放送内容

2017年4月 4日 ON AIR

手足が木のようになった男性 奇跡の手術

バングラデシュの首都ダッカ。
ここに世界の注目を浴びた一人の少女がいる。
サハナ・カートウンちゃん。


とても可愛らしい10歳の少女。しかしその顔には...何か、異物が。
サハナちゃんは体が木のようになる病に冒されていた。
彼女の身に、一体何が起きているのか?


"体が木のようになる病とは?"


首都ダッカから250km離れた、バルチョーラという小さな村で生まれたサハナちゃん。
生まれたときは異常はなかった。


しかし6歳になった頃、アゴにできた出来物が異様な形となってあちこちに広がっていった。
周りの子どもたちは少女を嫌がるようになり、学校へも行けなくなった。


妻が亡くなり、男手ひとつで育てていた父ムハンマドさんは、
一人娘の笑顔を取り戻したいと、首都ダッカの病院を訪れた。
医師が下した診断は、疣贅状表皮発育異常症の一種だった。


「疣贅状表皮発育異常症」。通称EV。
疣贅(ゆうぜい)とは、「イボ」のこと。
つまり、イボ状になった皮膚が異常に発育し、広がってしまう病。


その原因はウイルス。「ヒトパピローマウイルス」というもの。
実はこれ、子宮頸ガンの原因ウイルスであることで知られている。
決して珍しいウイルスではなく、私達の日常にも広く存在する。


小さな傷口から皮膚に侵入しても、
ほとんどの場合、免疫機能でウイルスはブロックされる。
しかし感染した細胞が広がり「ウイルス性イボ」となる場合がある。


とはいえ、サハナちゃんの様にここまで伸びていくことはめったにない。
原因は、遺伝子。サハナちゃんのような患者は、遺伝子の異常により
ヒトパピローマウイルスに対する抵抗が弱い。


その結果ウイルスにどんどん感染し、皮膚の異常が大きく広がってしまうのだ。
根本的な治療法はないが、イボを切除したり、皮膚の状態を変える投薬が行なわれる。


"両腕が木のようになった「ツリーマン」"


実はセーン医師、サハナちゃんより
さらにひどい症状に苦しむ男性の治療を行っていた。


アブル・バジャンダルさん。27歳。
2016年1月。アブルさんの異物の切除手術が行なわれたとき、
その様子はマスコミによって国内外で大々的に報道された。


なぜなら、彼の皮膚があまりにも特殊な広がり方をしていたから。
メディアは彼のことをこう書いた。「ツリーマン」。「木の男」。


皮膚の異物が広がった彼の手はまさしく両腕から木が生えているような状態だった。
レントゲンで見ると、骨が見えなくなるほど硬い異物で覆われているのがわかる。


バングラデシュの南西部。
クルナという町で暮らしていたアブルさんは15歳頃、左手に異変が起きた。
地元の医者をいくつも訪ねるが原因も治療法もわからなかった。


そして10年以上が経ち
皮膚はまるで木のように大きく成長してしまったのだ。


両手足に伸びた異物の重さは、なんと約5kg。
あまりに目立つその手は、布で覆い隠していた。
その見た目のせいでひどい言葉を浴びることもあった。


リキシャと呼ばれる自転車タクシーの運転手をしていたアブルさんだったが、
大きな異物で覆われた手は次第に自由が利かなくなり、仕事を続けることは不可能に。


そんなアブルさんの支えとなっているのが家族の存在だった。
実は幼なじみだったハリーマさんと、病気発症後に結婚していた。


そして娘も授かった。
実はこの病気は劣性遺伝のため、両親ともにその遺伝子を持っていなければ、
子どもに発症することはまずない。


とはいえ、可愛い娘の事を抱き上げることができないのが辛かった。
症状が悪化し、両手の自由が利かなくなってから、妻や母親が、身の回りの世話をしてきた。


「食べる」ということも彼にとっては、容易ではない。
さらに服も普通に着る事ができない。
シャツは、袖にファスナーをつけたものなどを着用していた。


"国の援助もあり、「娘を抱ける」体に"


妻へ感謝しながらも、娘の成長と共にアブルさんにある思いが。
それは娘を抱き上げてやりたいという思い。


そんなとき、アブルさんをメディアが取り上げた。
そのニュースを見たある人物が、彼の運命を変えることになる...!


それは、バングラデシュのシェイク・ハシナ首相。
治療ができず苦しんでいたアブルさんを、国が無償で治療することを約束したのだ。


こうして、ダッカ医科大学病院で手術が行なわれることになった。
木のように硬く広がってしまった異物を、電気メスで切除していく。


元の皮膚から遠い部分では、血管が通っていないので出血はしない。
手術は16回にも及んだ。


その結果...アブルさんの手は、念願だった娘を抱けるまで回復した。
彼らには笑顔が増えた。


アブルさんは今後も定期的に通院し、経過を見ていくという。


そして、同じ症状に苦しむ10歳のサハナちゃんは、
今年2月、一度目の手術を終えたが、その後、再び異物が発生。
再手術が必要となってしまった。


サハナちゃん親子は金銭的な余裕もなく、一度村に帰ったという。
アブルさんも16回もの手術に耐え娘を抱くという夢を叶えた。
サハナちゃんにも、医療の奇跡が起こることを祈りたい。

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