世界が涙した親友との約束
海を見つめる車イスの男性。彼には絶対に叶うはずのない夢があった。
しかし、ある1人のスター選手が彼の夢を叶えるためだけに自分の名誉ある記録を捨て
ある事に挑んだ。
"夢を失った元サーファーとの出会い"
2015年5月。
アルゼンチン屈指のビーチリゾートとして知られるマルデルプラタの町。
プロサーファーのマーティン・パセリは、間もなく開催される国内最大のサーフィン大会、「アルゼンチン・チャンピオンシップ」に向けての調整に余念がなかった。
マーティンは、そのチャンピオンシップで過去に5度優勝しているトップ選手。
サーフィンファンにとっては憧れのスターだった。
ある日、ファンに囲まれていたマーティンが、海辺にいる1人の男性に気付いた。
それは車イスの男性。じっと海を眺めている。
翌日、また次の日も車イスの男性はいた。
気になったマーティンは声をかけてみた。
彼はニコラスという6つ年上の男性でかつてプロを目指していたサーファーだった。
ローカル大会では優勝経験もあるほどの選手だったという。
ところが18歳の時。
不運な事故で脊髄を損傷し下半身麻痺。ニコラスの夢は終わった。
この日から、2人はよく話すようになった。
サーフィンの楽しさについて大いに語る2人。
しかしニコラスはもうその楽しさを味わうことが出来ない。
同じサーフィンを愛する者として、マーティンはその気持ちが痛いほど分かった。
チャンピオンシップで5連覇している自分と、海に入ることすら困難になったニコラス。
今、自分にできることはないのか...?
"記録を捨て、2人で大会へ"
そんな時、マーティンにある考えが浮かんだ。
それはなんとニコラスを大会に出場させようというもの。
それを聞いて驚くニコラス。もちろんサーフィンなんてできる体ではない。
マーティンはニコラスを背負ってボードに乗るという。
これが、ニコラスに再びサーフィンの楽しさを感じてもらおうという、
マーティンのアイデアだった。
しかし、
それはマーティンの6度目の優勝が無くなってしまうという事でもあった。
胸が熱くなるニコラス。そして練習が始まった。
しかし、ボードの上で人を背負って立つなんてマーティンをもってしても簡単ではない。
練習は失敗つづきだったが、2人は諦めずに練習を続けた。
親友の夢を叶えるために無謀な挑戦をしたチャンピオン。
大勢のギャラリーが見守る中、ついに前日練習で2人でのライディングに成功!
それは時間にしてわずか数秒ではあったが、ニコラスは波に乗ったのだ。
結局マーティンの体への負担を考えたニコラスの申し出で2人での大会出場は
取りやめたものの、この前日練習の映像は、世界中に配信され大きな感動を呼んだ。
あれから1年半。
マーティンとニコラスは今でも頻繁に会っているという。
そしてニコラスはなんと本格的にサーフィンを始めていた。
ハンディキャップを持つ人たちのサーフィン大会出場を目指して特訓中だという。
マーティンもサポート役を時々買ってでている。
マーティンの行動によって人生が前向きになったニコラス。
そんな2人の男の友情はずっと続いていくだろう。