放送内容

2017年4月18日 ON AIR

フロリダの扇風機おばさん

美しい韓国女性、ハン・ヘギョンさん。
彼女にはコンプレックスがあった。


それはエラの張った顔。
そこで闇医者の勧めでエラの周りにシリコンを打った。
気になっていたエラは目立たなくなり、美しくなれた気がした。


もっと美しく...彼女は顔にシリコンを打ち続けた。
その結果、顔はお月様の様にまん丸に!


やがて異物注入に依存するようになり、取り返しのつかないことに。
彼女の顔は...巨大に膨れ上がってしまった。


以前の面影はもうどこにもない...
韓国のテレビに取り上げられ、扇風機おばさんと呼ばれた。
何度も手術を受けたが、元には戻らず。
彼女は仰天ニュースにも出演し、整形に憑りつかれた後悔を語った。


そして、そんな女性が遠く離れたアメリカにもいた。


"美しさを求め美容クリニックへ"


フロリダ州マイアミに住んでいた、キャロル・ブライアンさん。
若い頃からその美しさは際立っていた。


40代となってもその美貌は衰えない。
そんな彼女にも悩みがあった。


30代後半に差し掛かった頃に目元の小ジワや眉間の縦ジワが目立つように。
誰にでも起こることだが、彼女はそれを認めたくなかった。


そこで訪れたのは美容クリニック。
顔の皮膚の下にはいくつもの筋肉があり、その動きによって様々な表情が作られる。
筋肉が動くと表皮も引っ張られ、さまざまな「表情ジワ」を作り出す。


若い弾力のある皮膚であれば、ハリのある状態にもどるのだが、
加齢とともに皮膚の弾力も失われていき、シワとして刻まれるようになる。


つまり表情筋を動かさなければシワもできにくい。
ボトックス注射は、筋肉の動きを抑制する効果がある。
つまり、表情筋の動きを抑えることで表皮のシワを目立たなくするのだ。


注射を打つだけという気軽さ。ためらいなく打った。
しかし、その効果はせいぜい3か月から、半年しかもたない。
その為、キャロルは定期的にクリニックに通って注射を受けた。


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しかし2009年、47歳の時だった。
キャロルはボトックス注射の効果が薄れている気がした。


居ても立ってもいられずクリニックへ。
医師に相談するが、加齢のため起こる事なのでしかたないという。
そこで「フィラー注入」と呼ばれる方法を薦められた。


「フィラー注入」とはたるんだ皮膚に充填剤を入れる事で、
シワの無いハリのある状態を作り出すというものだった。


医師の勧めるまま額全体と頬に少し打った。
それが取り返しのつかない事になろうとはこの時彼女は想像もしていなかった...。


"美しかった彼女の顔は無惨なものに"


処置の後はちょっと額が突っ張る感じがした。
じきに馴染むはずと思っていたが、しばらくすると額のところどころが腫れだした。
触るとジュクジュクした感触と鈍い痛み。


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医師はしばらくすると慣れるという事だったので放置していた。
だが3か月後には...一面腫れあがった額、いったいどうしたのか?


医師は2種類の成分を混ぜてキャロルの顔に打った。
そのうちの一つが「液状シリコン」だった。


シリコンは皮膚の中で生体分解できず、体外にも排出できない。
そんな異物が入ると、隔離しようとその物質を封印する反応が起こる。


このとき生成されるのが、異物肉芽腫と呼ばれるもの。
これが腫れの原因だった。
つまり液状シリコンの注入はかなりの危険を伴う行為なのだ。


日本では液状シリコンは、充填剤(フィラー剤)として認可されていない。


やがてあの美しかった彼女の顔は無惨なものに。
額から頬にかけて広く浸透したシリコンが慢性的な炎症を引き起こし、
肉芽腫はどんどん増大していった。


それからというもの、キャロルは一日中部屋に引きこもった。
外出を一切せず、家族にさえ顔を合わせない生活が続いた。


そして3年が経ち...2012年。
娘のソフィアは18歳になった。


ソフィアはあることを調べていた。
アメリカ中の大学病院に連絡をとり、医師を探していたのだ。
家族にも心を閉ざしてしまった母親を救いたい。それがソフィアの願いだった。


"母を救いたい...娘の願いが医者を動かす"


すると...2013年3月。ついに医者から返信が来た。
返事をくれたのは、UCLAの形成外科医 レンザ・ジャーレイ医師だった。


キャロルは3年ぶりに家を出てカリフォルニアへ。
レンザ医師の診察を受けた。


まずレンザ医師は手術に向けた特別チームを組んだ。
その中に微小血管外科の権威、ブライアン・ボイド医師もいた。


最初にキャロルの症状をみた印象をボイド医師は
「シリコンは彼女の額全体に皮膚組織と一体化して広がっており、
全て取り除くのは難しい」と感じたという。


レンザ医師からも相当困難な手術になると告げられたキャロル。
だが、どんなリスクがあろうともこのまま生き続けるよりはマシ...そう思えた。


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手術が行われたのは2013年4月。
額を切開し、可能な限りシリコンを取り除いていく。


しかし、キャロルの額の内部では想像以上にシリコンと組織の同化が進行し、
取り除けるのは、ごく僅かだった。


しかも、手術の結果、
キャロルの右目は見えなくなってしまった。
しかし、覚悟を決めて手術に臨んだキャロルは動じず、手術の続行を希望した。


すぐに二度目の手術が検討され、
2013年10月にボイド医師の執刀で、2度目の手術が行われた。


それは額の皮膚を、シリコンの入り込んでいる皮下組織の部分まで除去し、
そこに背中から取ってきた皮膚を移植するという大掛かりなもの。


移植した背中の皮膚がきちんと機能するためには
細い血管や神経を繋ぎ合わせる高い技術が必要。


手術は17時間にも及んだが、無事成功した。
直後のキャロルを見ると、額の部分の皮膚をまるまる入れ替えた事がよく分かる。


その後も、移植した皮膚を馴染ませるために計4回の手術を受け、
キャロルの額は徐々に滑らかになっていった。


現在はロサンゼルス近郊に住んでいるキャロルさん。
顔は、滑らかに回復している。


右目の視力を失ったがそれだけで済んだのはラッキーだったと語るキャロルさん。
現在は美容整形で外見を損なってしまった人々をサポートする団体の活動に尽力している。


自分の様な辛さを誰にも味わわせたくない。それが彼女の願いである。

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