始まりだった。


"唇から広がる異変"


翌朝になると、唇の出来物は赤みを帯びて広がり、目はチクチクとした痛みが。
女性は近くの病院へ向かった。診断結果はヘルペスだった。
しかし、ヘルペスでこんなに体に異常が起きるものなのか?


彼女は疑問を感じながらも、処方されたクリームと抗ウィルス剤を使用し眠りについた。
しかしその夜、症状はさらにひどくなった。
強烈なのどの痛みで水を飲む事はおろか、唾液さえ飲み込むことができない状態。


目の充血は結膜炎のように広がり、出来物は口の中にも。
しゃべる事すら困難になった彼女は、いったん母親に電話をして気づいてくれた事を確認後、
すぐさまメールで今の状況を伝えた。


そして終電で実家のある静岡へ向かった。
母親はすぐに娘を連れ、市内にある病院の救急外来へ。
声の出ない娘の代わりに、母親はこれまでの状況を医師に伝えた。


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しかし、皮膚科の医師がいない事からその日は薬を飲んで様子を見るという事に。
だが彼女の症状はさらに進行していく。体には大量の赤い発疹。
それは背中や手のひらにも。


急いで病院へ。
皮膚科での診察の結果、彼女は入院することとなった。
やっとこの苦しみや不安から解放される。そう思っていた。


"恐ろしい薬によるアレルギー"


しかし彼女がトイレへ行くと、とてつもない激痛が走った。
尿道口がただれて、排尿が出来なくなっていたのだ。
さらに発疹の症状は腕や顔にも表れ、症状はどんどん悪化していた。


すぐにステロイドを大量投与する治療法が行われた。
担当医師は彼女がこれまでに飲んだ薬からこの症状の原因に思い当たる節があった。


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彼女を苦しめていた病の原因は
「スティーブンス・ジョンソン症候群」というものだった。
主に薬に対して免疫機能が過剰に反応して起こるアレルギー疾患で、
100万人に3人の確率で発症し、正確な発症過程はいまだ不明。


最悪の場合、失明や合併症などにより死に至る事もある恐ろしい病。
彼女の場合、服用した2つの薬に含まれる「アセトアミノフェン」か
「イブプロフェン」という成分からアレルギー反応が出たとされている。


だが、この2つの成分が必ずしも危険な成分という訳ではない。
どちらもドラッグストアに並ぶ一般的な薬に含まれる成分。
「スティーブンス・ジョンソン症候群」は誰がいつどんな薬で発症するかわからないのだ。


"「中毒性表皮壊死症」で死の淵をさまよう"


症状が出てから4日目の8月30日。
彼女が運び込まれたのは浜松医科大学附属病院。
ここで彼女は、長年薬剤アレルギーについて研究を続け、その治療に精通した
橋爪秀夫医師の元、診察を受けることに。


この時、彼女の症状は急激に進行していた。
表面の皮膚がはがれてピンク色に。発疹や水ぶくれは全身に広がり、
目や口や鼻の炎症は非常に激しかった。


橋爪医師は彼女の様子から両親にある事を告げた。
「スティーブンス・ジョンソン症候群」よりもさらに症状が悪化し
「中毒性表皮壊死症」に進行していると。


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日本では水ぶくれやただれなど、皮膚がただれた状態が10%未満だと
「スティーブンス・ジョンソン症候群」と呼び、10%以上だと
「中毒性表皮壊死症」と診断する。


彼女の場合は皮膚のただれた面積が全体の40%もあり、
命を脅かす極めて危険な状態だった。


そこで橋爪医師は血液中のアレルギー物質を除去するために
血液から血しょう成分だけを廃棄し、他人の血しょう成分を戻す治療を行った。
彼女はさらに感染症予防の為、体の抗体の主成分であるタンパク質、
免疫グロブリンを投与。


そして眼科医にも治療介入してもらい、ステロイド点眼といった処置がなされた。
こうした懸命な治療が2日間続き、なんとか彼女は一命を取り留めた。


"何とか一命を取り留める。そして現在..."


地獄のアレルギーから5年が経過した現在、
定期的に橋爪医師の元で治療を続けている彼女。


腕はポツポツと斑点の痕があるが元通りの肌に戻った。
爪は一度剥がれおちてしまい、今も完全には元に戻っていない。
顔は荒れた肌を化粧でカバーしているというが、退院したころに比べると
大きく回復している。


退院後は通っていた看護学校に復学し、現在は看護師となった彼女。
しかし現在も薬を飲むことに恐怖を感じるという。


現在、市立島田市民病院で副院長を務める橋爪医師によると、
「スティーブンス・ジョンソン症候群」や
「中毒性表皮壊死症」のガイドラインが作られたことで、診断も診療も
以前よりだいぶ改善されるのではという。


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今年6月2日、厚生労働省の森田研究班からこの2つの疾患に対し適正な診察が行われるよう
新たな診察ガイドラインが発表された。
これにより、この2つの疾患の早期発見・治療が期待されている。


一方で、これらの先進治療は、その医療費が数百万にのぼるなど非常に高額だが、厚生労働省の特定疾患になっているため、患者側から申請すれば医療補助が支給されることになっている。


いつ、どんな薬で発症するかわからないこのアレルギー。
粘膜に症状が出たら、すぐに専門医の診察を受けることが大切だという。

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