毎日何度も失神する女性のナゾ
学校の朝礼などで、バタリと倒れる生徒たち。
貧血と思われていたが、実はとある病気だったかもしれない。
「POTS(ポッツ)」。
この聞き慣れない病名に苦しむ女性がいた。
"突如として失神してしまう病"
イギリス中部の街、リーズ。
この街に住む、バートラム一家の一人娘、
ペイジ・バートラムはある症状に悩んでいた。
なんと、突然意識を失ってしまう。
こういった失神は1日に何度も繰り返し起きた。
初めて症状が出たのは、水疱瘡でしばらく学校を休み、久しぶりに登校したときだった。
突然意識を失い、およそ2分後に意識は戻った。
すぐに、失神の原因を探るため、心電図や血液検査が行われた。
この時の検査で、すぐに命の危険がないこと、貧血が原因でないことがわかった。
しかし、翌日もまた失神。しかも1日に何度も気を失った。
ペイジの失神には特徴があった。
まず、息が荒くなり、冷や汗をかく前兆があること。それから間もなくして意識を失う。
失神は避けられないが、危険を察知できるようになった。
前兆を感じてから倒れるまでの一瞬の間、どこかに寄りかかったり、
なるべく膝から倒れて、手で衝撃を和らげるよう意識した。
さらに母親はいつどこで失神するかわからないペイジに
医療警告用のブレスレットを渡した。
名前や持病の詳細、連絡先などを記し、発見した人や救急隊員に情報を伝えるのが目的。
こうして初めての失神から2年、ペイジは高校生になった。
ペイジにも周囲の人たちにも、もはや日常。
大きな怪我もなかったため、恐怖心や警戒心が薄れ始めていた。
そんなある日、失神によって階段から転落してしまった。
およそ20段の階段から落ちていたペイジはこの時、死の危険もあることを強く感じた。
"自分の病を知り、意識を変えて向き合う"
その後退院し、失神の症状を調べていたある日。
失神の発作を持つ人の援助をする団体のホームページを見ると、
そこに、ペイジに似た症例が載っていた。
そして、ペイジを苦しめた病気が「POTS(ポッツ)」だと判明する。
POTS(ポッツ)、体位性頻脈症候群(たいいせいひんみゃくしょうこうぐん)
人間は立った状態では、重力により、血液が下半身に溜まっていく。
通常はそれを防ぐため、心臓にあるセンサーが働き、
下半身の血管を締めて血液を押し上げ、さらには心臓を早く動かし、全身に血液を送る。
しかし、そのセンサーに何らかの異常があると、血管や心臓のコントロールがうまくいかず、
脳に血液が行きにくくなり、立ちくらみや、けん怠感、失神などを引き起こす。
誰にでも、立ちくらみなどはあるが、通常、しゃがみこめば脳に血がまわり、
失神まで至ることは少ない。
しかしペイジの場合、その間もないほど失神までの時間が短い、と考えられた。
実はこのPOTSは、学校の朝礼で立っていられず倒れてしまったり、
朝どうしても起きられず遅刻を繰り返すなど中学生の10人に1人の割合で
いると言われている起立性調節障害の一種。
ウイルスによる感染症や、骨折などの怪我、熱中症などをきっかけに、
発症する方が一部いるという。
ペイジも、水疱瘡がきっかけで発症した可能性が高いという。
病名が分かり、彼女の生活は大きく変わった。
目が覚めてもすぐには起き上がらず、ベッドの上でごろごろする。
急に動くと、血液の流れがついて来られないため、細かい動きで慣れさせる。
ベッドから起き上がるときも、頭を上げないように。着替えも、座ったまま。
食事にも注意が必要。食後は血液が胃に集まって、脳に行きにくくなる。
そのため、食事を少なめに1日4回にわけてとった。
また、十分な水分をとり塩分は多めにとる。
これにより、血液の量を増やすことができ、体に巡らせることができる。
これを意識するだけで、失神はかなり減った。
そんなペイジの症状は今、改善に向かっている。
やっと半年程前に自分の体に合う薬が見つかった。
今は大体週に1回の失神で済むようになったという。
そして左手には光るものが。
今は婚約者のカイルさんと2人で暮らしている。
周りのサポートを受けながら、これからも彼女はこの症状と闘っていく。