命を脅かしたインスタントソース
一見よく似た2つの商品。レトルト食品とチルド食品。
実は大きな違いがある。
常温で長期間保存できるのがレトルト食品。
一方でチルド食品は冷蔵保存が必要。
パッと見ただけではわかりづらいが、間違えると大変なことになるかもしれない。
"ハヤシライスを食べた妹に異変が"
それは千葉県のある町で起きた。
夏休み中、子どもたちだけで過ごしていたある家。
この日の昼ご飯は...鍋で湯せんしてご飯にかけるだけの手軽なハヤシライス。
だが食べようとした時、ニオイや味が変な気がした。
それを感じた兄は...すぐに吐き出した。
しかしこの後、妹にとんでもない危機が訪れる。
異変が起きたのは次の日の朝だった。
妹は熱はなかったがふらつき、立っているのもつらそう。
父親は自宅近くの病院へ連れていくと、軽い夏バテだろうとのことで...点滴治療を受けた。
しかし夕方になっても症状は改善せず、口もきけないほどに悪化。
父親はすぐに大きな病院の救急外来へ。
あの腐っていたハヤシソースの事は、兄が食べていなかったので父親に言っていなかった。
そのため父も原因に思い当たる節はない。
医師は現在の症状から、どんな病気か見当をつけるしかなかった。
まず医師は免疫反応を抑える薬剤を投与。
しかし、入院から4日目。呼びかけにも全く反応がなくなった。
筋肉の麻痺が進行している。明らかに病状は悪化していた。
他の病気の可能性も検討してみたが、どうしても原因がわからない。
ハヤシソースをひと口飲み込んでいた事がこの命の危機の原因だったのだが、
医師はそれを知らなかった。
病名を突き止めないと治療ができない。
医師は家族から改めてこれまでの食事について詳しく聞いた。
そこでレトルトのハヤシライスから変なにおいがしていた事を知ることになる。
検査の結果、少女の便や血清検体から、ボツリヌス毒素が検出された。
妹はボツリヌス症だったのだ。
"勘違いから発生した不幸な事故だった"
ボツリヌス症とは、
ボツリヌス菌という細菌が増殖の時に作り出す毒素によって引きおこされる症状。
その毒素は筋肉の動きを麻痺させ、最悪の場合、呼吸筋の麻痺により死に至ることも。
実はボツリヌス菌は、「芽胞」という状態で土の中や河川など自然の中に存在している。
つまり、野菜や肉、魚などに「芽胞」が付着している可能性がある。
今回の事態は、ハヤシソースの中でボツリヌス菌が増殖していた。
診断が確定したことで、医師はただちに抗毒素の投与などの治療に入った。
しかし一体なぜ、ボツリヌス菌が増殖していたのだろうか?
実は、少女が食べたハヤシライスはレトルト食品ではなかったのだ。
それには不幸な勘違いがあった。
この家ではハヤシソースをいわゆる「レトルト食品」と思い込んでいた。
レトルト食品は製造過程でボツリヌス菌などが死滅する120℃の高温で処理されている。
だから常温で長期保存できるのだが、あのハヤシライスは、輸送から販売、保存まで
冷蔵保存しなければならないチルド食品だった。
しかし、家族は思い込みから冷蔵庫に入れず常温で保管していた。
これが、最悪の事態を招いてしまった。
ボツリヌス菌は空気の少ない環境を好む菌。
しかも30~37℃が最も活発に増殖する温度といわれている。
そうした環境になると一気に増殖する。
真夏の室温に置かれた真空パック。つまりボツリヌス菌に最適な環境に置いてしまっていた。
兄妹が食べようとしたのは、9日間常温に置いた後だったが、
賞味期限内ということもあり、なんの疑いもなかった。
意外な食品で発生した食中毒事件。
女の子は呼吸筋まで毒素に侵されたため回復に時間がかかった!
無事退院することができたのはなんと入院してから1年後だった。
"定番の2日目のカレーも危険?"
そして家庭で作るあの定番メニューにも思わぬキケンが!!
それは2日目のカレー。
前日から置いておいたカレーを温め直して食べる。
「味がよくしみて昨日よりおいしい」と 感じる人も多いと思うが、
食べた後、激しい腹痛や下痢の症状が出ることがある。
実は2日目のカレーには「ウェルシュ菌」という菌が大増殖している可能性がある。
ウェルシュ菌は、臭いや味には変化を及ぼさないので気付かずに食べてしまう危険性が高い。
カレーは火を通してあるから安心と思っている人も多い。
しかしこの菌も熱に強い!!
100℃だとなんと4時間加熱しても完全には死滅しないという。
カレーを食べ終え、残りを放置しておくと、
菌がいた場合、45℃前後に温度が下がった時に菌が大増殖をはじめる。
そのまま一晩置けば鍋の中は菌だらけ。という可能性もあるのだ。
カレーの他、スープや煮物など、大きな鍋で作る料理には注意が必要。
保存する場合、小分けにし、冷蔵もしくは冷凍すれば菌の増殖を防ぐことが出来る。