体が板のような女性
ある不思議な症状を持つ女性がいる。
まるで、マジックのように宙に浮いているような女性。
実は彼女、全身が棒のように固まり、曲げることができないと言う。
"症状が現れたのは11歳から"
仰天スタッフは、その女性に会うためインドネシアへ。
首都ジャカルタから飛行機と車を乗り継いで、2時間半。
人口1800人ほどの、セロレジョという村に到着した。
出迎えてくれたのは、スラミさん、36歳。
たしかにまっすぐ立っている。
スタッフは家の中に。
ゆっくり歩く彼女は、座ることも屈むこともできないという。
なので、普段はベッドの上で生活している。
固まった体は、これ以上自力で動かせない。
体を曲げることができないため、起き上がる時は家族の助けが必要となる。
この奇妙な症状は、11歳の時に右肩がひどく痛くなった事から始まった。
だんだんと右腕が動かなくなっていき、15歳になったら今度は右足が痛くなって、
同じように全く動かなくなったという。
さらに18歳で左腕も曲がらなくなり、22歳の時に体全体が固まってしまった。
それから14年。ずっとこの状態で生活している。
彼女の体をまるで棒のようにしてしまったのは、
「強直性脊椎炎」という病が原因だった。
"体が板のようになる「強直性脊椎炎」"
人体の脊椎は頸椎から尾椎まで複数の骨が連結して体を支えている。
強直性脊椎炎はそれぞれの骨の間を繋ぐ部分に強い炎症が起こり、
痛みやこわばり、倦怠感、発熱といった症状が現れる。
さらに、その患者全てがなるわけではないが、炎症が進行すると、
その部分が硬い骨となってしまい、骨同士が固くつながった状態になることがある。
炎症は脊椎に限らず、スラミさんのように骨盤や手足の関節など
全身に生じる場合があり、日本では国の指定難病になっている。
スラミさんの骨を見てみると、首の部分は骨と骨とが一体化している。
腰椎も、隣り合う骨同士が固まっていた。
現在、彼女が動かすことができるのは指と手首だけ。
強直性脊椎炎は現在、根本的に治す方法は確立されていない。
だが、運動療法や薬物治療によって痛みやこわばりの症状を改善したり、
病状の進行を遅らせたりすることは可能となってきた。
スラミさんの体は、痛みや熱さ冷たさなどの感覚はあり、
運動麻痺や、内臓器官の異常もない。
体が固まっている以外は現在特に悪い所はない。
とはいえ、歩行はバランスが取りづらく杖を使わなければ困難な状態。
さらに、足首も固まっているため常につま先立ちでの生活を余儀なくされた。
"それでも彼女は前向きに生きている"
彼女の1日の多くは、自分のベッドで過ごす。
外出もままならない彼女にとって携帯電話は、重要なコミュニケーションツール。
携帯電話でメールや、SNSを使って友達とやりとりをしている。
イスラム教は、通常体を屈めて祈る「サラート」が1日に5回あるが、
彼女の場合、立った姿で他の信者と同じようにお祈りをする。
そして、彼女にとって重要な意味を持つのが「歩く」という行動。
骨や筋肉が弱くなるのを防ぐため、唯一できる運動を怠らない。
散歩から戻ると、彼女はビーズ細工を始めた。
手先が器用なスラミさんは、なんとこれを立って行っている。
そして出来上がった作品は、友人や、近所の子ども達にプレゼントしているという。
いつも優しくしてくれる周囲へのお礼とのこと。
骨や筋肉が弱くなるのを防ぐため、運動を怠らないスラミさん。
実は彼女が住んでいる現在の家は、ご近所の人たちの寄付により建てられた。
曲がらない腕でも、柄の長いホウキを使って、毎日掃除。
家族に対し特に感謝するのは、お風呂とトイレ。
シャワーは妹に世話をしてもらっている。
また、トイレは自由に行けないこともあるためオムツで対処することもあるのだそう。
食事には、ある秘密兵器があった。
彼女が、手に取ったのは棒で長くしてあるフォーク。
立ったまま食事をする彼女にとっては必需品。
おかずは、ご飯を潰して、くっつけて...上手に口へ運ぶ。
家族の負担を軽くしたいという思いから自分で考えて作ったものだという。
小さい頃は、症状に悩んだ時期もあったスラミさん。
しかし、今は神様が与えた試練だと前向きに考えられるようになった。
体が固まってしまう病と闘うスラミさん。
だが悲観的にならず、優しい人たちへの感謝を糧に力強く生きている。