顔が壊れていく女性 命かけた手術
1984年、ポーランドの小さな町に生まれたヨアンナは、
生まれた時から左まぶたが腫れていた。
その腫れは大きくなりどんどん垂れ下がってくる。
ヨアンナが4歳になった時、その原因が初めて告げられた。
それは日本に4万人以上もいる病気だった!
"顔の腫瘍がどんどん広がっていく病"
生まれた時から左瞼が腫れ、垂れ下がってきたヨアンナ。
医師から告げられた病名は神経線維腫症1型という病気だった。
神経線維腫症1型、別名レックリングハウゼン病という。
全身の神経、皮膚、骨などに様々な症状を発症する遺伝性疾患。
主な症状はカフェ・オレ斑と呼ばれる、大小の褐色のアザが色んな場所にできたり
全身に大小の良性腫瘍が現れたり、骨の変形、欠損、などの症状が現れる。
根治は難しい疾患。
両親どちらかからの遺伝により発症する確率は約50%。
しかしヨアンナの場合、両親や兄弟、親戚にもこの病の者はなく、
ヨアンナは突然変異による発症だった。
日本では4万人以上の患者がいるが重症は10%ほど。
3分の1は病気に気づかず生活しているという。
この疾患と診断されてもほとんどの人は見た目の変化もわずかで痛みも感じず、
普通に生活を送っている。
しかしヨアンナは重篤な症状だった。
彼女の神経線維腫は、「びまん性神経線維腫」というタイプで
病変が広範囲に広がるため、腫瘍が徐々に大きくなったり、
増えたりしていくものだった。
さらに、びまん性神経線維腫は、太い血管を巻き込んで増殖するので、
切除する時に大量出血する恐れがあり、手術は難しいという。
両親は娘の将来の姿を考えると恐ろしくてたまらなかった。
そして腫瘍はどんどん広がっていった。
やがてヨアンナの左目の上の腫瘍は眼球を押しつぶすようになっていく。
視神経が圧迫され、時々痛みを感じるようになった。
唇の上にも腫瘍ができ口元が歪んだ。
両親は毎日娘のことを思い、心を痛めたが、
娘を家に閉じ込めることは娘のためによくないと思い、
特別扱いせずに普通の子と同じように扱った。
ヨアンナは普通の小学校に通った。
当時は通りすがりの大人からジロジロ見られ、指を差されることもあったという。
しかし、両親はヨアンナを積極的に外に連れ出した。
自分は恥ずかしい人間じゃない、と自信を持たせるために。
"病に負けず勉学に励むヨアンナ"
ヨアンナの腫瘍はどんどん広がっていった。
大きくなる腫瘍が彼女の視力を奪っていく。
一方、ヨアンナは自分の変化を強い気持ちを持って受け入れていった。
言いたい人には言わせておけばいい、と。
そして、余計なことを考えなくていいよう夢中になるものを作った。
それは勉強だった。
勉強して高い学歴を身につければ生きて行く選択肢は増える...そう考えたのだ。
そして、13歳の時にようやく最初の腫瘍摘出の手術を受けることができた。
だが...彼女のためにできるのは表面の腫瘍を部分的に切除することだけ。
時間が経てばまた大きくなったり、別の場所にできてしまう。
こうして顔は変形していった。
しかし、それでもヨアンナは引きこもらなかった。
必死に勉強し、大学にも合格。
ハイヒールにドレス。おしゃれをしてダンスパーティーに出席。
男性と踊ったりもした。
積極的に人前に出ていき、たくさんの経験をし、常にポジティブでいようとした。
そんなヨアンナを受け入れてくれる人はたくさんできた。
一方、こんな辛い思いも。
大学に入った時にルームシェアをしたものの、3日後に大家さんから、
他の学生があなたと暮らしたくないと言っているから出て行ってくれと言われた事があったという。この経験は彼女の心を酷く傷つけた。
28歳までに35回もの切除手術をしたが腫瘍の成長は止まらず、
耳もゆがみ、聞こえにくくなった。
上唇は覆われ、舌の上や歯茎にも腫瘍は出来た。
はっきりと話すことも大変になっていく。
さらに、口の中の腫瘍が大きくなっていく事で、食道や気道が腫瘍でふさがれて
飲み込んだり呼吸することも今後難しくなるという事を医師から告げられた。
やがて呼吸も食事もできなくなる...しかもそれを阻止する方法などないと思われていた。
そんな時、彼女の人生を変えるニュースが発信された!
"彼女の人生を変えた「顔面移植」"
2013年5月。
グリヴィツェ腫瘍学センターのマチェイエフスキー医師とそのチームが
ポーランドで初めて、ある手術に成功。
それは、石切りで、誤って顔の大部分を失ってしまった男性に顔を移植する手術だった。
脳死したドナーの鼻、頬、頬骨、顎、口蓋、顔面筋肉、顔面神経が移植された。
男性は新しい顔を手に入れたのだ。
ヨアンナは思った。顔面移植...私の人生を変えるのはこれしかない!
すぐにテレビ番組の中で紹介されたアドレスにメールした。
病歴を書き、写真を添付して...。
しばらくして、なんと医師と会う機会を得ることが出来たヨアンナ。
医師によると、まず病気の組織を除去しそこに健康な組織を移植するという。
しかしこのケースの手術は世界に2人しか症例が無い難しい手術。合併症の恐れもあった。
それでも、顔面移植こそが彼女に残されたたったひとつのチャンス。
ヨアンナは移植を決意した。
それから約半年後の2013年12月4日。
19歳のドナーが見つかり、およそ23時間にわたって顔面移植手術が行われた。
30年近くもヨアンナを苦しめた腫瘍が皮膚、皮下組織、顔面筋肉とともに取り除かれた。
長年腫瘍に押しつぶされていた左の眼球は切除しなければならなかった。
口蓋や舌の上にできた腫瘍も取り除かれた。これで彼女は楽に呼吸することができる。
皮膚、皮下組織、鼻の軟骨、筋肉、そして神経と血管の移植。
骨の移植はないが、ドナーの顔面の80%が移植された。
こうしてヨアンナは新しい顔を手に入れた。
手術から半年後...ヨアンナさんは、父親とリハビリに励んでいた。
彼女は顔面移植後、額、眼窩、鼻の再建、など8回の手術を受け、
綺麗な顔を取り戻している。
そして現在。手術から3年たった今もヨアンナの腫瘍は現れていない。
左目は義眼を入れるための準備中。右目の視力は、少し光を感じる程度だという。
耳には補聴器をつけ、さらに食べることや話すことの改善のため、
歯に矯正器具をつけている。
カフェ・オレ斑もいまのところ移植した部分には出ていない。
噛むことはだんだんできるようになってきたが下唇の一部に感覚がなく、
顎関節が破損しているため口は手を使わなければ閉じられない。
視力を失ったが、自分でできることは自分で。
外の世界から隔離されることが一番辛いという彼女。
パソコンの自動音声読み取り機能を使ってコミュニケーションをとり
社会とつながっている。
普通に暮らすことが自分の夢だと語るヨアンナ。
家族のサポートのもと、一日も早く社会に出たいと闘っている。