川のレジャーに潜むキケンな菌
2007年9月。沖縄本島、北部の町。
県内の大学で准教授を務める、張本文昭さん。
専門は野外教育。沖縄で自然体験を指導していた。
その日も沢登りの実習。
大きな事故もなく、楽しんだ一行。
しかしこの沢登りがきっかけで、彼は恐ろしい病を発症する。
眼球が黄色に染まり...目が激しく充血。
その姿はまるでゾンビ!
悪化すると、多臓器不全で死に至る病だった。
その原因は思いもよらないものだった!
" 風邪のような症状も...命に関わる感染症だった"
張本さんは、沢登り実習のあと、数日間は何事もなく過ごしていたが、
10日ほど経った後、前日の晩からどこか体がだるい。
大学の保健室へ行くと...38℃を超える高熱があった。
寝ていればよくなる、この時はそう思っていた。
しかし、熱は一向に下がらず...それどころか頭痛や関節の痛みまで。
症状からインフルエンザとも思われた。
たまらず近くのクリニックへ。
しかし...風邪と診断され、解熱剤が処方された。
だが、その後も眼球が痛み、そして充血。
そのまま救急病院へ。
風邪に似ている張本さんの症状。
しかし...鼻水や咳はない。
それを見て医師にある病が浮かんだ。
最近沢登りをしたという事と、足にできた傷...。
実はあの日、学生と合流前につまずいて転び、左足に擦り傷を作っていた。
傷は大したことが無かったので、そのまま沢登りを続けたという。
こうした状況を聞いて、医師はレプトスピラ症だと診断した。
レプトスピラ症とは初期に発熱、頭痛、関節痛など風邪のような症状を発症し
悪化すると、『ワイル病』と呼ばれ、肺出血や腎機能障害、
そして眼球の充血などの症状が現れる。
さらに特徴的なのが...「黄疸」。
レプトスピラ菌は肝臓の細胞に影響を及ぼす。
菌により、肝細胞が障害を受けるため、黄疸になってしまうのだ。
髄膜炎や多臓器不全を起こすと死亡することも。
そして、その原因となるのが...レプトスピラ菌という細菌。
この細菌は、ある場所に潜んでいることが多い。
それが...動物の体内。
ネズミや犬などの哺乳類がレプトスピラ菌を保有。
そして沖縄でよく見られる哺乳類といえば...マングース。
マングースもレプトスピラ菌を媒介する動物のひとつ。
直接触れたり、排泄された尿に接触することで、皮膚の傷や鼻や口などの
粘膜からヒトにも感染してしまう。
" 川の水と足の傷...恐ろしい感染原因"
しかし張本さんは沢登り中にマングースと遭遇はしていなかった。
実は実習の2日前、沖縄には台風11号が近づき、天候は大荒れ...川は増水した。
このとき、マングースの尿など、レプトスピラ菌を含んだ森の中の土が一緒に川の中へ。
増水した川。つまずいて出来た傷。
そんな状況からレプトスピラ菌が彼の体内に侵入したと思われた。
張本さんにはレプトスピラ症に効果的な抗菌薬が投与され、5日間の入院となった。
重症化すると死をも引き起こすという「レプトスピラ症」。
河川でのレジャーが盛んな夏から秋にかけて感染者が増える。
沖縄では去年、川遊びをした子ども達の集団感染も。
川に行った後、咳・鼻水が出ないのに、熱や体の痛みが続く場合には、
速やかに医療機関を訪れ川に行ったことを告げることが大切。
レプトスピラ菌には有効な抗菌薬があり、早期に適切な治療をすれば、
重症化を防ぐ事が出来る。
レジャーを楽しむためにも、「知る」ということが危険な感染症の大きな予防となる。