放送内容

2018年2月 6日 ON AIR

極寒だから助かった衝撃の真実

長崎県佐世保市。山間の家に暮らす、小川さん一家。
その長女、望さんは幼少期に絶体絶命の危機に瀕していた。


一時は生存確率0%と言われた望さん。
そんな命が助かったのは、極寒だからこそ起きた奇跡だった。


やんちゃな少女が極寒の池の中へ


ある2月の午後。
この日、佐世保市の山間部は雪が積もっていた。


花の農家を営んでいた小川さん一家の父、和夫さんは家で業者と待ち合わせをしていた。
活発でやんちゃだったまだ幼い望さんは、そんな父のもとへ。


望さんがいたビニールハウスから家へは、30m程。
父親に向かって一直線の移動...のはずが、突然向きを変えた。
その様子は大人たちからは見えていなかった。


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望さんが向かったのは、庭にあった直径3m程の池。
大人の膝くらいの深さで、氷が張っていた。


それを見た望さんは、氷に興味を持ってしまった。
子どもながらに遊んでいると、足を滑らせ池の中へ!
父親は、そんな望さんからわずか数メートルの所にいたが、娘に気づかなかった。


望さんは、うつ伏せで浮いていた。
誰にも気づかれず時間だけが過ぎていく。
心肺停止後の救命率は、1分ごとに約10%ずつ下がっていくと言われている。


5分経ち...そして10分経っても気づかれない。
そして、業者とのやりとりが終わった父親は、望さんが落ちた池を離れハウスの方へ。


家族と合流したところで、ようやく望さんがいない事に気がついた。
このとき池に落ちてから、なんと30分近く経っていたと思われる。
田舎で人通りも少ない。思いつく場所は限られていた。


家族が望さんに気付いたのは、池に落ち、息が止まって30分後。
全身が変色し、硬直していた。
家族は、望さんはもう「死んでいる」と思い、ただ泣き叫ぶことしかできなかった。


1時間以上も気付かず。命は助かるのか?


慌てふためく家族。
その時、父親の和夫さんが我に返り、母親に人工呼吸をするように言った。
実は母親のツヤ子さん、結婚するまでは看護師だった。


母親のツヤ子さんは娘のために落ち着きを取り戻し、救急車を呼んだ後、
娘の気道を確保。しかし呼吸も脈もない。
冷えた体を温めようと毛布で体を覆い、濡れた服を脱がせ、
心臓マッサージと人工呼吸を行った。


とにかく続ける事が大事だった。
そして、お湯でタオルを温め、それを心臓に当てながら続けた。


心肺蘇生を試みてから10分経過。
家は山間部のため、救急車は簡単には来ない。
刻々と過ぎていく時間。とにかく信じて続けることしかない。


そして必死の蘇生術も30分が経過し、ようやく救急車のサイレンが聞こえてきた。
するとその直後、口から水を吐き出した望さん。
それと同時に肌の色が一気に戻った。
わずかながら脈が戻っていた。非常に弱いが、自発呼吸が戻ったサインだった。


池に落ちてから1時間が経っていた。
望さんを乗せた救急車はすぐに設備が整った病院へ。
一度心臓が止まったときから、1時間半が経過。かろうじて心臓が動いている状態だった。


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人間は、心臓が止まり、血液が循環しなくなると、まず脳へのダメージが進む。
脳は、一度機能を失うと極めて再生しづらい。


そうなると、心臓や他の臓器が生きていたとしても、
脳に重い障害を残すか、最悪の場合はそこから死に至る。


医師は、脳細胞の死滅を遅らせるための薬剤を数種類投与した。
この薬剤は全身麻酔の状態になるため、人工呼吸器が必要になる。
そして、この治療法は他の臓器のダメージを考え、3日が限度とされる。


つまり4日目以降に、意識が戻るかどうかの勝負だった。
しかし医師からは、もし意識が戻ったとしても、長い時間心臓が止まっていたので、
脳の障害は避けられないと告げられていた。


望ちゃんが陥るかもしれない事態とは、「蘇生後脳症」。
心肺停止により、脳に酸素が行かなくなることで、
蘇生後でも脳障害が出てしまうというもの。


心肺停止状態が5分を過ぎると、蘇生後脳症が起きるといわれる中、
望さんは30分以上、心肺停止の状態だった。


極寒ならではの奇跡の生還


そして運び込まれてから4日が経過した運命の日。
投薬を終え、医師にできることはもうない。


あとは望さんの生命力次第だった。
家族は愛する娘の生きる力を信じ、必死で呼びかけた。


望さんは大人のマネをするのが大好きなやんちゃな子。
親が飲むコーヒーを自分も飲みたいとよく言っていた。


その事を思い出した両親は、元気になって一緒にコーヒーを飲もうと呼びかけた。
すると望さんから反応が...


望「ママ~、コーヒー飲みたい」


なんとしゃべった!しかもハッキリと!!
この後、望さんは後遺症も残らず退院することが出来た。


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これぞまさに奇跡だった。
望さんは冷水が気管や咽頭に直接触れることによって
迷走神経反射で心臓が止まってしまう、いわゆる心臓麻痺だった。


氷の張った冷たい水に落ちた事で、一瞬にして心肺が停止し肺に水があまり入らなかった。
さらに冷水に浸かったことで、急速に体が冷蔵されて、脳が保護されたのだという。


体が小さかったため、一気に体温が下がり冷蔵状態に。
体温が脳の保存に適した温度にたまたまなったことで、脳細胞の破壊を
遅らせることができたと思われた。


極寒の池だったから、そして体の小さな子どもだったから起こった奇跡だった。


月日は流れ、あれからおよそ30年。
望さんは現在結婚し、2人の子どもに恵まれている。


ちなみにあの池は、今も当時のまま。
あの事件のあと、望さんが成長するまでは柵を作っていたのだという。
まさに極寒ならではの奇跡の生還だった。

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