なぜ男は支配された?
イギリスに住む男性、イアン・マクニコル。
体には焼けただれた痕や痛々しい傷。顔面にも生々しく残っている。
彼はある事件の被害者として注目を浴びた。一体何が起きたのか?
"女性との出会いが人生を変える"
2006年、イギリス・ウルヴァーハンプトン。
年金受給者の調査が仕事のイアンは町から町を回る忙しい毎日。
その最中だった。
外回りをしている最中、周りに気を取られ歩行中の女性とぶつかった。
これがミッシェルと名乗る女性との出会いだった。
ケガのことを考え一応メールアドレスを交換したイアン。
その数日後、ミッシェルから誘いの連絡があった。
イアンは44歳にして独身、恋愛経験もほとんどなく真面目だけが取り得の男性。
そんなイアンに、ミッシェルが猛烈にアプローチし、
二人は付き合い始めるとすぐに同棲。
するとミッシェルの様子が少しおかしい。
ミッシェルはイアンが自分以外の誰かと電話をすると、機嫌が悪くなり早く切らせた。
彼女に嫌われたくないと思ったイアンはとにかく謝った。
しかし、その後もミッシェルはイアンが携帯電話で話していると、それを奪い通話を切った。
そのうち友人からの電話はパッタリ来なくなってしまった。
そんな時、イアンにある出来事が。
先日、彼女が珍しく家に友人を呼んでいた。
その友人と話すイアンを見てミッシェルは嫉妬したのか、
友人が帰った後に急に怒り出し、イアンに暴力を振った。
次の日、顔を腫らして職場に行ったイアン。
同僚には、女性に殴られたなんて恥ずかしくて言えなかった。
それに、彼女のやきもちも自分を愛するがゆえのはず。
そう信じていたイアンだったが、これが地獄の始まりだった。
"ただ暴力に耐える毎日"
家に帰ると、イアンは何の前触れもなく酒のボトルで顔面を殴られ歯が折れた。
帰りが遅いから誰かと浮気をしていたんじゃないかとミッシェルは言いがかりを付けた。
その後も言葉や暴力は激しくなるばかり。一度キレると何をしでかすか分からない。
イアンは何をされても耐えるだけ。逃げられなかった。
こんな体では、会社には行けない。
イアンはしばらく仕事を休んだ。
だが、そんなイアンに対しミッシェルは容赦なかった。
お金の管理は全て彼女。
仕事にも行けず自由に外出もできなくなったイアン。
24時間、ミッシェルの目の届く範囲での生活を強いられた。
まれに、外出を許されることもあったがそれは1人で買い物をする時くらい。
しかし、ミッシェルの監視は続く。
常に携帯電話が繋がっていて、会話が途切れることは許されない。
買い物中も携帯電話で喋りながら歩き回る。顔中、傷やアザだらけの男性。
その異様な光景を見て、彼に声をかける人は誰もいなかった。
思考力は低下、心身共に疲れていても勝手に眠ることもできない。
83キロあった体重は付き合って1年で64キロにまで減った。
鉄の棒でもハンマーでも殴られ、いつ人生を終えても良いとさえ思っていたイアン。
しかしようやく、運命が変わる時がやって来た。
"隣人の通報で地獄の日々から抜け出す"
その日、イアンは携帯電話を渡され、1人外へ買い物に出かけた。
するとすぐ近くに住む男性がイアンに声をかけてきた。
男性は以前からイアンの家から漏れ聞こえるうめき声を耳にしていた。
イアンの顔に刻まれた痛々しい傷を見た男性はただならぬ事態を察知した。
そんな時でもミッシェルからの電話は鳴りやまなかった。
「病院に行った方がいいんじゃないか」とその男性は声をかけたが、
ミッシェルの監視を恐れたイアンは、心配する男性を振り切ってその場を去った。
そんな状況を見て男性は警察へ通報した。
通報を聞いた警察はイアンの家を家宅捜索した。
静まりかえった家の奥にいたのは...血だらけのイアンだった。
こうして交際から2年、同棲して1年半。イアンの地獄の日々がようやく終わった。
壁や家具に染み付いた無数の血痕。イアンの体には傷ややけどの痕。
骨折しながら放置して癒えた痕が何箇所も確認された。
ミッシェルは暴行・監禁などの罪で懲役7年の刑となった。
現在は彼女といた町から遠く離れた町に住んでいるイアン。
足が不自由なのは暴行を受け続けた後遺症によるもの。
長時間立っているのは難しいという。
顔には今も残る痛々しい傷の痕。
今でも背後で何か音がしたときはパニックになる時もあるという。
防犯ブザーは万が一、1つが壊れても大丈夫なように2つ付け、
ドアは壊されないように通常の2倍の厚さに作り直した。
しかし、どんなに頑丈な家に住んだとしても、彼女に対する恐怖は
消えることはないとイアンは語っている。
現在、仕事の傍らイアンは同じようにDV被害にあった人たちのカウンセリングなど
ボランティアも行っているという。