放送内容

2016年8月17日 ON AIR

市民の命を奪う危険な穴

日本の反対側、南米ペルーには子ども達の命を脅かす
「危険な穴」が空いている町がある。
仰天スタッフは、問題の町へ向かった。


"町の真ん中に空いた巨大な穴"


アメリカを経由しておよそ24時間、ペルーの首都リマに到着。
ペルーは南半球にあるため、季節は日本の真逆で今は冬。


向かったのは、首都リマから、車でおよそ8時間。
危険と隣り合わせの山道をひたすら登っていくとセロ・デ・パスコという町に到着した。
現地の気温は3℃でかなり低い。なぜならこの地の標高は4338m。
富士山よりも高い所にある。


酸素量は平地のおよそ60%。
スタッフも歩いているだけで息苦しくなる。そんなアンデス山脈上にあるこの町に
およそ6万9千人もの人々が暮らしている。


まず仰天スタッフはこの地域の区長、マルテイシオさんの元を訪ねた。
彼に案内されついて行くと、町の真ん中にぼっかりと空いた「巨大な穴」があった。


民家のすぐ横に、どう見ても人間が掘ったとしか思えない穴。
その大きさは、縦2km、横800m、そして深さは400m。
それは、東京タワーがすっぽり入るほどのサイズ!


これが子ども達の命を脅かしているとは、一体どういうことなのか?
住民に話を聞くと町中にある土砂を積み上げた山から風で埃が舞ってくるため、空気が汚れているという。
頭が痛くなったり、鼻血が出たりすることも。


実はこの山、謎の巨大な穴を堀って出た土砂が積み上げられたもの。
そのせいで、住民の体に異変が起きているのだという。


さらに、スタッフが向かったのは町にある湖。
赤く変色した水と、茶色いヘドロのようなもので覆われていた。
かつては釣りも楽しめる綺麗な湖だったというが、あの穴からの排水が
この湖に流され、現在は生物が存在しない「死の湖」へと変貌していた。


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水辺にある植物も枯れ果てた状態。
さらに、あの穴を掘って出た土砂が雨水と共に地下にしみこみ
町の水道にも混ざりこんでいるという。


一体この謎の穴の正体は何なのか?...実はこれ、鉱石をとるための穴だった。
その歴史は古く、400年も前から採掘が行なわれてきた。
セロ・デ・パスコは、その仕事を求め、人が暮らすようになり大きくなった町。


採掘は今でも続いており、鉛や亜鉛が採られている。
それらの鉱石は、日本にも輸出され鉛は主に車のバッテリーに使われている。
亜鉛はガードレールなど、鉄板のメッキ加工で使われているという。


そんな採掘の時に出た大量の土砂には鉛や亜鉛などの金属クズが含まれており、
それは人体にとって有害。
風に吹かれ、有害物質を含む埃となって空気中を漂っている。


"漂白剤を入れて飲み水に"


空気や水が汚染されたこの町で人々はどんな生活をしているのだろうか?
まず仰天スタッフはこの町で暮らす、裕福な家庭を訪ねた。出迎えてくれたのはホルヘさん。
妻と、息子の3人家族で夫婦は、生まれも育ちもセロ・デ・パスコ。


ホルヘさんの職業は画家。この国ではかなりの高収入を得ている。
裕福な家庭だから、こんな暮らしをしていた。
水道は汚いため、スープを作るにも、ごはんを炊くにもミネラルウォーター。
そして食材を洗うのにもミネラルウォーターを使うという。


料理が出来上がった時には、なんと8リットルものミネラルウォーターを使っていたのだが、
これが当たり前の事だという。
そして、食後の歯磨きもミネラルウォーターで、さらになんと、手を洗うのもミネラルウォーターだった。


ホルヘさんの家では、掃除とシャワー以外は、すべてミネラルウォーターを使う。
一か月のミネラルウォーター代は、町の平均月収の半分にあたる1万円にもなるという!


だが、彼らは特別だった。
スタッフが取材した一般家庭では、水道水に薬を入れ消毒してから使っていた。
水を消毒する薬とはなんと漂白剤。信じられない事にこれを飲んでいるという。


飲み水が入ったバケツは黄色く濁っている。
もちろん、町にある全てのレストランでも漂白剤で消毒した水の使用が
義務づけられているというが、この消毒方法には重大な問題があった。


"鉛中毒に苦しむ住民たち"


漂白剤による消毒は細菌や微生物には有効だが、有害物質である金属には効果がない。
そのため、住民の多くが鉛中毒に苦しんでいる。


鉛中毒とは大量に摂取する事で様々な中毒症状を引き起こすもの。
鉛は、血流に乗って体内の各器官に運ばれ蓄積される。
そして永続的に人体の神経システムに影響を与え続ける。


そのため、激しい腹痛や頭痛、骨の痛みなどといった体の様々な部分の症状から、
うつや、幻覚・錯乱など、脳に影響も及ぼすこともある。


さらに、鉛中毒は特に子どもへの危険度が高く、
脳や身体の発達障害、歩行困難、重症の場合、多臓器不全などで死に至ることもある。


ペルーは国全体の5歳未満の死亡数は1000人中17人だが、
この町は、1000人中、42人が2歳になる前に死亡している。
土砂の山に囲まれた地区で生活する、こちらの家族は子どもたち全員が鉛中毒だという。


これを受け、ペルー政府は詳しい調査を行う事を決定。
鉛中毒の症状が見られる人達の治療を行い、町に解毒専門病院をつくる事を決定した。


だが、政府は、鉱山会社の操業を停止させていない。
実は、ペルーのGDPはその6分の1を鉱業が占めているのだ。


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この鉱業を支えているひとつがセロ・デ・パスコであり、
ペルーの経済発展の源となっている。
町では数年前、新たに金を採掘する鉱山も開かれた。


この地に住んでいる住民達は、貧しく、ほかの町に引っ越すことはできない。
利益の追求と住民の安全はバランスよく進んでいないのだ。

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